とにかく、遊び盛りは戦争の真っ只中。連日の空襲で、二人の弟の手を曳いて焼夷弾の降る中を天竺川の堤防へ逃げたことも。食料はおろか紙もインクも欠乏の中、児童小説の新刊など近くの本屋ではお目にかかれない状態。
友達のお家の立派な書庫(生まれて初めてこんなとこに入ったんです)に、古めかしい金背文字の世界の児童文学全集や童話全集が並ぶのを見て震えました。次から次に風呂敷に包んで借りて帰り、夢中で読んでいるうち、本というか物語が大好きになりました。
持ち主の友達は「うち、そんなん読まへん」宝の山も身近で見飽きると値打ちがないんですね。私の母は、本なんか読まずに勉強しなさいというけったいな親でした。
わが家の文学の気配は、父の坪内逍遥訳のシェークスピア全集ぐらい。何せ、玩具も本も欠乏の折、退屈して読むものもないと、ルビ振りまくりを幸い、『真夏の夜の夢』などを面白がって読んでました。そして、そのうち神風が吹いて日本が戦争に勝つと信じている、けなげな軍国少女でした。