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‘ワールドアイ ノルウェイ’ カテゴリーのアーカイブ

ノルウェーの男と女

北へ2007~白夜とフィヨルドの国から【第3歩】

雪景色のトロンハイムより(撮影2007年2月10日)
▲雪景色のトロンハイムより
(撮影2007年2月10日)
私と彼が婚約した時の図(2006年12月)
▲私と彼が婚約した時の図(2006年12月)
ノルウェーでは婚約時から結婚指輪をはめる。
それでも法 律的にはサンボーエよりも弱い立場である。
猫の置物のカーテンに映った影(撮影5月)
▲猫の置物のカーテンに映った影
(強い陽射しが得られる5月撮影)

今回はノルウェーで生活をしていて、私自身がおもしろいなあとおもった制度を紹介したい。

今現在私は一人暮らしをしているのだが、ノルウェー滞在一年目は彼氏と共に住んでいた(現在彼は仕事の都合で他の街に住んでいる)。その一年目の頃に、滞在許可書申請や病院等で自己の情報を書き込む際、社会的立場の表記がおもしろいと思った。

日本だと『未婚もしくは既婚』の二択で済まされそうなところが、こちらだと、シングル、サンボーエ、既婚、離婚、重婚(これはアラブとかの特殊な文化の人用)、パートナーシップと選択肢があるのである。
ノルウェー語をあまり介さなかった私としては、選択肢の意味もわからず未婚(シングル)を選んでしまいがちだが、実は私の立場は、サンボーエ(同居を意味する)なのであった。きっとこれは日本語にすると内縁(の夫、妻)といったなんとも湿っぽい、ネガティブなイメージを喚起させる単語にされてしまうのかもしれないが、こちらだとあっけらかんとした単なる事実であって、どちらかというとポジティブなイメージだ。法律的にも婚姻とほぼ同等の権利が約束されているので、20年連れ添っているのに、サンボーエのままという人も実に多い。

言いたかったのは、私は単に彼が住んでいた家に越したのであって、二人の関係性に関して、互いに一筆たりとも書いていないのに、自分の社会的立場が変わっていた点である。確かに私の場合、越してくるという決意はそれだけのものを含んでいたので、決して間違いではなく純粋に現象をあらわしていると言えると思う。

私は異国に越してきたので、そういう決意みたいなものを持っていたが、普通のノルウェー人の場合、そこまでの議論なしに、同棲することが多いように思う。
第二歩で前述したように、学生でも経済的に親から自立していて、また単身者用アパートが非常に限られているので、友人等とシェアする人が多く、それならカップルでというのは自然な運びだ。結果としてそのまま結婚せずに、サンボーエでいる人が多い。子供が出来ても結婚しない人は多い。これはヨーロッパ(一部の国をのぞく)ではだんだん常識になってきているが、日本ではそうは親御さんが許さないというのが実態ではないだろうか。

しかしその自由な発想のもとに、ノルウェーの出生率(女性が一生のうちに子供を生む数)は回復し、現在1.89である。それにひきかえ日本は1.29である。つまりノルウェー人は結婚しないし、しても離婚率が高いにも関わらず、子供はばんばん生まれているのである。普段の生活でも子供を多く見るので、数字以上に多いように感じる。それを支えるのは、もう一つのおもしろ制度、育児休暇制度によるところが多いと思う。

イースターの卵ペイント
▲イースターの卵ペイント
(わが婚約者の作)
ロロスのお祭りで踊るノルウェー人カップル
▲世界遺産の地ロロスのお祭りで
踊るノルウェー人カップル
(毎年2月開催)

基本的にノルウェーには主婦が存在しない。ひと昔前の世代には多くいたようだが、今の働き盛りにはほぼいない。ではノルウェー人女性は日本人女性と比べて極端に、体力があり、パワフルで、意志が強く、育児と仕事を両立してきたのだろうか?

違うと思う。単にシステムの差だ(そのシステムがある、ないによって、伝統的価値感への揺さぶりの差、また男性の考え方の差としてあらわれ、女性の自身に対する考え方が違うというのはある)。4月執筆予定の第5歩「仕事の仕方と男女平等」でもまたその辺りは述べたいと思うが今回は育児休暇制度について書こう。

ノルウェーの育児休暇制度:
カップル(もしくは夫婦、つまり子の親。結婚してなくてもいいのが味噌。ここにもサンボーエの効果)で合計して、100%の給料で10か月の有給もしくは80%で12か月の有給が与えられる。そのうち子供の出生後の二週間は両方の親が同時に取ることが出来、カップルで合計の10か月もしくは12か月のうち、計一か月は男性がとらなければその一か月分は消滅する。
この制度は、雇い主の負担と政府からの補助金双方で成り立っている。雇い主は一時的に戦力を失い、その間の経済的負担もあるが、国民全員が享受できる権利として、また社会として出生率確保の重要性から、雇い主側もこの負担を負うことを、政府・国民の双方から求められ、どの会社も実行に移している。

