【263回】11月『私が取り組んでいた(いる)研究 並列処理とAI 今後-後者ですごい世の中になりそう・・・』

 

Ⅰ.日時 2024年11月20日(水)11時30分~13時00分
Ⅱ.場所 バグースプレイス パーティルーム
Ⅲ.出席者数 55名
Ⅳ.講師

中田 登志之さん@88期

(個人事業(CyPhysSys)主、東京大学名誉教授)

大学 京都大学工学部情報工学科
・1979-1985 (学部4年生から博士後期課程3年生まで)萩原研究室で並列処理の研究に従事

1985-2015年 NECの研究所で主に並列処理アーキテクチャの研究に従事
・1985-2000 並列計算機 Cenju (HalIII)とPCクラスタ
・2001-2005 ネットワーク処理,分散処理 (Business Grid)
・2006-2015 マネジメント、技術企画、COCN/Jeita

2015-2023年 東京大学情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター兼コンピュータ科学専攻所属
・並列処理と機械学習の適用について研究

2023-2024年 個人事業主、AI入門などの講義担当

Ⅴ.演題 『私が取り組んでいた(いる)研究 並列処理とAI 今後-後者ですごい世の中になりそう・・・』
Ⅵ.事前宣伝 講演者が40年間研究開発してきた並列処理とスーパーコンピューターの関連技術について紹介する。並列処理は当初はニッチな技術と考えられていたが、現在はmainstreamの技術として捉えられている。特に最近はNVIDIAのGPGPUが普及しており、ますます利用が活発になってきている。また現在並列処理を用いたシステムが盛んに利用されている音声認識や画像認識、さらにChatGPTや画像生成分野などの応用やロボット関連の技術に関して人工知能分野でどのような革命的なことが起きているかについて紹介し、今後の私共の生活にどのような影響があるかについて紹介する。
Ⅶ.講演概要

1.並列計算機とは

計算機は多数の演算から一つの仕事をします。1クロック(演算に要する基本単位)当たりの所要時間を減らすか、演算を並列化すると早く仕事が終わります。一演算あたりに係る時間は20世紀末の半導体の細密化で25年のうちに6000分の1にまで短くなりました。私の研究対象は世界一速い計算機を目指し、同じ仕事を完了させるために一度に多数の演算機を使って1クロック当たりの演算数を増やし、全体の演算時間を減らす工夫に関するものです。夏休みに出た多数の宿題や教室の掃除も皆で分担すれば早く終わります。同様に多数のプロセッサを用いて並行して計算を分散処理することで、処理速度を速めようというのが並列処理です。このためには並列に計算機を動かす必要があるので、演算の分担の割り当てなどを考慮する必要があり、プログラム開発者の負担は大きくなります。

 

2.Cenjuの開発

このような演算を実現する並列計算機をNECで開発しました。千手観音にならってCenjuシリーズと名付けた計算機を四世代にわたり開発、製品化しました。最初の製品となったCenju-3の時は、主力のスパコンSX-4のおまけとして欧米に展開する仕事のため、世界を飛び回りました。国内での並列処理の技術の普及を図り、並列計算機を使いこなす技術を持つ人材を育成するため、教科書を書き、並列処理のプログラムを書くコンテストなども業界を挙げて催してきました。画像処理などの世界で最近圧倒的な普及をし始めているNVIDIAなどのGraphics Processing Unit(GPU)は一般のパソコンに搭載されているCentral Processing Unit(CPU)と違い多数のコアを並列処理する計算機で、AIに用いています。
日本の富士通が製作した理化学研究所のスパコン富岳は700万のコアからなり、現在処理能力で世界第4位です。800万のコアからなる米国DOEのFrontierがトップの性能を実現していますが、第3位のMicrosoft社のEagleシステムは30台ほど稼働していて、Copilotを賢くするのに使われ、情報社会を席捲しています。並列処理ができるNVIDIAのGPUは広くAIに用いられています。日本の企業は予算規模が圧倒的に大きいGoogle, Microsoft, Xなどに太刀打ちできていません。

 

3.AIについて

2024年度のノーベル物理学賞はニューラルネットワークの創出研究に授与され、ノーベル化学賞もAI関係でした。100兆個規模の脳神経のニューロンのネットワークを計算機の中で模した兆レベルの接続回路を有するモデルを作り、並列計算で多数のパラメータを最適化して、正解に近づこうとするものです。この技術は人工知能AIの学習過程に応用・実装され、ここ数年の対話型AIの強化学習によりその性能が驚くべきスピードで向上しています。ちなみにChatGPT3.5では1750億個ものパラメータの最適化を行っています。AIの進歩で囲碁、将棋の世界では人知を超えた性能が発揮されています。

 

