東京六稜俳壇 第1回 -Web版- 2016年秋

東京六稜俳壇

・豊年や葛城の神の言問ひて
・古服に妻の手紙や螻蛄鳴けり
大山利雄(56期)
一句目、「言問ふ」は豊年の村への神の来訪であろう。「葛城」は「雨乞い」の神の山。
二句目は、妻への深い憂愁の思い。心細げに地中で鳴く「螻蛄」が哀れを誘う。
・峠茶屋ふと見上げれば秋の雲
・天高し五輪のメダル輝けり
峯 和男(65期)
一句目、晴れた「峠の空」、見上げれば雲はすでに「秋」である。
二句目、秋天の下、リオで取得の「メダル」は四十一個。「メダル」だけでなく「心の輝き」も。
・秋海棠はげしき降雨無情なる
・夏逝くや象の花子の面影を
(井の頭動物園象の花子お別れ会)
大塚ます子(65期)
「秋海棠」の花に今年の「雨」は「情け容赦」もなく、「無情」である。花に「秋」の哀しみを感じる。
二句目は象の「花子」の死。去り行く「夏」に象の死を重ねた佳句。
・わたくしの命透きくる虫のこゑ
・大阪は八百八橋星まつり
梶本きくよ(65期)
「透きくる」は空間的にも精神的にも透き間を通して来ること。「虫のこゑ」に佇む「わたくし」に透明感あり。
二句目は、大阪の町への郷愁、水の都大阪の七夕が懐かしい。
・滔々と涸れることなき天の川
・病室の小さな窓に盆の月
三上 陞(65期)
「天の川」の涸れることのない流れ。詩的な「虚」が美しい。
二句目は「スーパームーン」と異なり、病室の窓から見える「盆の月」は黄色く小さいのである。
・訪へばただ秋風の妙義山
・廃校の鉄棒に舞ふ赤蜻蛉
福島有恒(68期)
上州の妙義山。「訪ねて行く」作者に待っていたのは飄々とした「秋の風」。「ただ秋風」に寂寞感と失望感が残るのみ。
第二句、漂う「赤蜻蛉」も「廃校」ゆえに哀しい。
・仮の世にうかと長居や糸瓜垂る
・秋暑し銀座に異国人あふれ
横山民子(69期)
「仮の世」と「うかと長居」の照応の巧さ。「糸瓜垂る」はやや饒舌、「糸瓜棚」。
二句目は昨今の「銀座」の情景。「秋暑し」が「異国人あふれ」と巧く対応している。
・かなかなや人の止まれば鳴きやみて
・淀べりの風に舞いたる赤とんぼ
貞住昌彦(69期)
「かなかな」は「蜩」。句は見かける情景であるが、「夏」の終わりを告げ「秋」を呼ぶ蝉声と知れば寂寥感が生れる。
二句目は、「赤とんぼ」に「淀川」の情趣が感じられる。
・草紅葉燧聳えて空青し
・今年またここに小走り鶫かな
橋爪信篤(79期)
「燧」は「燧ケ岳」である。秋の吸い込まれるような「青空」、池塘の「草紅葉」、それが「尾瀬の秋」である。
二句目は「今年また」に秋の尾瀬を愛する作者が見えて来る。

 

大隅徳保さん 選者紹介:
大隅 徳保(オオスミ トクホ、本名:トクヤス)
S10 大阪生
北野高校65期、S32神戸大(経営)卒、
同年 住友金属工業入社、大阪チタ二ウム、Sumitomo SiTiX役員(在SF)
S50「沖」、S62[門]入会、「門」賞受賞、自選同人、
日本文藝家協会、俳人協会、国際俳句交流協会 各会員
句集「抜錨」(H15)、「季語の楽しみ」(H19)、「歳時記の楽しみ」(H21)
「風と雨の歳時記」(H24)他

 

東京六稜会では、皆様の俳句を募集しています。
<募集要領>

応募句 当季雑詠 3句、優秀句を掲載
二重投稿はご遠慮ください
応募方法 メールまたは郵送にて(できればメールで)
①作品、②氏名(卒業期)、③電話番号、④メールアドレスまたは住所を明記
メール送信先:
haiku@tokyo-rikuryo.com
郵送先:
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-8-2 鉄鋼ビルディング8階
㈱東京金融取引所気付 東京六稜会(俳句係)
締切 第2回(春季号)は平成29年2月15日