日本では育児休暇制度は存在するのに、使用されない。特に男性の場合はそういう傾向が非常にあるが、こちらでは女性よりは一般的に短い期間であっても、男性も普通に育児休暇を取るのである。一生仕事をしていき、家庭も築きたい一人の普通の女性として、私がこの事実を知った時、思わずほくそ笑んだことを認めておこう。

ノルウェー人の国民性として、純粋に幸せを求めるというのがあると思う。非常に人間的で、素朴である。幸せでいることを自然に追求し、まわりの人がそれを追い求めるときも決して反対せず、とても喜んでくれる。形式にこだわらず、世間体が薄い。その結果や女性の経済的独立も伴って離婚率は高い。

日本とノルウェーとどっちがいいというようなものでもないが、多様な生き方を認めることと、人に無理強いをしないこと、多くの人が幸せに生きているようにみられることを考えると、ノルウェーって住みやすい国だなと思わずにいられない。初めに書いた社会的立場の選択肢の一つ「パートナーシップ」は、同性のカップルに法律的な保証、生き方の選択肢を与えていると思う。

いろいろな国の人と接してみて、生き方の差は人種の差によるものだけでなく、人の心は同じでも制度によってあらわれる結果が変わってくるのだと私は理解している。

私が住む街トロンハイムについて

北へ2007~白夜とフィヨルドの国から【第2歩】
みなさん、こんにちは。2007年の第一回目は、私が住む町 Trondheim について書かせていただきたいと思います。

ニダロスドーメン(ニダロス大聖堂)
▲ニダロスドーメン(ニダロス大聖堂)
ニードゥエルヴェン川辺
▲ニードゥエルヴェン川辺
ポップな色合いの家並みがかわいい
NTNUグロスハーゲンキャンパス
▲私が通う NTNUグロスハーゲンキャンパス
キャンパスも緑いっぱい

トロンハイムはノルウェー中部に位置する第三の街で人口は20万人、人口の六分の一が学生の学術都市だ。歴史的には、カトリック時代に重要な教会であった (ちなみに現在のノルウェー王国の国教はプロテスタント系キリスト教)ニダロスドーメンを擁する。
当時のトロンハイムはヨーロッパ中からこの教会に巡礼にやってくる重要な都市であったようだ。そのニダロスドーメンを街の要に、街中をフィヨルドへと続くニードゥエルヴェン川が横断し、美しい水辺空間を生み出している。
川辺にある木造の建物群は以前船着き場として利用されていたもので、現在は修復され、住居や事務所、レストランとして利用されている。日本では天皇皇后陛下が2005年の5月に訪問されたこともあり知名度があがったのではないだろうか。

さて、もう一つのトロンハイムの要は私が通う NTNU(ノルウェー科学技術大)である。
ノルウェーにある4つの国立大の一つで(公立の college にあたる学校は各地にあるが、国立の university は4つだけ)、理系に秀でた大学だ。日本との提携校(交換留学システム。共同研究はまた別)は京大、大阪府立大、東工大、東大、鳥取大、早稲田大…と、北野生の進学に奨励されているような大学であるのも興味深い(北野時代、上記大学に入る能力がなかった私としてはなんとも複雑な思いですが)。
こうして理系のトップ校を首都におかず、第三の街に持ち続けているのは、ノルウェー政府の地方分権推進の結果ともいえる。優れた大学があるということは、そこに研究所があり、産学提携のための企業があるということで、地方分権に一役買っているのだ。

私自身27歳で学生だというと、日本ではなんとも肩身が狭いが、ここトロンハイムではそうでもない。というのも、こちらでは教育を受けるのは大学も含めてただであり、博士課程に至っては研究者として日本円にして年間750万円ほどのお給料がでるので、世界中からこぞって学生がやってくるからである。結果としては、私自身は修士課程在籍中だが友人はやたらと博士課程在籍中とか、それ以上の学歴を持っている人たちが多いという状況になり、また極めて国際的なメンバーで構成されている。これがノルウェーの縮図だとは全く思わないが、私が今置かれている環境はこんな感じだ。

学友は国際色豊か
▲学友は国際色豊か
スコットランド人、イタリア人の友人とともに
(昨年のとあるパーティの席で)
ニドレエルベ港周辺エリア
▲新しく開発されたニドレエルベ港周辺エリア

奨学金システムについては6月執筆予定の第七歩にて詳しく述べたいと思うが、ノルウェー人で大学に通う学生はほぼ100%国から奨学金を得ており、そのため親から経済的に独立している。結果として、のびのびと学びたいものを心ゆくまで学んでいるように見える。また家庭の経済事情により進学をあきらめる必要もないので、みなに平等な機会が与えられているといってよいだろう。

また人口20万人から想像できるように、街は非常にコンパクトで、街と自然が近い。自然と親しく暮らす事はノルウェー人の国民性とも言えるが、街からバスで15分ほどの私の家からそのままクロスカントリースキーをつけて、山スキーに行くことができる。

