「アジョワ」(Ajoie)という地域名は全世界的には馴染みがないし、スイス人でも知らない人の方が多いかもしれない。しかし、その「知る人ぞ知る」アジョワは、一年に一度、ある行事に参加する人々により、異常なまでに人口が膨れ上がるのである。
スイスのカレンダーを見ると、各日に聖人の名が記されている。11月11日は聖マルタン。聖マルタンは動物をいさめたり憑いた悪霊を払ったりしたことから動物の守護聖人としても聖別されているが、その日辺りの週末(11月の2週目の週末)、アジョワ地方は「聖マルタン祭り」に突入し、豚料理一色に染まる。 この週末に備え、各農家は多くの豚を屠殺する。祭りの由来は聖人というよりも(豚自身は聖人の恩恵をちっとも受けていない!と嘆いているだろうか)、元々はこの時期に農家は収穫を終え、長い冬に備えて食べ物の貯蓄準備に入ることから来ているそうだ。干し肉やソーセージなど長期間置ける加工食品を作る。大切な命の源の豚君には犠牲になってもらうが、頭から足までしっかり食べてあげる。
まず、豚の頭を煮込んで出た汁を固めたゼリーに包まれたパテ(写真@)。しっかり固められていて、ご覧のように皿を回しても落ちない!
その後、口直しにシャーベット(アルコール入り)が出る。特設会場の舞台上ではミュージシャンが音楽を演奏し、食事の合間に客は歌って踊りまくる。こうして腹を少しばかり減らしてから次の皿に挑むのである。
お次はドイツ語圏でもお馴染みの、塩漬けキャベツの千切り煮込み、シュークルット(ドイツ語ではザウアークラウト)。一緒に煮込む定番食品は、ラードと呼ばれる脂肪の多い肉、ロース肉、そしてアジョワ産ソーセージ(これがまた美味!)とじゃがいもである。 デザートは店によって異なる。クリームブリュレという、日本でもお馴染みの、カスタードクリームをガスバーナーで焦がした一品は万人向けであろう。これだけの料理を食する間、大量のワインが消費されているのは、書くまでもない。酔っ払ってもいいように、特別バス(有料)が一晩中Chevenez村とポラントリュイの間を往復している。
最後に、豚肉料理はあまり・・・という人のために、アジョワでは様々な魚も食べられていることをお知らせしよう。写真Gは、第38話「陶器の村、ボンフォル」でも紹介した池の傍に立つ看板であるが、このように、鯉やパーチ、カワカマスという魚や写真Hのようなマスのムニエルも名物である。レストランのメニューには、肉料理と並んでほとんどと言っていいほど、魚料理もお勧め品として出ている。スイス旅行中、肉に飽きた人は、是非アジョワでお試しあれ!
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