凸版印刷(株)4代目社長 山田三郎太氏 |
ぼく、『アメリカンフットボールの近況と戦力の培養』について、この人にご進講申し上げたことがある。「アメリカンフットボールいうのは質×量を戦力といいます。戦力がないとダメです。要するに、いいセールスマンが数多くいるというのが販売網の強化に繋がるんです。それには、いいフォーメーションを作らないとダメです。日本と外国を結んで、営業が一体となってチームワークを取らないといけません。保険の外交員のように縄張り争いをしていてはいけないのです。それぞれの持ち場の特殊性を、フレキシブルに統制取らないといけません。それともう1つ、一番大事なことは会社のためにがんばるガッツです。私にはあります」そう、ご進講申し上げた(笑)。
そしたらね…偉い人やった、この人。昭和32年に「営業第一主義」というのをホンマに掲げてくれたわけ。今でこそ普通やけど…当時、いい会社というのは営業は形だけ、鉄鋼産業なんかも名前だけで。基幹産業は、する必要がない。凸版印刷も紙幣が印刷できなくなって、いち早く営業を中心にするフォーメーションに変貌したわけ。ぼく、嬉しかったよ。みんなが言うてたのかも知れんけど、アメリカンフットボールのアホみたいな話に耳を傾けてくれて、ぼくの論文読んで実行に移してくれた。そう思うと、こっちも「この人のためにやらなあかん」と思うしね。
とにかく、地についた能書きと実行あるのみ。だから営業というのは誰でもできる、アメリカンフットボールの特性活用と一緒なわけ。誰でもできる、だから頑張れ!…そういうて営業の会議ではホラを吹くの(笑)。檄を飛ばすわけや。
だけど営業も勉強はしないとダメ。「もみ手」してたらいいというものではない。まず「計画」。市場調査、景気動向予測、信用調査に始まって販売計画、行動計画を練る。ここで目標を設定したら次に「実行」。それはもう汗と涙の連続や。訪問して見積り。受注契約したら進行管理や。納品して初めて売上げがあがる。それから代金回収。得意先に行ってチヤホヤ言うてるのが営業と思ってる奴はアカン。銀行がバブルで失敗したのも、殿さん商売で「泥と涙」知らんかったからね。
「実績」も年次毎に見て行かなアカン。業績を評価して、必要に応じて報償・表彰。頭冷やして反省する…こういうことがホントは一番大事なんだ。
営業というのは頭と心と足を使う仕事。だから頭使わん営業は全然アカン。まだ訪問販売できる品物ならね…既製品を売るだけやから、そんなに頭は要らんかも知れん。要らんコトはないと思うけど、まだ楽なほうやね。でも、受注産業はダメ。凸版みたいな会社…1兆円売り上げるのに…10万円でも20万円でも注文を受ける。営業としては、そんな小口を受けてたら管理だけでも厳しいけれど…だけども、そういうものの積み重ねが1兆円になる。
3,000人の営業マンが1兆円売ると言うとエラいことですよ。一人当りいくら売上げがないといけないか。それでも「10万円なんて小っちゃい奴は邪魔くさいから…」いうてる奴は絶対アカンな。次の莫大な注文が逃げてしまう。タクシー乗ったら、660円(1メーター)で嫌な顔する運転手おる。それは運転手やから勤まるけども、タクシー会社の社長には絶対になれん。それと一緒でね。
ところで、仕事に失敗は必ずある、付き物や。失敗が言える会社でないとダメだし、失敗が言える人にならないとダメ。また、失敗を聞ける課長にならないとダメなんだ。ぼく、そんなん平気やし…毎朝ホウレンソウしっかりやってるからね。「あかんかった…失敗してしもた」言うたら、「そーか」と言うて課長がスグ親身になって相談にのってくれる。もちろん、あんまり失敗ばかりしてたらアカンよ。だけどね。一生懸命やってたら…そうあんまり大きな失敗はしないもんや。
