テレビが出現するまでは(みなさんご存じの有名な俳優サンも!)みんな食えないでバイトしてたんですから。ある意味で平等だったんですよ。ラジオと映画しか無かったですからね。ところがテレビが出現してからは、劇団キャリア30年のベテラン俳優が1本も仕事がなくて、去年入った奴がいきなりスターってなことが普通にあるわけじゃないですか。それはもう如何ともしがたい…違う価値感で対応していかないと組めない。ボクなんかはそういう端境期にいました。
ボクも最初の頃は声優のほう…吹き替えで生活が成り立っていたので、テレビは、そうですね…「悪役で飯食ってる」っていうかね(笑)。たまたま悪役ができるから声がかかってきてる、みたいなとこありますね。9割は悪役でした。最近…年のせいですか、悪役じゃない役が増えてきましたよ。普通のお父さん役とか、殺される側とかね(笑)。
アニメの仕事は結構多いですよ。テレビドラマが減ってる割にはね。というのは視聴率、稼げますから。もちろん限界はありますけど、ドラマよりは多いです。ボクも声がかかったらやりますけど…もう、めんどくさくてね、この年でアニメっていうのもね。ま、でもやらないとね…若い子に乗り遅れるもんですから。一年に何本かはやるんです。だから…声を聞けば、お子サンのほうがボクのことをよく知ってるハズです(笑)。
最近は声優学校が大阪にもずいぶん出来ましたね。東京の学校がみんな大阪校、出してますよ。ものすごい数です。短いのは半年から1年ぐらいの養成所で、1学年で1200人ぐらい生徒のいるところもあります。テレビ見てる子が「自分にもすぐやれそう」な気がするんですね。そこに目を付けたやつもプロだなぁ、と思いますけどね。商売人としてはすごい才覚のあるやつですよ、きっと。
ブームはやっぱり廃れないですね。アニメの声優がリサイタルやって武道館を一杯にしますからね。たぶん仕掛けたやつがいると思うんですけど…それぐらいブームなんですよ。CD出してますしね…テレビのヒットチャートに入ってますよ、声優の歌が。深夜ラジオのDJなんかもずいぶん多いんじゃないですか。書店にも専門誌コーナーありますからね。
ただ、そういうワケで…ものすごくアニメ人口増えちゃったもんですから、半端なことだとちょっとクリアできないですね、レベル上がっちゃって。相当訓練しないと。もの凄い競争ですから。世に出るのに3年ぐらいかかります。トントンとうまく行って、ですよ。
ウチの新人なんかも…やっぱり一番最初のマスコミの仕事ってCMが多いんですよ。というのは一番「素材」でできる仕事だから。演技力というよりもね。ただ…どうでしょう、今の景気。来年はマスコミももっとキツクなりますよ。そんなとこに企業が金出してる余裕はありませんからねぇ、ホントに。だから、どうだろうなぁ…演劇界も少なからず影響を受けますよ。でも、いろんな意味でこういう時代ですから…ボクなんかは「手作り」で自分のやりたい仕事を創っていければいいなぁ…って思ってるんですけどね。
今後ですか?
どうでしょう…今のマスコミっていうと、多くのパーセンテージは「テレビ」ということになるじゃないですか。今のテレビって、ちょっと絶望的ですよね。「旅」と「料理」と「クイズ」番組しか無くなってしまうんじゃないですか(笑)。そんなものに…人生の何かを賭けられるかな?という気もしますしね。
ただ、もちろん…演劇活動の場合、経済基盤というのは、どうやったって舞台では採算取れないですから…個人の生活はテレビという内職で賄うわけですね、結局は。ところがテレビっていうのは企業の宣伝費ですから…これだけ不況になって来ましたら、一番真っ先にカットされるのが宣伝費ですからね。当然もう、実業界と同じように不況の波を食う虚業ですよね。ま、どの分野も同じだと思いますけど。
ウチの場合…外の小屋で年に2本演って、下のちっちゃなスタジオでは年に6〜7本演るんですけどね。ボクの出身母体である青年座なんていう立派な劇団の例だと、年に4本とか5本とか打てるようになりますけど、どうですかね…多くは年に2本定期的に打つのだって非常に苦しいですよ。自前で打ち続けるのはね。
スケジュール的に…というよりは、むしろ経済的に苦しいです。こんな活動は他に類を見ないんじゃないですか「キチっと予算をたてて常に採算の合わない」という活動はね。他に無いと思いますよ、そんなアホなことは(笑)。だからボクは今でも「道楽やってます」って言うんですけど…事実ですね。劇団の新人なんかももちろん「好き」でやってます。だから、よっぽど共鳴したり、よっぽど共有するものが無いとですね…持続しませんよ。
ボクは「舞台活動をやっていく」…要するに公演を打っていくという面と、構成メンバーの個人の生活を成り立たせていくという面とは、まったく違う方法論を持っていかなきゃダメだと思いますけどね。マスコミの仕事のほうは完全に個人営業ですんで、個人差があって…そこそこ稼げる人と、まったく稼げない人と…それがお互いに同志を組めるかという問題もありますしね。「経済」が一番の問題じゃないでしょうか。