またまた最初に断っておくが、このエッセイにおける「スイス人」とは、「ジュラのスイス人」像であるので、必ずしもスイス人全体に当てはまらないかも知れない。
スイス人は、概して、散歩や山歩きを愛している。と言っても、専門店で山登りグッズを買い込み、重装備で「さあ、登山をするぞ! ○○山に登るんだ!」という意気込みは感じられない。ちょっとその辺に行ってくるわという気軽さでホイホイ出かけるのである。 義父母の例を紹介しよう。既に隠居の身の彼らはスイスの南西部、ヴァレー州での山歩きを生きがいとしている。ジュラからヴァレーまでは車で片道3時間近くかかるので、1週間単位で借りられるアパートを予約してから行っている。彼らは不動産業者が仲介している、やたら高いシャレーなどには泊まらず、友人知人が「お友達値段」で貸してくれるアパートが空いている時を狙って行く。
ヴァレー泊まりの時は、やはり「小旅行」。多少気合は入っているが、地元ジュラでは、フットワークも軽く、天候の良い時は、ほぼ毎週山や森林の散歩に出かけている。彼らの持ち物の中には、たいてい、パンとソーセージが入っている。ジュラの各市町村が管理する森林には公共のピクニック場があって、火さえ起こせば、簡単にバーベキューができるからだ。お腹がすいたら施設を見つけて火を起こし、持参してきた食べ物を焼く。施設がなくても、石を円形に積んで枯れ木を拾って火をつけると、見事な焚き火となる。木の積み方にもコツがあるらしいから、長年の経験が物を言うのだろう。自然の真っ只中でほおばるソーセージは、たとえ安物でも、多少焦げていても、屋内より数倍美味しいに決まっている。
日本人が遠足で弁当を持っていき、ビニール風呂敷の上できちんと座って食べるのとはまた趣が違う。スイス人は、自宅で手をなるべく煩わせず、購入した食品をそのまま焼き、少々歪な岩だろうが倒れて腐りかけた木の上だろうが、平気で座るか、座れそうなところがなければ立ったまま食べる。野外では無礼講状態である。 この法則に忠実にのっとっているスイス人は、とにかく野外での食事が大好きだ。大阪に比べて日照時間は確実に少ないかと思われるが、過ごしやすい晴れた夏の日は、必ず屋外で食べる。庭がない家は、バルコニーで。とにかく外気に触れていたいのだ。ちょっとお金をかけて、本格的なバーベキューの道具や鳥の丸焼きができる器具を買う家庭もある。それだけ使う頻度が高いということなのだろう。
また、何かの式典や結婚式のアペリティヴも、季節を問わず、野外で催されることが多い。寒がりな私、冬の野外アペリティヴ出席は恐怖に近いものがある。しかし、グラス片手にハムやチーズの切れ端を摘みながら歓談する楽しさを優先してしまう。 この連載を執筆している今は12月。平均気温は0度以下にまで下がっているが、気分の上では野外バーベキューをしたくてたまらなくなってきた!
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