地方公演ができるかどうか。あと、東京でやる分には…どうしても生活が成り立ちませんから…マスコミから収奪してくる(笑)。舞台公演の合間を縫って、テレビ出演やコマーシャルなんかの仕事をこなしながら…という風に、どうしてもなりますね。ただ…このマスコミの仕事は個人営業ですから、どうしても格差がでちゃうんですよ。これが大劇団その他で「売れた」俳優が脱退していく最大原因ですよね。だいたいドコの劇団でもそうですけども、マネージメント料として3割くらい…30%くらいを劇団に入れる、それで維持して行くということになるんです。ところが100万稼ぐ俳優の30%と、10万稼ぐ俳優の30%と…全部同率ですから、金額が全然違うじゃないですか。そら歪みが出ますよね。だから「売れた俳優は辞めていく」ということがあるわけです。ボクの場合、売れてるワケじゃないですけど…自分の劇団ですから、自分の稼ぎを入れて支えるということで何の矛盾もないワケですけども。
どうでしょう…ウチの若い人でスターが出てきて、3割入れるのが大変で辞めちゃう人が出てきても一向におかしくないですよね。全然、金額が凄いですもんね。ですから「経済」の問題…劇団運営もそうですけど、個人の生活もそうですね。マスコミの仕事と、そのせめぎ合いの中で行ってる、と。
ボクが「新劇」スタイルに感じた疑問点のもうひとつに…「なんでこんなに時間にルーズなんだ」ということの他に、価値感の問題がありますね。舞台では主役でもついてない限りそれだけで食ってはいけないですよ。それなのに…マスコミの仕事が来ると稽古を抜けないといけないじゃないですか…その時に「お前、マスコミと舞台とどっちが大事なんだ」と、そういう風に問われるワケですよ。どっちも大事じゃないですか。「お前、稽古を抜けてテレビに行って、どっちが大事なんだ」って言うけども、だったら劇団が生活の保証までするべきであってね。それができないんだったら出してやるべきじゃないですか。それも凄くおかしくてですね…。
たとえば、舞台で「通行人A」という役で稽古をやっている俳優がいて…彼にテレビの主役のハナシが舞い込むとしますよね。断っちゃうんですよ…舞台があるからって。ボクは「そんなものは行かせろ」って思うんです。「通行人B」だったら来年でもできるじゃないか、と。
ダメなんですね…「どっちが大事だ」という議論で断っちゃう。ボクは自分が作った劇団では、舞台稽古の最中だって出してあげます。それが彼らにとっての収入源なんですから。出せるようなシフトの組み方をするんです。ダブルで組んだり…。そうしないとですね、そういう非常に教条主義的な「どっちが大事だ」なんて議論…あなた、どっちも大事に決まってるんですから。でも端的に言うとですね…そういう教条主義的な古い体質が根強くあったんですよ。ボクはそういうことについても違う集団を作りたい、と思ってね。
ウチの場合は、舞台で主役をやっててテレビの通行人Aという役が来ても出しますよ、出してあげます。そのために、そうできるための方法論としてね…ウチの場合は来年秋までの公演が決まってるんです。なかなか昔…ボクたちが劇団員だった頃はですね、その年の初めになっても何を演るか出し物が決まっていない…ということが多々ありました。そしたら必然、スタートが遅れるワケですね。来年秋までの演目が決まってますからスタートを早く始めちゃう…3ケ月くらい前にね。そうしておけば、いざ舞台稽古になっても若い人をテレビに出してあげられる…ということはあります。
ギリギリまで決まんなくって、1ケ月前にようやく決まって「ソレ、徹夜稽古だ」なんてやってたら…突然、収入になるような仕事が来ても活かせない。非常にボク自身も感じていたような矛盾があって…どこでもそうでしたね。当時、若い人が大手劇団を脱退した理由のひとつにそれがあったと思います。