●第14回公演(1982) 『黒念仏殺人事件』於 国立劇場小劇場 ※昭和57年度芸術祭優秀賞受賞 |
ウチはある記録を持ってんですが…劇団を結成してですね、最短距離で芸術祭を受賞してんです。7年目で。これは一番短いンですよ。あと、国立小劇場を使った劇団の中で、結成してから一番歴史が浅い劇団もウチですね。あそこは文化庁の管轄で、氏素性をハッキリしないと使わせてくれないんです。なかなか取れないですね。それをウチは、いろんな人の援助で7年目に取れて、その国立小劇場で打った公演…「黒念仏殺人事件」という作品でしたが…で、初めて芸術祭を受賞した。初参加で初受賞なんです。この記録は未だになかなか破られてませんがね。
それから何が変わってきたのかというと、劇団の構成メンバー…劇団に入ってくる若い人の感性や何やらがどんどん変わりますから、上演するお芝居もかなり変わってきましたね。ずっと観てる贔屓のお客さんで「芸術祭を受賞した頃の公演では“オーケストラ”の芝居を打っていたのに、今は“室内楽”ばっかり…」とこぼす人がいるんですが。やっぱりですね…軽くて、身軽で、シャープで…どうしても今の構成メンバーの感性がそうなんですよね。
それと世の中もそうでしょ。たとえば今、三幕物の芝居やったってお客さん帰っちゃうでしょ。この生活のリズムの中で、3時間半の芝居なんて…そんなもん、無茶苦茶ですよね。当然、サッサと観て後で食事ができるような時間構成でないと…実際に現実的な当たり前のことなんですけどね。テレビドラマのCMの所為で15分しか集中が続かない…とかよく言われますけど、世の中の社会的なリズムがそうですから、こればっかりは仕方がないですね。
あと、個人的には、お芝居やるための方法論というよりも…これもボクが北野というところに入らなかったらこういうテーゼを持たなかったかも知れませんけど…「他者とどういう風に組めるのか」というのが、ずっとテーマなんですよね。ボクの劇団づくりというのは…5人だったらどう組めるのか、50人だったらどう組めるのか、組めないのか…。「他者とどう組めるか」というのが根っこのところにありますね。こういうシゴトやってますとね…いま、他者と組めない時代じゃないですか、どんどん組めなくなってきてると思うんですね。だから、気障な言い方かも知れませんが、今でも「他者とどう組めるのか」というのがボクの根底にはありますね。
昔、米を作っていた頃の農村、つまり農耕民族としての集落では、他者と組まなければと生きていけなかったでしょ。ところがとくに都会では…ボクたちが北野に入った頃もう既にですね、ほとんど他者と関わりなく人生コースのスタートを切ってる…そういう感じありましたね。だから今でも…北野で同窓会で集まるとそうですけども、運動部も含めてですね、北野でやってたクラブ活動というのが原点になってません?
ボクは同じクラスの友人というよりもですね、あいつはバレー部にいたとか野球部の小林じゃないか、とかね…。当時の北野はですね、言われているようにコースとしては大学進学という大前提がありましたしね、率直に言って。他者と深く関わっていく3年間では決して無かったように思うんです。以後もそうですけどね、都会での生活では。
ウチは在京の演劇集団の中では非常にユニークな劇団のハズですよ。70〜80人という人間がですね、たとえば全員で合宿に行く。夏に4〜5日「海の家」で合宿するんです。交代で…という劇団なら他にもありますがね。全員参加で一斉に…というのはウチだけなんですね。その「海」に対する執着は…たぶんボクの島根県での幼児体験が大きいと思うのですが…この他にも全員でよく遊びます。今日も筑波でマラソンがあって、別に劇団の公式行事というワケではないンですが、好きな奴が10人くらい走りに行く…そしたら、30人くらいが勝手に応援に駆けつける、と。言ってみれば共同体ですかね。
劇団で「餅つき」やってんのもウチだけじゃないですか(笑)。毎年12月恒例で、お客サンいれて100人くらいでね、下のスタジオで…杵と臼で、ちゃんと火をガンガン回して米を蒸して…そんなことやってますよ。それはボクにとっては非常に演劇的な行事なんですね。芝居やるのと同じコトなんですよね。
あと…これはよく誤解されるからあまり口外しませんけれど…ウチは劇団の正課として空手を取り入れています。決して右翼じゃないんだけども(笑)。
週一回、土曜日が空手の日で、還暦を越えたボクから下は18歳の連中までが一緒に武道をやることで糸が繋がっていくという部分がありましてね。ちなみにウチは日本空手協会の松涛館なんですけども…世界チャンピオンが2回、師範に来てるんです。先週なんかは、帝京大学の監督なんですが…女性の全日本チャンピオンを連れてきてくれて、演武を披露してくれました。それは美しいですよ。見事なカタで…。
だからどうなる、というワケでも無いのかも知れませんが…まぁいっしょに週一回空手をやることで、それこそ異国語を話す人間どうしが何かひとつ共通語を持てる…というようなところがね、あるんですよ。
劇団の見学会も土曜日にやってるんですが、空手見せたらだいたい来ません。逃げちゃいますね(笑)。ウチには女性の黒帯も5,6人いますからね。どうでしょう…「日本の芝居をやりたい」って思って来る子には、どこか日本の精神的風土みたいなものをですね…大事に思って欲しいという気持ちがあるのかも知れないですね。