ぼく、営業やってて失敗と反省の繰り返しだった。ものすごい失敗もした。ある大手スーパーのチラシを全部受けてて…一万円の値段を千円と間違ってしまった。ホンマは先方の担当者にも責任あったけど、印刷物として間違ったモンができてしまった。もっと高額やったかも知れん、とにかく一桁違ってたことは事実。
向こうは怒ってるわね。それで、偉い人のところへ責任者のところへ謝りに行った。その人の顔はいまだに忘れないよ。「こら、うちも悪い。分かった。とにかく店に通達する」そう言うて、その場で店に電話して「3個売って売り切れにせぇ」そう指示してた。ホンマに三個売ったんや、一桁違う値段で。それで売り止めにして「分かったけど、今度から気ぃつけよ」言われてね。ぼく、現場の担当課長と一緒に再発防止計画をいろいろ考えた。そうしたら「凸版印刷、水に流す」と言って堪忍してくれた。
計画は確かに大事。だけども汗と油も必要や。これは心と体が強くないといかん。それから…一番大事なんは反省や。しょうむない反省やったらサルでもする。同じするなら「いい反省」をしないと。営業で「失敗のない奴」いうのは…そら、あんまり仕事してない奴のことやから。はっはっは。
ぼく、社長に可愛がられたおかげで、関西勤務の時は大阪ガスだとか関西電力、住友銀行、阪急電車、カネボウ、松下電器…そら、ええ得意先ばっかり持たしてもらった。応援してくれてるからね、こっちも頑張って注文を増やしてもらう努力もした。通信販売の先駆け、千趣会なんかは自力で開拓した顧客のひとつ。そうやって7年で課長代理になった。かなり最短記録だと思うよ。
そら、ぼくも一生懸命やったからね。体力には自信あるし、朝から晩まで走り回った。小学校の時みたいに、ものすごく勉強もした(笑)。ちょっとゴマすって、頭下げて口のうまいこと言うて営業できると思ったら大間違い。男前で口が達者いうても、ボロはじきに出てしまうからね。
それと、やっぱりスポーツと一緒で商売にもリズムがある。自分が真剣に一生懸命やって成功すると「自信」というのがつく。自信。「信は力なり」と言うけど…自信持ってるから「私はこう思います」とハッキリ断言できる。それが間違ってるかどうかは、また別の問題で。そうしてると自然に目も利くようになってくるわけ、洞察力もね。だから、とにかく10年くらいは…(学校は3〜4年やけど、男は死ぬまで勤めるわけやから。少なくとも50年くらいは給料もらうわけやから)…脇目もふらず頑張らなアカン。
とにかく10年間頑張る。いくら北野が自由やへちまや言うても、自由もへちまも実際ない。会社のためにエンヤコラで…10年間は働かなアカンよ。それで10年経ってエンヤコラ働いた奴が、課長や部長になれるんや。「オレ…会社入って主任になったら頑張る、課長になったら頑張ります」そういう輩たくさんいるけど。あはははは。そんなん会社が課長にするワケないよ。
だいたい今や市場の拡大と需要の多様化が進んで、営業マン個人にとってみれば、需要はもう全く無限大。例えば、凸版印刷で1兆円売ってると言っても、市場は8兆円あって絶えず大きく変化している。だから他社のもんは皆ターゲットになる。ま、会社には限界あるけど、一人のセールスマンにとってみたら、もうこれは全く無限大なわけだ。だから、課長になっても部長になっても、役員になるまでは一生懸命やれ、と。役員になったら視野を広くもって、社員が働き甲斐のあるように遊んでたらいい。
絶えず研鑚努力をした自信と誇りがなかったら…こんな乱降下の市場に立ち向かっては行けない。だから、ぼく講演を頼まれたら必ず「セールスは日々勉強の積み重ね。販売の拡大は永遠の課題やと思え」そう言うことにしてる。
むかし『悲しきはセールスマン』という本が出て、大ヒットセラーになった。だけどぼくは「楽しきはセールスマン」と言ってずっとやってきた(笑)。