【連載】なにわことば三昧(37)

    わたい

    中井正明
    (64期・なにわことばのつどい代表世話人)


      この話“わたい”に任しトイトクなはれ。
      滅相悪い様には、せえしまへん

      そぉかオォキニ。ホナ“わたい”も助かるワ。
      一つ宜敷ゥ頼んどくでえ

      元気のエェ浪華の町は誰もが“わたい”を連発してました。
      “私(わたくし)”の典型的な転訛で、
      男:わたくし→わたし→わたい→わい・わし。
      女:わたくし→わたし→わたい→わて・あて…
      となる変化。
      短絡化の段訛り・行訛りで、険のない浪華詞でヤス。

      “私”の意は七ツあり、次の解釈が主体。
      『代名詞。話し手自身をさす語。
      現代語としては目上の人に対して、
      また改った物言いをするのに使う』。
      六代目松鶴の使た“わたい”が
      一番印象的だしたなぁ。

      今、上方落語の若手の喋る「僕が僕が…」は
      ドダイ気障過ぎダ。
      この「僕」は大正時代の学生“新語”で
      何程、学士の咄家が増えたカテ
      「僕」では、上方芸の示しがつかぬぞ。

      コラ、もっと勉強せえ。顔洗テ出直して来い。

      とは一寸我が儘キツ過ぎるかナ?


    Last Update: Nov.23,2002