Ⅰ.日時 | 2024年1月17日(水)11時30分~13時00分 |
---|---|
Ⅱ.場所 | バグースプレイス パーティルーム(Zoomによるインターネット中継) |
Ⅲ.出席者数 | 54名(会場36名、zoom18名) |
Ⅳ.講師 |
阿瀨 始さん@80期(最適化に関するコンサルタント)1968年3月大阪府立北野高等学校卒業 在学中は卓球部に所属 資格 京都大学工学博士
|
Ⅴ.演題 | 『数理工学への招待』 |
Ⅵ.事前宣伝 | 数理工学は数学をベースにして科学技術を横断的に支える学問ですが、久しく裏方的な存在でした。本講演では、数理工学の中の主要な柱である数学、制御、最適化の3分野を取り上げ、わかりやすい例を挙げ、図を多く使って数理工学で何ができるかを説明し紹介します。さらに他にどのようなことに応用できるかについてもコメントします。 |
Ⅶ.講演概要 |
◆紹介者 冨嶋公明さんの言葉紹介者は中学・高校・大学と同じ道を歩んでこられた冨嶋公明さん。 「私は試行錯誤するタイプですが、阿瀨君は根っからの理論派で、中学時代からずっと数学が抜きん出て優秀でした。北野高校では、数学の名物先生ガンさん(粟井光男先生)の言葉「数学を続けるとボケない」を忠実に守り、大学の進路先も数学が欠かせない数理工学科を選ばれました。また社会人となってからも数理工学の研究を続け、世の中に貢献してこられました。本日は、数理工学とはどのような学問なのか、そして数理工学が世の中にどのように役立てられているのかをお話ししていただきます。皆さんも、ガンさんの言葉通り、本講演で数学的な思考に触れる事で10歳は若返るのではないでしょうか?」
1.本講演の動機付け数学は科学を裏で支える学問と思われていましたが、2009年に出版されたこの本に、数学好きの私は心を揺さぶられました。 この本は数学が裏方でなく非常に重要であることを強調した本であり、この本に登場する数学は実は数理工学でカバーしていることから、数理工学をもっとPRしたい、というのが本講演の動機です。数理工学でどんな事ができるのかに焦点を当て、かつ目で見てわかりやすいことを重視して、計算結果を動画で見ることができるものを主体に紹介します。 2.数理工学とは数理工学(Mathematical Engineering)とは、数学を道具に用いて諸問題に取り組む学問です。
1)数理工学の役割 2)一般手順
3.(応用)数学数学という学問はたくさんの分野に分けられますが、応用指向の数学は大別すると、代数、解析、確率・統計です。確率・統計に関しては動画にできる適当な計算例がないため、代数と解析に絞って紹介します。 1)代数の応用例:ルービックキューブ(回転して六面が揃う様子の動画) 2)解析の応用例:ソリトンの挙動について 「ソリトン(soliton)とは、おおまかにいって非線形方程式に従う孤立波で、次の条件を満たすパルス状波動のことである。(条件①)伝播している孤立波の形状、速度などが不変(粒子の「慣性の法則」に相当)。(条件②)この条件を満たす波同士が衝突した後でも、お互い安定に存在する(波の個別性の保持。衝突前後の「運動量保存」)。衝突する波は2つより多くても良い。この①②の条件より孤立波は粒子性を持つ。」(ウィキペディアより抜粋) 1834年John Scott Russel(英国の造船技師)がエジンバラの運河で見かける波(孤立波)の面白い性質に気づいて観察と実験を始め、それらをまとめた論文を1844年に発表しました。それを読んだ流体力学者や数学者たちが、孤立波を数学的に定式化する研究を始めました。この研究は20世紀末まで続いています。
4.制御制御は対象をある目的に従うように操作することです。大別すると、フィードフォワード制御とフィードバック制御があります。フィードフォワード制御は、対象をあらかじめ設定された挙動をさせるもので、その設定の多くは最適制御問題を解いて得られます。フィードバック制御は現在の状態が目標からずれているかどうかを計測し、ずれているなら目標に近づくような修正操作を行うものです。制御では対象の動きが微分方程式あるいはそれを離散化した差分方程式で表されるので、解析学の応用と見なすことができます。本講演ではつぎの2例を動画と図を使って紹介します。 フィードフォワード制御の例:3重倒立振子(下から振り上げ真上で静止) フィードバック制御の例:ビルの制振(地震に対する振れの減少) 1)鉄鋼業 2)その他の産業
5.最適化最適化とは様々な制約条件のもとである評価が最も良い決定を求めることです。最適化では制約条件は基本的に代数方程式や代数不等式で表されるので、代数学の応用と見なせます。最適化は製造業ばかりでなく、非製造業や社会活動など広範囲の分野で現れます。最適化では時間的な動きのないものが多いため計算結果を動画にしにくく、本講演ではつぎの2つの計算結果を、図を用いて紹介します。 巡回セールスマン問題(TSP):N個の都市をひと筆書きで巡回する経路を求める 長方形のパッキング問題:30個の長方形を大きな長方形の中に高密度に詰める 1)鉄鋼業 2)製造業 3)非製造業
6.まとめ「数学が経済を動かす」とまでは言わないにしても、数学が現代社会を様々な分野で支えていることは確かです。日本における数学の貢献度は、決して欧米に見劣りするものではありません。ただ残念なのは、最適化の分野では性能の良いソルバー(高速に問題を解くソフトウェア)は全て外国製で、特にアメリカがこの分野では強い力を発揮しています。将来、量子コンピュータが普及すればソルバーの性能は問題にならなくなるかも知れませんが、日本製の高性能なソルバーがあっても良いはずだと思います。そのためにも、社会における数学の重要性の認知度が上がることを望んでいます。
質疑応答質問者 橋口喜郎さん@78期
Q:金融ポートフォリオの最適化について。ポートフォリオを形成する要因は複数個あって、各要因の中身自体が変数の塊ですから、最適化を求めようとするとかなり複雑な計算を行わなければならないはずですが、どのように解を求めるのですか? 質問者 広本治さん@88期
Q:実際に量子コンピュータは実用化されているのですか?量子アニーリングの実践状況について教えて下さい。(量子アニーリングとは、「組み合わせ最適化処理」を高速かつ高性能に実行する計算技術。組み合わせ最適化処理とは、膨大な選択肢からベストな選択肢を探索すること) Q:ルービックキューブの実演動画を拝見しましたが、現在若い世代に流行しているテトリスゲームにも同様にできますか? 質問者 辻孝夫さん@80期
Q:津波とソリトン波は同じ動きをしますか? Q:光通信では、粒子性を持つソリトン波の方程式は使われていますか? 質問者 多賀正義さん@76期
Q:本日のお話で数学が今の社会を支えるのに大きく貢献している事がよく分かりました。現在は、一般企業の現場では数学者はどのように採用・活用されているのですか? 質問者 今井美登里さん@80期
Q:阿瀨さんのように数学的知識が豊富な方は、普通に生活していて何か問題に気づいたとき、数学的に解決する方法を思いつくことがありますか? 記録:野田美佳(94期) |
Ⅷ.資料 | 数理工学への招待(動画なし版さらに一部削除 Q数調整) (1) |