街がコンパクトだと、単純に通勤・通学の時間が短縮されるし、仕事や学校の後一度家に帰ってから、また別の用事ででかけたりもしやすく、わたし自身は気にいっている。

なんとも歴史的な感じのするトロンハイムにももちろん新しいスポットもある。
ここ10年くらいに開発されたニドレエルベ港(nedreelvehavn)周辺エリアがそれだ。昔船のドックだったエリアがレストランやショッピングセンターとしてよみがえった。修復された建物も多く、建築的にも興味深い。

結論として、トロンハイムは学ぶのには最適な街と言えるだとう。

ノルウェーについての基礎知識

北へ2007~白夜とフィヨルドの国から【第1歩】
みなさんこんにちは。今月からノルウェーについての連載を担当することになった吉田素子と申します。若干27歳、未だ学生、北野高校時代は卒業に4年かか り、また非常に不遇な成績だった私ではありますが、逆にその立場を活かして、こうしてみなさまに異国の地からお伝えできることを喜びに感じます。
この連載を通して、ノルウェーという国をタイトルにある『フィヨルドと白夜の国』といった漠然としたものから、より具体性を帯びた魅力的な国へ、また私た ちがノルウェーから何らかを学び、日本での暮らしに反映させてゆくことの手助けとなればと思っています。どうぞよろしくお願い致します。

Norwayの地図

はじめに、ノルウェー(Norway)という国名は字の如く北への道の意である。ノルウェー語でのノルウェーNorgeも同意であるので、当連載のタイト ルも『北へ』と名付けさせていただいた。

さて、ノルウェーの正確な位置をご存じだろうか。今割と注目を集めている北欧だが、よくデンマークやスウェーデンと場所がこんがらがっておられる方がいる ようだ。ノルウェーは北ヨーロッパの一番西で、国の西と南を海岸線に囲まれ、形はおたまじゃくし型と覚えていただければありがたい。
ノルウェーも日本と同じく南北に長い国でその長さは1752kmである。それゆえに、地域差は大きく、地域によって話す言語にも幅があるところも日本との 共通点であるだろうか。

フィヨルドでカヤックをする人
▲フィヨルドでカヤックをする人
(トロンハイム、2006年6月)

国境を接する国はスウェーデンだけだと思われがちだが、フィンランド、ロシアとも北の方で接している。
地図を見てもらえれば分かる通り、ノルウェーの海岸線は非常に入りくんでいて、これがかの有名なフィヨルドである。フィヨルドというと学校では「氷河に削 られたV字谷」と習うと思うが、こちらでのフィヨルドのイメージは少し異なる。教科書通りなのは、フィヨルドの中でもダイナミックで有名なそれであって、 フィヨルドの多くの部分は単に陸に深く入り組んだ海であり、写真のように穏やかだ。

緯度の高さにより、夏には日が長かったり(場所によっては日が沈まなかったり:白夜)、冬は日が異常に短かったり(もしくはまったく太陽が見られなかった り)するノルウェーであるから、それは暮らしにも多いに変化を付ける。

クロスカントリースキーを愉しむ著者
▲復活祭の休暇にクロスカントリースキーを愉しむ著者(ノルウェー中部フォルダルまで遠出して、2006年4月)

例えば、夏に夜遊びしすぎちゃったなあと思って、帰宅途中夜中2時ころに日が昇りはじめると不馴れな日本人としては興ざめであるし、冬至近くは日が昇るの が10時、沈むのは2時半くらいであり、こうも日照時間が短くては正直精神状態に支障をきたす。夏はエネルギーに溢れ、活発になり、冬はどうも家でじっと しがちになるのは、一般的らしい。しかし冬には冬の楽しみ、蝋燭の火や暖炉の火を囲み親しい人と室内で過ごすことや、クロスカントリースキーやオーロラを 見るといった屋外での楽しみもある。オーロラはいつも見られるわけではないが、オーロラや朝焼け夕焼けといった空の表現や雪が与える淡い色の種類の多さに は目を見張るものがあり、私にとってはこれも冬の楽しみの一つだ。

フィヨルドでカヤックをする人
▲トロンハイムの町並み

また言及すべきは人口の少なさである。ノルウェーの人口460万人は大阪府の約半分、日本全体の約30分の一である。初めて聞いた時は耳を疑ったが事実で ある。ということで、こちらではめったに人込みに出会うこともないし、通学通勤の満員電車とも無縁である。しかしつまり、こちらでの優れた社会制度は見習 える点が多いが、それはこの人口の少なさの上に成立っているのであって、それをそのまま日本に持ってきても通用しないということである。

ノルウェーの物価は高い。2006年発表の世界で一番暮らすのに高くつく街はノルウェーの首都オスロであった。(ちなみに2005年は東京であったような のでいい勝負か)理由の一つはやはり税金の高さだろう。消費税は物によるけれど高い物で25%だ。スーパーマーケットに並ぶものの物価は感覚的には日本の 2倍近い。

寒くて高いのに、ノルウェーが住みやすい国である理由はなんであろうか。それは税制制度や福祉制度に代表される社会制度とノルウェー人の国民性だろう。
次回からの連載で建築士卵である私の立場も活かして、その秘密をひも解いていければと思う。

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