【239回】11月「HSC(ひといちばい敏感な子)の理解と支援について」

Ⅰ.日時 2022年11月12日(土)14時00分~15時45分
Ⅱ.場所 Zoomによるインターネット開催
Ⅲ.出席者数 50名
Ⅳ.講師 明橋 大二さん@90期 (真生会富山病院心療内科部長)

1959年 大阪府箕面市生まれ。
1978年 大阪府立北野高校卒業。
1985年 京都大学医学部卒業。
その後、国立京都病院内科、名古屋大学付属病院精神科勤務
1994年 真生会富山病院心療内科勤務。
専門:精神病理学、児童思春期精神医療
現在、児童相談所嘱託医、NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長、一般社団法人HAT共同代表。富山県虐待防止アドバイザー、富山県いじめ問題対策連絡会議委員、南砺市政策参与。
TV出演として「情報ライブミヤネ屋」「世界一受けたい授業」「報道ステーション」など。
著書に『なぜ生きる』『子育てハッピーアドバイス』『見逃さないで!子どもの心のSOS』『みんな輝ける子に』『HSCの子育てハッピーアドバイス』(以上1万年堂出版)など。
翻訳書『ひといちばい敏感な子(HSC)』(青春出版社)、「ひといちばい敏感なあなたが人を愛するとき」(青春出版社)。
子育てハッピーアドバイスは、シリーズで500万部を超えるベストセラーとなっている他、韓国、中国、台湾、タイ、ベトナムにて翻訳出版されている。

Ⅴ.演題 「HSC(ひといちばい敏感な子)の理解と支援について」
Ⅵ.事前宣伝 HSC(Highly Sensitive Child:ひといちばい敏感な子)は、2002年、アメリカの心理学者エレイン・アーロン氏によって提唱され、日本には2015年、拙訳「ひといちばい敏感な子」によって初めて紹介された。その後、この概念は急速に子育て支援、教育現場に広まり、いまや発達障害と並んで、子ども支援になくてはならないものとなっている。HSCが大人になるとHSP(Highly Sensitive Person)となるが、これは「繊細さん」などとしてマスコミでも紹介され、ここ数年一気に日本に広まった。HSC/HSPは、病気や障害ではなく、持って生まれた特性であり、人間の多様性の一つである。HSC/HSPを知ることが、人が生きやすい社会を考えることにつながる。今回はHSCの理解と支援について紹介させて頂き、皆様のご意見を賜りたいと思います。
Ⅶ.講演概要

1.HSCとは

最近出てきた子育て支援には無くてはならない概念。不登校の生徒のうち、8割がHSCといわれている。
✓身体が刺激に敏感
✓ささいな変化によく気が付く
✓まぶしい光、騒音、臭いにおいにノックアウト
✓空気が悪いのが苦手
✓痛いのが苦手
✓すぐ驚く
✓他人の気分に影響される
✓ものすごく人に気を遣う
✓よく気が付く
✓弱い者には優しい
✓豊かで複雑な内面世界を持っている
✓芸術や自然に深く感動する
✓変化が苦手

2.HSCについて

✓育て方でなるものではなく、持って生まれた性格、気質。
✓病気や障がいではなく、持って生まれた性格。従い、「治す」ものではない。その子らしさを生かし、伸ばしていくのがHSCの子育て。
✓HSCの割合は人口の15%~20%で5人に1人の割合。地域や人種の差はなく男女の比率も同じ。
✓HSCは発達障がい(特に、自閉スペクトラム症)とは異なる。感覚的に敏感なところは似ているが、一番の違いは、人の気持ちを汲むことが得意か苦手か(発達障がいの場合、コミュニケーションが苦手なため、人の気持ちや空気を読むことも苦手。HSCは人の気持ちが分かり過ぎる)。発達障がいとの合併というのはあり得るが(特にADHD:注意欠如・多動症)、自閉スペクトラム症とHSCの合併は、ゼロではないが極めて稀。

3.HSCの4つの特徴(DOES)

アーロン氏は、チェックリスト23項目中13項目が該当すれば、おそらくHSCであろうといっている。最近は、以下4つの特徴(DOES)に該当すればHSCといわれている。
✓D(Depth):深く考える→慎重派。人の気持ちや能力をよむ力がある
✓O(Overstimulation):過剰に刺激を受けやすい→疲れやすい
✓E(Empathy、Emotion):共感力が高く感情の反応が強い→ミラーニューロンの活動が活発
✓S(Subtlety):ささいな刺激を察知する

4.HSCには刺激を求めるタイプの子もいる

HSS:High-Sensation Seeking(刺激探求型)
✓HSSも持って生まれた性格
✓HSSはHSCとは独立した別の特性

5.HSCとHSS

HSCには、HSSの子とHSSではない子がいる
✓HSSでHSC:刺激を求めるHSC→石橋をたたいて渡る(一応慎重派)
✓HSSでないHSC:刺激を求めないHSC→石橋をたたいたうえでやはり渡らない(慎重派)
✓HSSでHSCでない:石橋をたたかずに渡る

