Salut! ハイジの国から【第47話】 まえ 初めに戻る つぎ

ポラントリュイだより:
スイスグルメ話〜アジョワ名物編〜


 「アジョワ」(Ajoie)という地域名は全世界的には馴染みがないし、スイス人でも知らない人の方が多いかもしれない。しかし、その「知る人ぞ知る」アジョワは、一年に一度、ある行事に参加する人々により、異常なまでに人口が膨れ上がるのである。

 スイスのカレンダーを見ると、各日に聖人の名が記されている。11月11日は聖マルタン。聖マルタンは動物をいさめたり憑いた悪霊を払ったりしたことから動物の守護聖人としても聖別されているが、その日辺りの週末(11月の2週目の週末)、アジョワ地方は「聖マルタン祭り」に突入し、豚料理一色に染まる。
 この週末に備え、各農家は多くの豚を屠殺する。祭りの由来は聖人というよりも(豚自身は聖人の恩恵をちっとも受けていない!と嘆いているだろうか)、元々はこの時期に農家は収穫を終え、長い冬に備えて食べ物の貯蓄準備に入ることから来ているそうだ。干し肉やソーセージなど長期間置ける加工食品を作る。大切な命の源の豚君には犠牲になってもらうが、頭から足までしっかり食べてあげる。

@フリスビーにしても大丈夫?
回転させても落ちない、パテのゼリー固め
 この週末は、聖マルタンのための特別コースメニューを用意するレストランや特設会場がほとんどだが、聖マルタンの「メッカ」と呼ばれるシュヴネ(Chevenez)村に行く人は予約をした方が無難である。本式のメニューでは10数品目あるが、シュヴネ村の特設会場ではその半分。地元アクロバットチームによるダンス・ショーや、バンドによる民謡演奏(といっても日本と比べるとかなり賑やか)付きである。半・メニューと言っても、小食の日本人には多いぐらいである。私達が食した皿をご紹介しよう。

 まず、豚の頭を煮込んで出た汁を固めたゼリーに包まれたパテ(写真@)。しっかり固められていて、ご覧のように皿を回しても落ちない!

A豚の血入りソーセージ
見て地獄、食べて天国かどうか?

Bソーセージの皮を切ると、中途半端に
固まった中身がどどっと飛び出してくる


C口直しのシャーベット
この年は「ケ・セラ・セラ」の歌詞が配られ全員で合唱
 二品目は、見た目グロテスク、味は・・・かなり癖があるが、「臓物大好き」な方は大丈夫だろう。豚の血のソーセージである(写真AB)。これだけでは辛い、という人のためにリンゴのコンポートが添えられている。私は最初は一口しか食べられなかったが、リンゴのコンポート(リンゴを小さく切って砂糖をお好みの量で入れ、長時間煮る)を大量につけて毎年少しずつ食べる量を増やしていき、去年、ついに一本丸ごと食べることができた!(私もやっと正真正銘のアジョワ人になった……笑)赤い野菜はテーブルビートと呼ばれる根菜の一種である。
 その後、口直しにシャーベット(アルコール入り)が出る。特設会場の舞台上ではミュージシャンが音楽を演奏し、食事の合間に客は歌って踊りまくる。こうして腹を少しばかり減らしてから次の皿に挑むのである。

Dこんな風に騒いでも踊っても椅子の上に立ち上がってもすべて
無礼講!踊らにゃ損、損!騒ぐだけ騒いだら今度は食べまくる!


 お次はドイツ語圏でもお馴染みの、塩漬けキャベツの千切り煮込み、シュークルット(ドイツ語ではザウアークラウト)。一緒に煮込む定番食品は、ラードと呼ばれる脂肪の多い肉、ロース肉、そしてアジョワ産ソーセージ(これがまた美味!)とじゃがいもである。
 デザートは店によって異なる。クリームブリュレという、日本でもお馴染みの、カスタードクリームをガスバーナーで焦がした一品は万人向けであろう。これだけの料理を食する間、大量のワインが消費されているのは、書くまでもない。酔っ払ってもいいように、特別バス(有料)が一晩中Chevenez村とポラントリュイの間を往復している。
Eシュークルットにたどりついた頃には、正直、
小さな私のお腹?はもう一杯。拷問の一品。
Fお腹が一杯でも「これぐらいの量なら大丈夫
かな?」と、つい食べてしまうクリームブリュレ。

 最後に、豚肉料理はあまり・・・という人のために、アジョワでは様々な魚も食べられていることをお知らせしよう。写真Gは、第38話「陶器の村、ボンフォル」でも紹介した池の傍に立つ看板であるが、このように、鯉やパーチ、カワカマスという魚や写真Hのようなマスのムニエルも名物である。レストランのメニューには、肉料理と並んでほとんどと言っていいほど、魚料理もお勧め品として出ている。スイス旅行中、肉に飽きた人は、是非アジョワでお試しあれ!

G本当にこんな色? と疑いたくなる、ボンフォル池に生息の魚達。この地方の名物は鯉のフライ。臭みもなく、からっと揚がっていて美味。

H我らがWebmaster谷さんをお招きした時。
サンチュルザンヌの川沿いのレストランで谷さんが食されたマスのムニエル。

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Last Update: Aug.23,2008