小林一郎
(78期)
後に水上勉の「櫻守」の最後の方で主人公の北弥吉が、「わしが死んだら清水の墓地に埋めてくれ…たのむ。…あすこは村の人らの眠ってるとこや。みんな、桜の下で眠ってはる」と書かれた小説の重要な舞台ともなりました。
数年前に筆者たち78期のメンバーが訪ねたところ、大きな幹の一つが切られていましたが樹医の手が入っているようで大事にされていました。小ぶりの色の濃い花が密度濃くついて青い空をバックに見事に咲いていました。近所に大崎の桜並木という桜の名所があり人出も多いのですが清水まで足を伸ばす人は比較的少なく、村の墓地を見守っているという風情はまだまだ壊されていません。墓碑を見るとその多くは今次大戦の一兵卒のものばかりで出征して骨になって故郷に帰ってきた若者達の魂を鎮めるかのように静かに優しく、また凛とした姿で花見目的でやって来た外の人間を拒絶するかのような雰囲気がありました。