実はこの博物館を作るときに何カ所か候補地があったんです。ひとつが神戸の六甲アイランドのあたり、もうひとつは西宮の甲山森林公園のあたり。最終的にこの三田に落ち着いたわけですが、ここは1988年の博覧会(21世紀公園都市博覧会ホロンピア'88)の会場跡地なんですね。その時のメインの建物が、今いるこの棟でして。右手に見えてる収蔵庫とか研究室のある棟が増築したもの。あと道路の向こう側に絶滅危惧種の植物を栽培してる温室とかがあります。
ですので、もともとが博物館として設計されたものじゃないんで、ちょっと使い勝手が悪くってね。建築構造上の問題が非常に多いんです。例えば、重たいものを置けないとかね。博覧会の建物だから床もそんなに重量をみてなかったんですね。だから、化石のごっつい奴とか地層を剥ぎ取った奴とか…そうした大型標本は全部一番下のフロアに置くしかないんです。
屋上が実は人が歩いて渡れる陸橋のような構造になってまして、この博物館はその橋の下にぶら下がってるみたいになってますのでね。だから荷重とかの制限がいろいろあるんです。
来館者数は…まぁざっと言って年間10万人くらいですね。今、行政のいろんな所で「評価」をどうするかが問題視されてますけど、うちもどういう数字で博物館のパフォーマンスを評価するかっていうのが実は全然固まってなくて、これからその数字を作っていかんとアカンわけです。
単純に議会なんかでは入場者数の「多い/少ない」で施設の「良し/悪し」が判断されてしまうのかも知れませんけど、「入館者数=売り上げ」で評価されたんでは、とてもじゃないですけど公共施設の評価としては妥当とは思えません。もうちょっと…博物館のやっていることや存在の評価をですね、別の軸ででけへんやろかなぁと悩んでるんです。売り上げにハッキリ出てくれば…それに越したことはないんでしょうけど。それはたぶん…公共の施設じゃないと思うんですよ。公立学校なんかも同じ悩みじゃないですかね、やっぱり。
これからの時代、博物館もどうなるか分からないですからね、ホント。うちなんか県立の博物館でしょ。親会社である都道府県それ自体が今後どうなるか分からないじゃないですか。行政改革とかいう話になりますしね。そうすると…ただでさえ「ハコモノ」は一番真っ先に必然性を問われるでしょうからね。今後、中身をどうやって行くかを真剣に考えていかないといけないんです。
これは我々の反省なんですけどね。うちの博物館だけじゃないと思うんですけど…中学生から高校生にかけての層っていうのが極めて手薄なんですよ。だいたい博物館に来る客層っていうと、学校が遠足とか授業とか団体で来るんですね。小学生は親に連れられて来ることも多いです、家族客ね。ですから中学生・高校生あたりの年齢層…学校では文化部が低迷してるって話もありますけど…そこのところの層を博物館としても呼び込む仕掛けっていうのを、これから真剣に考えていきたいなって思うんですけどね。
「学校との乖離」は何とかしないといけないと思います。僕なんかもちょっと自分のことを振り返ってみて、やはり中学生・高校生時代に情報を得る場っていうと学校が大きなウェイトを占めたように思うんですよ。小学生なら「連絡帳」みたいな情報を得る手段があるのでしょうけど。中学生・高校生になった時に、とにかく博物館というものの存在を知ってもらうということが大事だと思います。そういう意味では、まず学校に言うて来てもらう、足を運んでもらう、目を向けてもらうっていうのが大きいのかも知れないですね。今年はちょっと僕もセミナーを充実させようかなと思ってます。
この博物館にもいろんな部にかなりの研究員がいるんですけど、今年から行革がらみで体制とか組織とかがガラっと変わりましてね。「もうちょっと真面目にやれー」言うて知事にハッパかけられて(笑)。大改革ですよ。
これ、広報のパンフレットですけどね。こんな…研究員の顔写真を出してやってるところ、まずないと思いますよ(笑)。内部でもかなり抵抗あったんですけどね。これ見たら一年間に誰がどういうセミナーやるか分かるようなってるんです。みんなそれぞれ出してくる写真が面白いでしょ。人によってね…セミナーに力注ぐ人もいれば、展示とかを頑張る人もいるし、いろいろなんですけど。それが一覧できるようになってます。こないだの企画展ではホタルを作ったんですけどね。大変やったなぁ、あれは。予算がないですからね、ぜんぶ自前で作らなアカンのです。LEDランプとか…電子部品を日本橋で買うてきてね(笑)。
正面の三角形の山の手前に「有馬富士」っていう山があって、時間があればまた一度行かれたら良いですが、そこに県立有馬富士公園というのが整備されたんですよ。その中に「三田市立有馬富士自然学習センター」っていう小さな博物館がこの春にできました。そこは完全にターゲットが子供…小・中学生、特に小学生なんですね。来年から「総合的な学習」も本格的に始まりますし、それを狙って学校の授業でも使ってもらえるように、週末はファミリーが遊べるように設計されてるんですけどね。向こうのほうが周囲が即自然なんで…たぶん遠足に行くのには向こうの方がええやろな、ここよりは(笑)。
たぶん強力なライバルになると思うんですけれども。そうなると、どうしても差別化していかないとね。向こうは小学生やけど、中学になったらこっちに来て貰おうとか…なんかそういう取引をしていかんとね(笑)。実際、うちの博物館の展示は小学生には難しいんですよ。もともと高校生以上をターゲットに作ってますんでね。ところが蓋を開けたら、やっぱり来るお客さんは団体の小中学生が多い。その難しさがあるんです。そのうえに、ご近所にあんなんができたら…たぶん向こうのほうが楽しいから流れて行くやろね。
クワガタの背中に乗れるようになってますから…是非、行ってください。そりゃあ子供が喜びますわ(笑)。実は、学習センターの展示や運営計画は、かなりの部分我々が全面的に協力して作ったんです。市役所にそんなノウハウはないですから。だからクワガタムシの名前も「つよしくん」だったりする。おかげで、逆にうちのアイデンティティも明確になったんやないかと思います。