日本がここまで厳しくなってしまった背景には、先にも話した和田移植に始まる医療上の不信感がある。これを払拭してガラス張りにするには…これ位しないといけなかったわけです。非常に矛盾なんだけど…これに則ってやれば、誰も文句のつけようが無いわけ。本人が全て了承してて、家族が全て了承しているわけですから。
医療に対して良くインフォームする姿勢というのはアメリカでは17年ほど前に完成していた。今やっと日本がそういう医療に切り替わっているところでしょ。例えば、先生が外来にくる…「おかしいね、これ手術せないかんでしょ?」と…こういう話には出来ないんです。まあ手術のことはさて置いて…病状をいろいろと説明して、取るべき方針を全部出して「あなた、どうする。」と聞くでしょ。すると「先生、任せるわ。」と言うことになる。話を全然聞いていないんだナ。こういう治療の進め方をしていると一人少なくとも診察時間が最低30分かかるんだな。勿論、次は「家族の方、来て下さい」ということになる…。
日本人の一番いけないところは「コンセンサス=100%」と思っているところだね。「自分が脳死を認めない」となると「他人も脳死を死として認めてはいかん」と言う論法。これは別に脳死の問題に限ったコトではなくて、態勢として60%の人が「脳死を認めましょう」という時に「それだけの人が認めるんだったら、認める方向でシステムを作りましょう」と言える社会にならないといけない。
もちろん、自分が「認める/認めない」かは個人の権利を確保しないといけないし、自分の自由意志で決めたらいい。だけど、他人がその権利を主張する時にその権利を認めないのはおかしいでしょ。権利の放棄、権利の履き違え…これが日本人が最も不得意とするところだね。
日本人は自らの文化の中でそのことを是正して行かないといけない。「権利」というのは必ず「義務」が伴うんだ…という、この考え方ですね。いま、子供たちの中でいろんな問題が起こっているのは、親が教育していないんですよ。自由だけを与えて…「自由というのは権利に発するものであって、これには必ず義務が伴う」ということ、それを教えていない。この教育がなっていないから、昨今の不祥事が頻発するんだよ。要するに臓器移植も何も…みな根は同じ。全部そのことに繋がっているワケ。
頭脳流出?
そうね…他の分野はどうだか知らないけど、医療の分野においてはあんまり聞いたコトが無いね。アメリカやイギリスに技術研修に出かけても10人中9人は帰って来る。何%かは現地に残る人もいるけれど…外国人はなかなか雇われませんからね。下から2段階位までは直ぐなれるんだけど…それ以上はなかなか出世できない。帰国した人で移植手術経験のある人は日本にもたくさんいますよ。うちのチームでも手術経験のある人が4人…いま向こうに行ってる人が3人かな。
おそらく今年中には、健康保険証の切り替えの時にこのカードを同封されることになると思います。いっそのコト、出来たら…健康保険証そのものに、○×を書く欄が付けられれば良いんだけどね。そうするとプライバシーも保たれるんだけど…中々そこまでは一足飛びに出来ないね。
しかしね…このカードを自由配布制にしておくと、やっぱり数パーセントしか普及しないンだって。この制度が一番進んでいるオランダでも…どんなに頑張っても20パーセントまでだった。それでオランダはどうしたかというと、5年前に法律を作って国民全員がイエスかノーかを登録することにしたんだ。そして一年に一回、その意志を確認することにして…。これ、やりだすと事務手続きが大変なんだ。でもオランダは5年かけてコンピュータとか揃えてね。いわゆる住民係というのかな…行政が「国民一人一人の意志」を確認したんだ。
このシステムにすると、意志を表示する人が80パーセントになる訳です。それでオランダは、臓器提供の本人の意志はコンピュータですぐ判るようになった。そしたら後は家族の人に「どうしましょう」と聞けるからね。
日本人が一番恐れているのは、医者から「いかにも手術せなイカン…」ように説明されて、「なんで今まで放っといた?」という話にはならない訳だね。それと同じで、臓器コーディネーターも「臓器を下さい」と言うたらアカンわけ。当然、その人の権利の発露として確保されるシステムがないとアカン。だから「本人に意志があった」ということは絶対に確かめないといけない。
日本の場合はカードがあるからカードで行こう、オランダの場合はコンピュータを見よう…と。後は恣意が入らずに機械的にが動くだけですから。このオランダのシステムは5年がかりで構築され、今年からスタートしているハズです。アメリカでも意志表示者は20パーセント…それで2,000例あるわけですからね。日本でだって1,000例くらいは行ける筈なんや。理論的には。