Ⅰ.日時 | 2022年12月17日(土)14時00分~15時28分 |
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Ⅱ.場所 | Zoomによるインターネット開催 |
Ⅲ.出席者数 | 82名 |
Ⅳ.講師 | 内田 建さん@101期 (東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 教授)
1989年 大阪府立 北野高校卒業 |
Ⅴ.演題 | 「半導体とエレクトロニクスのこれから」 |
Ⅵ.事前宣伝 | スマートフォンやスマートウォッチをはじめとして、私達の身のまわりには半導体を使った製品が数多くあります。これらの製品は現在の生活に欠かせないものであり、また2〜3年後にはさらに優れた性能の製品が登場するという期待を抱かせます。最近では、デジタル技術を用いてビジネスなどを変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)が世界的に推進され、そのコア技術となる半導体の重要性がさらに増大しています。DXにおいて、半導体に求められる機能はより高度化・複雑化し、その応用分野は拡大し続けています。本講演では、半導体やナノスケール材料を用いたエレクトロニクス技術のこれからについて、センシング技術や新しい計算技術(量子コンピュータ、AI)の観点を含めて、お話したいと思います。 |
Ⅶ.講演概要 | 東京大学大学院修了後、日本が半導体分野で世界と鎬を削っていた時代に東芝に入社して、開発に携わってきたが、日本は現在世界に最先端半導体の開発では遅れをとってしまっている。 半導体はスマートフォン、パソコンの演算処理、記憶装置、撮像素子、発電素子、通信などに使われる形で、身のまわりにあふれており、半導体無しではもはや生活が成り立たない時代になってきている。銅などの導電体と石英SiO2などの絶縁体の間の性質を持つ半導体は、枯渇しない資源であるシリコンで作ることができる。半導体では電流が良く流れる状態(1)とほとんど流れない状態(0)があり、それを外からかける電圧などで制御できることから、デジタル信号処理に使われ、現在のマルチメディア・デジタル革命の基盤となっている。半導体の小型化による大容量・高速化は、車の自動運転やAI利用などの高度な応用につながっている。半導体産業の世界市場は現在約80兆円を超える規模で日本の国家予算に匹敵する。1988年時点では、日本は世界の半導体の50%のシェアを持っていたが、現在は10%にまで下落してしまった。その経緯について個人的な見解をお話する。 半導体素子の微細化で世界のトップグループを走っていた日本の半導体素子の製造技術は、32nm (2009年)レベルを最後に、以降の開発を中断した。現在世界の最先端は3nm技術とよばれる技術レベルに入っている。2010年頃はIntelが量産化技術の革新をリードし優れた製品を世に出していた。しかし、近年は各社が自社用の半導体を設計し、半導体製造の専門会社に製造を委託する時代となった。アップルはM1、M2などの半導体を設計し、ファウンドリーに製造を任せる手法を採用し、ファウンドリー大手のTSMC(台湾)が現在では受託生産の世界シェアの60%を握っている。半導体の供給元が限られているため、供給難が起き、特定の会社・地域に依存した半導体不足が国際問題化している。米国・中国が5兆円規模の新規投資を行う計画を進めているが、日本でも大きな投資を行い新たに最先端の製造技術を構築し生産体制を作ることを目指すなどの機運が盛り上がっている。半導体復興の機運の高まりにより、学生にも以前より関心を持ってもらえるようになってきている。一つの工場を作るのに1兆円を優に超える資金が必要なので、投資側にはリスクが大きく投資判断は難しい。 半導体は、米国内の電話網を支えていた真空管の故障対応負担に代わる技術として、壊れにくい信号増幅器としてトランジスタが登場したのがきっかけであった。電子あるいは正孔を情報媒体とする半導体は、不純物を入れることで電流量を調整し、外部電圧で情報媒体の量を変調することで信号の増幅ができる。また、トランジスタ構造を小さくすることで高速化ができ、集積度を増すことができるため、継続的な技術開発で、性能をどんどん良くできるという特長がある。2年で大きさを0.7倍にすることで、過去30年間にわったって、トランジスタ数を2年毎に2倍にする形で性能向上を達成し続けることがでた。いわゆる、有名なムーアの法則である。サイズの微細化は量産化当初の10ミクロンサイズから現状の数10ナノメートルまで、この30年で1/1000になった。