6.HSCには育てにくいタイプの子もいる

✓感情反応の強い子、HSSの子
✓ちょっとしたことで傷つき、おおげさに騒ぐ。被害妄想が強い。かんしゃくが強い。文句が多い。落ち込みが激しい、等。
✓「実は傷ついているのかも」と考えることが必要。「傷ついていること」をうまく言葉で表現できず、それを行動で表現している可能性がある。
✓専門家として心配なのは「気づいていても表に出さない子」。育てにくい子は長い目で見れば心配のない子。成長につれて心配はなくなる。

7.ニューロダイバシティーについて

ニューロダイバシティー:「神経多様性」
✓「生物多様性」と同じく、神経の発達にも多様性がある。多様な種が存在することに意味がある(単一種は、環境が激変すれば絶滅する)。
✓自閉スペクトラム症(アインシュタイン、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ等がそうだと言われている)、ADHD(同じくエジソン等)、HSC、あるいは定型発達、さまざまな違いはあるが、それぞれ必要な人材で役割がある。HSCは、全人類にとって良くないことを、人一倍敏感な感性で教えてくれる存在で、故に、そういうDNAが人類に残されてきた。そこには、病気であるかないかとか、障がいであるかないかとかの区別はない。単なる「違い」「多様性」である、という考え方。

8.HSCの育て方

✓「甘やかすから、わがままになる」のではない。親の関わり方は、子どもの状態の「原因」ではなく「結果」→「親の関わり方が原因」と誤解しないように。
✓自己肯定感を育てる
「自己肯定感」:
・私は存在価値がある
・私は必要な存在
・私は大切な人間
・私は生きていていい
・私は私でいい
✓最も大事な「自己肯定感」の育成(0~3歳)を土台にして「しつけ」、「しつけ」(3~6歳)を土台にして「勉強」(6歳~)が可能になる。手遅れはなく、気付いた時からやり直せば、育て直しはできる。
✓日本には自己肯定感が高くない子が増えている(自分なんて存在価値ない、自分はいらない人間、自分はいない方がまし、等)。そういう子に、しつけや勉強をさせようとしても身につかない→まず、自己肯定感を育てることが大事。
✓HSCが自己肯定感を持ちにくい4つの理由
✓しつけの影響を受けやすい
→できていることをしっかり伝え、フォローの言葉を必ず添える
✓自分に厳しい
→いいところを見つけてほめる
✓手のかからない、いい子になりやすい
→手のかからないいい子のほうが心配。感情を出してきた時こそしっかり傾聴する
✓集団生活が苦手
→人と同じことを無理強いしない(HSCは慎重派。人より動作が遅い傾向あり)。無理強いすると自信を失う

9.HSCの自己肯定感を育てる6つの方法

✓子どもを信じる。受け入れる
✓子供の気持ちに共感する
✓スモールステップを設定する。ステップを細かい段階に分ける
→最初から100を目標とすると、できずに挫折する可能性が高い。
10→20→30と目標を上げていき、達成都度ほめるとモチベーションが上がる。
✓心の安全基地を作っておく
→退路を断つと不安をあおる。逃げ場所を用意する
✓その子のペースを尊重する
→HSCは普通の子とペースが異なる。動き出すのに時間がかかるときがある。子のペースや歩幅に合わせて動き出せば、意外とスムーズにいくことがある
✓少し背中を押してみる
→できると思えるときには、思い切ってやらせる。ただし、無理強いはしない

10.親の自己肯定感も大事

親の自己肯定感が決して高くない、むしろ、低い、との切実な相談や質問がある。親の自己肯定感が低ければ、子どもの自己肯定感を育てることも難しくなる。
✓境界線を引く
→人は人、うちはうち
✓自分のことをほめてくれる人を一人は持つ
→子供のことだけではなく、親もほめる
✓自分を自分でほめる練習も必要(リフレーミング:枠組みを変える=別の見方をする)
→毎日子育てに悩んでいるということは、それだけしっかり子育てに向かい合っている証拠。そういう自分をみとめることにより、子どものことをみとめられるようになる。

11.最後に

✓本日はHSCについて話したが、HSCや一部の子を特別扱いしてくれといっているつもりは全くない。HSCに必要な支援は、すべての子どもに必要な支援である。
✓みんなが嫌と思っていることを、ひといちばい敏感な感性で教えてくれ、社会をよくすることのヒントを与えてくれるのがHSC/HSPという存在。HSC/HSPのみならず、いろいろな特性に配慮することが、すべての子どもや人がすごしやすく生きやすい社会をつくることになる。HSCであってもなくても、すべての人が、すべての子どもたちが、すごしやすい社会になることを念じる。

質疑応答

住本治さん 88期

Q: 還暦を過ぎると、ほぼHSPのように敏感になるが、「受容」の部分で不快になることはあまりない。「受容」のグラデユエーション、あるいは、反応の年齢による変化はあるのか

