第1幕
原点は北野演劇部
- 69期というのは昭和14年生まれなんで「戦後第1期」なんですね。生まれたのは神戸です。6年間は神戸にいて、戦争の爆撃で島根県に疎開して…その島根県で小学校に入学した。入学したらその年の8月が終戦で…ちょうど「墨で塗りつぶした教科書」の学年でした。
江津という江の川の河口に開けた町で…ここで初めて、日本海で泳ぎました。どうもその原体験がですね…大きくなってからもずっと「海」に対する執着心と なって、未だに消えないようなんですが…ともかく、この後ずっと都会の暮らしですんで、唯一「自然に触れた6年間」というのを島根県で過ごして…それか ら、引き揚げて大阪に帰ってきた。尼崎に住んでましたから…北野へは越境入学なんですけど。 北野に入って…2年生までは比較的「北野高校生らしい」生活を送ってたんですよ。結構ね…成績順位は「国立コース」にいたりして、ホント。3年生になる春 休みに「演劇部が復活した」というハナシを聞きましてね。それまでは、何か事件があってずっと休部状態らしかったのですが…同期の梅沢君が復活させた、 と。それで「演劇部に入りたい」って部室を訪ねて行ったら…梅沢の奴「なんでまた、ガリベンの優等生が来たのかなぁ」って思ったらしいですね(ま、そんな に優等生でも無かったンですけどね…)。
クラブとしての活動を復活して2~3本勉強会をやってから、大阪府の高校連盟の演劇コンクールに出場したんです。確か秋口のことで…市岡が会場だったかな。そしたら、いきなりブロック優勝しちゃいましてね。
『寒鴨』という…寒村の鴨を撃つ猟師のハナシなんですがね。真船豊さんという日本の演劇史に残る劇作家の作品でして…登場人物はせいぜい3人か4人の芝居 なんですが。非常に日本の風土に根ざした…テーマ的には当時真船さんがずっと書いてらした一連の作品のひとつなんですけど…地主とか、そういう権力構造か ら貧しい側の人間を解放しようという短編でして。
北野の高校生とどっかの山の中の鴨撃ち猟師のハナシですからね…ほとんど関係は無いンですけど、えらく感動して演ったのを覚えてますね。その時分は真船豊 さんという作家自体が日本の新劇界をリードしていた非常に先鋭の作家で…また、演劇部のリーダーであった梅沢くんが社研にいた人でもあって…その意味で は、かなり社会的意識の強い作品だったですね。
それで…われながら、結構イイ線いってる芝居だったんだけど、今度は府下全域の決勝戦(?)みたいなのが年明けにあるということになって。他の学校は2年 生が主体だったんじゃないかと思うンですがね…北野だけは、復活したとこだからキャストが全員3年生ばかりだった。結局、参加するとなると全員3年生が出 なきゃなんない。さすがに受験もあるんで「そんなバカなことはできないだろう」って。みんなはヤル気だったらしいンですけど、ボクが「止めようよ」って 言って…。結局それには出場しなかったですね。今でも元岡なんかに会うとですね「あの時、お前が降りなかったら俺たちは大阪府で優勝できたのに」って言わ れるんですけどね。
女子部員?
いましたよ。学年で美貌を誇る女性がね。2~3人はいましたね。彼女達がいたからこそ…辻さんとか周辺がイロイロとね(笑)。マドンナがいました…山口さんとか、井上さんとかね。後から入ってきた1年下の後輩の女性で、早稲田の演劇に来た人もいましたけどね。
ま~とにかく、相当頑張ってました。面白くって部室ばっかり行ってましたね。そしたら成績が一気に200番くらい下がっちゃって…親が呼び出されて「進学 どうすんだ」ってハナシになって。もう「国立」なんてバカなことは言ってられないだろう、早稲田の演劇くらいしか無理じゃないか…ということになって。そ れからは急カーブ、一直線でしたね。
これは結果的にそうなんだけど、ボクの演劇の原点は北野の演劇部なんですね。早稲田の劇研の同窓会にも行きますけど…やはり、あの北野の講堂が原点なんで す(もう、取り壊されるんですってね。)。現在の交友関係もそうですしね。 すべては…北野のアノ部室から始まった。人生の間違いはね(笑)。
Update : Dec.23,1998