いつもこんな格好で 野山を歩き回っていた |
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山師稼業のはじまり
- 地質調査所の 主な仕事は日本の地下資源の探査だった。それを「地質図」にまとめる。いわゆる国土地理院がやってる「地形図」の上に、色分けして塗ってあるようなやつ ね。現在は、それも全国をほぼ網羅しちゃったし、誰ももう今から鉱山開発なんか手掛けないからね。だから全然変わった方向へ行ってますけど。「アースサイ エンス」とか何とかカッコいいことを言ってね。宇宙がどうなってるとか、火星がどうなってるとか、地球の中がどうなってるとか…それから今度は環境問題と かね。いろんな方向に分化していくんですけれど。とにかく僕がやったのは、新しく発見された鉱山をどういう風にすれば…経済的にあるいは技術的に…それが生産性を持つかということのシミュレーションなん です。ですから岩石そのものの知識も基本的に重要ですけれど、それを掘るための機械、設備、環境、道路だとか、その時の経済問題とかね、それに対してどれ くらいお金が必要か…というファイナンスの問題。そういう総括的なものなんです。全体的なプランニングですね。これは戦後、日本ではあまり発達しなかっ た。
ところがアメリカ、カナダでは非常に発達して…それで今でも僕の仕事があるんですけど…エンジニアリング・ジオロジストとか呼ばれる職能で、結構…社会的地位も高いんですよ(笑)。
鉱山っていうのは、儲かるか儲からないかが非常に分かりにくいものなんです。それで、開発費用をどこから調達してくるか、とか…保険とかが非常に関係してくる業界なのです。
例えば自動車産業なんかだと、材料の確保は去年も今年もほとんど変わらないわけです。せいぜい5%位インフレがあるかな…というのを考慮する位でね。実際、作るにしても今までの経験や記録があるから特に問題はない。リスクは「何台売れるか」ということ位でしょ。
鉱山の場合は、5億かけて良質なものが手に入る場合も、50億かけても結局ろくなものが手に入らない場合もあるんです。「何」にどれだけ投資したら良い か…というのが実際 Unknown なんですね。例えば鉱山が手に入ったとする。だけど、どっちに掘り進めればいいのかは、本当のところは分からない。掘った時の条件も、一体どれくらいで もって生産性が取れるのかということも、手探りでやってみなければ分からないんですよ。
掘り出した後もマーケットですからね。銅の値段がその日によって違うんですよ。高くなったり安くなったりする。自動車の値段なら去年と今年と…せいぜい 10%しか違わないでしょ。下がることはまずない。製造業としての経済的安定性がものすごく高いわけ。ところが鉱山というのは全く違う道を歩かなければな らない、非常に不安定要素の多い産業なんですよ。
だからね、どうしても Step by step …いつでも逃げ出せる体制で動かなければならないんです。これに対しては国家の補助が必要になってくる。つまり要するに「返さなくていい金」というものをどうして確保するかと言うことです。
鉱山業というのは何らかの証明がなかったら前へ進まないものなんです。例えばいい鉱山を発見したとします。日本と違ってアメリカの銀行はリスクを考えなが ら、鉱山に融資や投資をしますからね(笑)。その時に何らかの証明が必要になるんです。専門の技術士が…向こうでは Professional Engineer といいますが…「かくかくしかじか、これだけの価値を有する」と認めた証明のレポートがね。それを作るのがボクの職業だったわけです。
この産業は戦後の日本では発達しませんでした。通産省が海外の鉱山を開発しなかったからね。自動車産業などのように、日本の製造産業はあれだけ世界中に進 出していますけど、いい鉱山は一つも持ってないんです。唯一のアラビア石油ですら…もう、やめろやめろと言っているくらいでね。
しかし世界中の金持ち・財閥を見渡して「鉱山」開発をしていないところは皆無ですよ。日本でも三菱・住友は鉱山業で儲かった財閥でしょ。だからボク自身は 同じ地質学出身の仲間の中では唯一これにこだわっている人間なんです。「ヤマ師」って、ここから来てるんですよ。鉱山開発の山師ね(笑)。僕は山師の先生 だから「山師師」(ヤマシシ)だって言ってるんだけどね(笑)。