4.AIの産業応用と仕事の自動化

AIの産業応用は多面的に進んでいます。製造ラインでの画像認識で不良品検査、生産プロセスの最適化、医療画像診断の応用、小売業での在庫管理や価格設定の最適化、交通での自動運転、農業や金融業株価予測の世界でもAIが活用されています。この動きは定型的な仕事をAIが肩代わり方向にだけでなく、弁護士などの職業にも影響が及び人が行う仕事が大きく変わってくると考えられています。マッキンゼーの報告では2030年までに8億人の仕事がAIにとってかわるとの予測もあります。(実は、このあたりの講演スライド44‐56はChatGPTが作ったスライドを自分が編集したものなのです。)

 

5.AIのモラル・ルール

AIが生成する作品の著作権の扱い、意思決定にAIを用いるときのその透明性や説明責任の問題、与える学習データに含まれる偏見の校正など、偏ったデータから学んだAIの判断の倫理的側面など、AI実装上の様々な課題が認識されている中、軍事利用における倫理ガイドライン、個人プライバシーの保護なども大きな課題です。これらのルール作り、合意には長い時間がかかりますが、AIの進歩はそれ以上の速さで突き進んでいるように見えます。

 

6.シンギュラリティ

特定のタスクに特化したAIとは異なり、幅広い認知タスクを自律的にこなす汎用的AGI(Artificial General Intelligence)の進化が加速すると、AIが自己改良を行い自らの知能を継続的に高める能力を持つことが想定され、これをシンギュラリティと呼びます。シンギュラリティを越えたAGIが絶対的な「神」的存在と位置付けられると、人類社会にとって経験したことのない大きな変化をもたらすこと予測され、人間の存在意義や役割についてすら再考を迫られる可能性があります。そのようなシンギュラリティは2040年代には実現するとの予測がありますが、近年はもっと早いとの見方すらでています。実際Chat GPT-o1はIQテストで120を取ったそうです。
ということで、AIの今後とどう向き合っていくべきなのか? うまく使える道具として見据えていくべきなのか、皆さんはどうお考えでしょうか?

Ⅷ.質疑応答

橋口善郎さん 78期

Q:AIにモラルをどう持たせるのか、統一できないように想うが、どうお考えでしょうか?

A:標準化の協議の経験からも、共通ルールを協議合意するには時間がかかる。現状、進歩に追いつけていない。

Q:AIにルールをつくらせるのは?

A:そこに踏む込むべきかどうかについては議論があります。

 

 

広本治さん 88期

Q:シンギュラリティはもう始まっているのではないでしょうか? AIどうしが会話して先へ進んでいってしまっているのでは?

A:こうなっては困るということをリスク回避のルール化するところから始めるべきなのでしょうが、著作権一つ取っても統一見解を作るのは容易ではありません。

Q:アシモフのロボット工学三原則(Wikipedia)は使えるのでは?

A:Aiの処理はブラックボックス化しているので、そのような埋め込みができるかどうか分かりません。

 

 

清徳則雄さん 79期

Q:AIには独創性、創造性はあるのか?

A:AIは入力データから学習してきましたが、その学習には飛躍的な発展段階があります。いろんな情報の組み合わせ方では人知の及ばないこともするが、それを創造性というのかどうか?

 

 

家正則さん 80期

Q:Chat GPT 4などに数学の問題を出すとどこからか間違った答えを拾ってくる。自分で論理的に考えて居るわけではないので、そんなものかと想うが、新しい数学概念を埋めだすことなでできるのでしょうか?

A:Chat GPT 4までは拾ってくるだけだったが、ChatGPT o1は数学も解けるようになってきているようです。

 

 

植村憲嗣さん 88期

Q:GPTo1は大学院生レベルになったとのことですが、開発の先にあるものへの危機感を共有します。(コメントとして発言)

Q:量子技術開発は特に中国で進められているようですがこの世界で質的変化をもたらさないでしょうか?

A:量子技術ではキュービットの安定化で課題があり、自分としてはやや疑念をもっている。

 

室田昭子さん 88期

Q:AIも使うのは結局人間であり、AIが意思を持つことは無いのでは?

A:今までのものは、人間の質問に回答するプロンプト型AIでしたが、課題解決型でないAIの開発も進んでいるので、「意思」に近い発信をするAIが登場する可能性はあると想う。

 

 

大内拓也さん 109期

Q:並列処理を利用する上でのユーザーインタフェースはどうなっているでしょう?

A:応用分野によって違うモデルが採用されていて、そのモデルの上での計算という形になっています。

Q:どのくらい電力を使うのか? また冷却にも電力が必要なのではないでしょうか?

A:電力消費と冷却はスパコンの世界では大きな問題となってきている。富岳の電力消費は30MWとなっています。

Ⅸ.資料 kitano抜粋.pptx

記録:家 正則(80期)

講演者確認済み

Ⅹ.講演風景  IMG_4740 NKM_3226 NKM_3223 NKM_3204 NKM_3193 NKM_3180 NKM_3169 NKM_3158 NKM_3155 NKM_3142 NKM_3122 NKM_3096