5nm世代のApple M1 Chipでは300億個を超えるトランジスタが集積化され、高い機能を実現している。トランジスタ内部のシリコンの厚さも6nmにまで薄くなってきている。 ではなぜ、日本は最先端半導体の開発で遅れをとってしまったのか? 現在の5nm世代は中で使われるトランジスタのサイズではなく、性能ベースでの象徴的数字となっている。半導体トランジスタを小さくし続けたことで、もはやサイズを小さくしても速くならないというレベルになった。このため原子サイズの大きなGeをSi中に導入して、Siトランジスタの性能を上げる「歪技術」の重要性が日本でも指摘され開発されてきた。Intelは2003年にGeを混合したSiGe層をゲートの下に入れるのではなく横に入れること、さらに横からSiを引っ張るのでなく、押し付ける配置にする方法で性能を改善する技術を開発・量産化することに成功した。 絶縁膜を薄くし過ぎるとトンネル効果で電流が漏れてしまうため、絶縁膜を従来のものより誘電率がより高い材料に置き換え、さらにゲート電極の材料も変更するという二つの新技術をIntelが45nmレベルで一気に開発・量産化に成功した。日本はこの技術の量産化に間に合わず、その結果、世界の半導体製品と日本の半導体製品とに性能の差ができてしまった。日本でも、これらの技術開発では独創的かつ先駆的な研究成果が多くあげられていたが、当該技術を量産化することには成功しなかった。その後、トランジスタの立体構造化・量産化の面で再び技術的に立ち遅れてしまった。 今後の方向として、Siに代わり一原子レベルの厚さであるグラフェン(原子層材料)の積層技術にも期待がかかっている。積層・異種技術の混載・実装技術の今後の発展が国際的競争の場となると想われる。今後、半導体は演算だけでなく自立電源を備え、センサーとして働き、能動的に情報を取得するシステムとしての機能が重要となる。車の自動運転やAI利用など拡がりが大きい。またSi,Ge以外のあらゆる元素の利用可能性が模索されている。Internet of Things(IoT)では、半導体センサーで情報を取り込み、スマートウォッチなど自分で処理するシステムの開発も多方面で展開されている。 研究室では、低分子センサー(ガスセンサー)の小型化による未病診断や高齢化社会での看護・在宅医療、農業・工場でのモニタリング・生産管理等への拡がりを見据えた研究を展開している。糖尿病とアセトン、肝疾患とアンモニア、口腔内細菌と水素の関係を半導体技術でモニターすることで健康管理を広げる手法などにも注目している。量子コンピュータでは50mKでの量子ビット操作が必要であり、極超低温での半導体動作の検証などにも挑んでいる。日本のキャッチアップのための開発に向けて、多項目・時系列センシング技術やデータセンタでの計算能力増強などを目指したいと考えている。 質疑応答家さん 80期 Q: 半導体製作はシリコンウェーファーに塗布したフォトレジストにステッパーで回路パターンを露光するというのが基本だと想っていたが、ウェファーサイズ、露光装置光源など現状はどうなっているのか? A: シリコンウェーファーはサイズとしては12インチが現状で450 mm が次の目標。露光装置は3nm世代と言っているが実際に加工している寸法はもっと大きい。また、パターンをエッチング処理で細くするなどの技術も使っている。極紫外光源を使っている。
Q: 原子サイズに近づいていて、微小化に依存したムーアの法則は限界を迎えるのでは? A: トランジスタを小型化するのは限界にきているので、縦に重ねて改良という方向を目指しているが、ゆくゆくは限界になる可能性もある。
Q: 台湾のファウンドリーメーカーは、インテル等の技術をこなしているのか? A: 製造技術としてはインテルより、最先端のファウンドリーの方がリードしている面もある。
林さん 75期 Q: 半導体製造では日本が遅れを取ったが、今後センサー技術が大事とのお話。そこでも微細化がカギになるのか? ファウンドリーが大事なのか? A: Image Sensorでは国内の会社がリードしているが、ファウンドリーも興味を持っている。
間嶋さん 101期 Q: 1兆円を超える投資が半導体工場の設立に必要なのは、なぜか? A: パターン転写のためのリソグラフィー装置が高額で、その他の製造装置も大変高額。また工場全体をクリーンルームにする必要もあり、極めて高額となる。
家さん 80期 Q: リソグラフィーではニコンやキャノンは今でもトップか? A: オランダの会社が液浸技術などで優れた開発を行い、世界をリードしている。
(講演録作成 家正則 80期) |
Ⅷ.資料 | なし |