・豊年や葛城の神の言問ひて ・古服に妻の手紙や螻蛄鳴けり |
大山利雄(56期) |
一句目、「言問ふ」は豊年の村への神の来訪であろう。「葛城」は「雨乞い」の神の山。 二句目は、妻への深い憂愁の思い。心細げに地中で鳴く「螻蛄」が哀れを誘う。 |
・峠茶屋ふと見上げれば秋の雲 ・天高し五輪のメダル輝けり |
峯 和男(65期) |
一句目、晴れた「峠の空」、見上げれば雲はすでに「秋」である。 二句目、秋天の下、リオで取得の「メダル」は四十一個。「メダル」だけでなく「心の輝き」も。 |
・秋海棠はげしき降雨無情なる ・夏逝くや象の花子の面影を(井の頭動物園象の花子お別れ会) |
大塚ます子(65期) |
「秋海棠」の花に今年の「雨」は「情け容赦」もなく、「無情」である。花に「秋」の哀しみを感じる。 二句目は象の「花子」の死。去り行く「夏」に象の死を重ねた佳句。 |
・わたくしの命透きくる虫のこゑ ・大阪は八百八橋星まつり |
梶本きくよ(65期) |
「透きくる」は空間的にも精神的にも透き間を通して来ること。「虫のこゑ」に佇む「わたくし」に透明感あり。 二句目は、大阪の町への郷愁、水の都大阪の七夕が懐かしい。 |
・滔々と涸れることなき天の川 ・病室の小さな窓に盆の月 |
三上 陞(65期) |
「天の川」の涸れることのない流れ。詩的な「虚」が美しい。 二句目は「スーパームーン」と異なり、病室の窓から見える「盆の月」は黄色く小さいのである。 |
・訪へばただ秋風の妙義山 ・廃校の鉄棒に舞ふ赤蜻蛉 |
福島有恒(68期) |
上州の妙義山。「訪ねて行く」作者に待っていたのは飄々とした「秋の風」。「ただ秋風」に寂寞感と失望感が残るのみ。 第二句、漂う「赤蜻蛉」も「廃校」ゆえに哀しい。 |
・仮の世にうかと長居や糸瓜垂る ・秋暑し銀座に異国人あふれ |
横山民子(69期) |
「仮の世」と「うかと長居」の照応の巧さ。「糸瓜垂る」はやや饒舌、「糸瓜棚」。 二句目は昨今の「銀座」の情景。「秋暑し」が「異国人あふれ」と巧く対応している。 |
・かなかなや人の止まれば鳴きやみて ・淀べりの風に舞いたる赤とんぼ |
貞住昌彦(69期) |
「かなかな」は「蜩」。句は見かける情景であるが、「夏」の終わりを告げ「秋」を呼ぶ蝉声と知れば寂寥感が生れる。 二句目は、「赤とんぼ」に「淀川」の情趣が感じられる。 |
・草紅葉燧聳えて空青し ・今年またここに小走り鶫かな |
橋爪信篤(79期) |
「燧」は「燧ケ岳」である。秋の吸い込まれるような「青空」、池塘の「草紅葉」、それが「尾瀬の秋」である。 二句目は「今年また」に秋の尾瀬を愛する作者が見えて来る。 |
選者紹介: 大隅 徳保(オオスミ トクホ、本名:トクヤス) S10 大阪生 北野高校65期、S32神戸大(経営)卒、 同年 住友金属工業入社、大阪チタ二ウム、Sumitomo SiTiX役員(在SF) S50「沖」、S62[門]入会、「門」賞受賞、自選同人、 日本文藝家協会、俳人協会、国際俳句交流協会 各会員 句集「抜錨」(H15)、「季語の楽しみ」(H19)、「歳時記の楽しみ」(H21) 「風と雨の歳時記」(H24)他 |
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