【連載】なにわことば三昧(35)

    まっかいけ

    中井正明
    (64期・なにわことばのつどい代表世話人)


      朝早よ起きて東山見れば 猿のケンケツまっかいけ

      子供の頃、朝ッ腹から大声でこんな囃子(はやし)詞を歌て、
      いつも母親に怒られた験の話を思い出してマ。
      商売人の家では、朝から「猿」や「犬」の忌み詞を口にするのは、
      験が悪いテ不服の様でオマシタ。

      去る・去ぬ・擂る等は商売柄、禁句だして
      擂り鉢を当り鉢、鯣は当りめと申す業者は今でもオマス。
      名詞まっかいけは真っ赤い気と書く大坂辯で、
      真っ黒け、真っ白けと同じ類だして、真っ青けはゴザセン。

      囃子の「ケンケツまっかいけ」は献血の赤と違て
      御尻(オイド)真赤の事。大阪辯のケンケツは臀部の蔑称。
      また「眞」の付く熟語は、
      真直ぐ、真後、真逆、真昼間、真裸、真真中…
      真面目に探せば限が無い(笑)。

      話は些と別ヤが、
      大阪辯は汚いと聞き及ぶ中に「ド」の付く詞がウジャウジャあるテ。
      真眞中をド真中と言うはその最たる語句ヤロネ。
      耳障りな方言は出来得る限り避けたいモンだすなぁ大将。
      ドエライドタマ、ドギツイドシャベリ、ドガイショナシ、ドアホ…
      斯様な喧嘩詞を使てたら、花の大阪辯と雖もマ、土壇場だっせ!


    Last Update: Oct.23,2002