2005年、3月中旬、日本船籍のタグボート「韋駄天(いだてん)」がマラッカ海峡で海賊に襲われ、日本人船長ら3人が拉致された。 幸い、船長らは数日後に解放されたが、同海峡では海賊事件が多発している。 同海峡は全長約800`、最小幅2・4`bで、 インドネシアとマレーシア、シンガポールの3国に接し、世界の原油輸送の半分が通過する海上交通の要衝だ。 最も恐れられているのは、大型船がテロ組織に乗っ取られ、シンガポールなど大都市の港や石油備蓄基地などに船ごと突撃する自爆テロが起きる危険性だ。 このため同海峡のテロ対策に世界の関心が集まっている。 さて、"海賊"とはどういう人が行っているのか? 幼いころ、「小さなバイキング ビッケ」というアニメ番組がテレビで放映されており、毎回、楽しみにしていた。 そのころ私は海賊というのは昔話とか物語の世界の話であって、この世に実在するとは思っていなかった。よもや30数年後に実際の海賊に面会しようとは。 実際に会って話した海賊は普通の船員が生活に困って所業に及んだだけで、かつて思い描いた蛮人のイメージとは違っていた。
事件は昨年2月、ヤシ油を積んだ台船とタグボートを刃物で武装した海賊12人が乗っ取った。被害船の船員らは近くの島々で解放されたが、ボートと積荷の被害は2億円を超えた。 主犯4人は奪ったタグボートなどで逃げ、残り8人は乗ってきた小型船が故障して動かなくなって水上警察に逮捕された。
操縦役を務めた男性(38)は船員歴18年。約2年間、船の仕事がなく、乗り合いタクシーの運転手などをした。
1日百数十円〜600円の収入で、5歳と1歳の息子を抱えて月2500円の家賃を払うにも困った。家主も船乗りだったので理解を示し、滞納を大目に見てくれた。
別の男性(32)は数年間の船員経験後、さらに技術を磨こうと船員講習会に通ったが、その後約2年間、仕事がなかった。 仲間宅に身を寄せ仕事を探しているとき、誘われて海賊に加わった。船員としての自分の技量に誇りを持っていることが話の端々からうかがえる。 「もっと仕事があれば、海賊になど手を染めなかった。自分が拘置所にいるのが信じられない」と悔しがった。 インドネシア人船員の仕事はたいてい半年から数年の短期契約だ。契約が切れると次の仕事が見つかるまで数週間から3カ月かかる。 また、英語の達者なマレーシアやフィリピンの船員と比べ彼らの賃金は低い。生活に困った船員が誘われて海賊になる。 経験を積んで海賊の幹部になれば、仲間を引き入れる側に回る。
パトロール強化で海賊は減ったが、貧しさは変わらず、島に売春宿がある。買春にくる海賊が近隣住民を引き入れる。 住民の男性(30)は「海賊に加わる者とそれ以外の住民とは、今の暮らしを許容できるかどうかで分かれる」と話した。 また、今回の「韋駄天」の事件では、インドネシア・アチェ州の独立派武装組織「自由アチェ運動(GAM)」の関与が推測されている。 同国軍がマラッカ海峡の同国領海での海賊事件の8割がGAMによる生活費や軍資金目当ての犯行だと指摘する。 「8割」の根拠はともかく、GAMはここ数年、支持者の減少で兵站が疲弊しており、海賊に手を染める可能性はある。
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