A: HSCは特性であり生涯変わらない。ただ、もともと敏感であったのが、年齢とともに、マスクがとれて表面化することはあるかもしれない。トラウマがあって、二次的に敏感になる場合があるが、特定のものにだけに敏感になるものであり、HSPのような全般的な敏感さとは異なる。誰でも敏感であれば、敏感の分布は正規分布(真ん中が一番多い)になるはずだが、そうとはならず、両方(敏感か敏感でないか)に分かれる。

 

Q: 多様性の統計学的、あるいは、数字的な分布は、疫学的に測定されているのか

A: 全世界のどこでも人口の15%~20%という研究結果がでている。HSCは曖昧なものではなく、科学的に研究されている概念。出てきて間もない概念で、これからという部分はあるが、いろいろな研究者が研究している。

 

Q: 再度、まんがの本の紹介を

A: 「HSCの子育てハッピーアドバイス」

 

Q: HSCの特性について、「受容」は持って生まれた特性で変わらないというのは理解するが、「反応」は感情や社会的な影響で変わるのではないか

A: アーロン氏も、HSPでも社交的な環境に育った場合には社交的になることはあると書いている。ただし、「反応」も生まれつき人によって違いがある。びっくりする、涙もろい、というのは生まれつきのものであり、同じ環境で育った兄弟でも異なる。外側の共感的な反応は変わるかもしれない。

 

Q: HSS、HSP/HSCの2軸があるとの了解。2:8法則等の生存戦略について、HSS、HSP/HSCの分布についても同じことが言えるのか

A: HSSとHSP/HSCの軸は異なり、4種類のタイプがある。HSSはアーロン氏ではなくズッカーマンという人が提唱する概念。HSSについての統計は、まだそれほど出てきていない。精神医学では病気を探求してきたが、HSS、HSC/HSPは病気ではなく気質。これまで、気質は精神医学でほとんど扱われてこなかったが、これから研究が深まっていく。

 

浦勇和也さん 88期

Q: 空気がよめないのもHSCということ理解した。「S」の度合いはあるのか

A: ある程度のグラデュエーションはあるかもしれないが、HSC/HSPの分布は体重や身長などの正規分布にならず、両端が多い「どっちか」。ただし、いろいろな子がおり、中間に位置する子もいる。

 

Q: 視力が良い悪い、知力/IQ/EQとの高い相関関係はあるのか

A: 視力は生まれつきのものもあるが、環境の影響が大。HSCは持って生まれた性格なので、少し異なる。HSCは、アレルギー等の体質的なものに似た概念ではないか。知力/IQ/EQも育った環境の影響を受けるので、同じではない。HSCでも成績の良い人とそうでない人はいる。しかし、人の気づかないことを気づく等、ほかの特性と相まって、リーダーとなったときに才能として活かされることがある。

 

Q: 病気と性格の定義は。

A: 治療や支援が必要とされるものが病気、その必要がないものは病気ではないと考えている。性格は持って生まれたものと環境によってつくられるものだが、病気でなくとも、トラウマ等で二次的に傷ついた場合には、カウンセリングや治療が必要になることがある。

 

Q: 東大生の3人に1人は学習障がいと聞いたことがある。HSCもしっかりとした自己肯定感を持たせれば、とても優秀な子たちではないか

A: その通り。SDGSとか、ある意味、人類が大きくかわる時に、HSP/HSCは社会に大きなヒントを与えてくれる存在といわれている。HSP/HSCの知恵や感性を活かせるような社会になっていくことが、人類が存続していくために大事。

 

河野次郎さん 90期

Q: HSCという言葉は、明橋さんの翻訳本が出る前に、娘が関連する本を見つけて買ってきたときに知ったが、本日こういう話を聞かせていただき納得した。本人がHSCと気が付いても、コントロールやセルフメデイケーションをどうやればよいか、また、家族はどうすればよいか。

A: 非HSPが多数派を占める中で、HSPは自分を責めている。HSPは特性ということを知ることによって救われるし、自分を肯定しなおすことができる。また、そういうことを家族が理解することにより、家族の適切なかかわり方がわかる。帽子のサイズが合わない場合、普通の人は自分の頭のサイズにあった帽子を選ぶが、HSPは帽子のサイズにあわせて自分の頭を削るということをやってきている。HSPは、むりやり周りの環境に合わすのではなく、自分にあった環境を選ぶことが大事。

 

今井美登里さん 80期

Q: Small Stepを設定してほめる場合、「あまやかす」のはマイナスイメージがあるが。

A: ほめる前に、自己肯定感を育てるためには「愛着」が大事。一緒にすごす、食事をする、話をすることで、自己肯定感がうまれる。今の子は、昔と異なり、「愛着」の部分が希薄で、親と一緒にいる安心感を持てていない。昔より土台ができていないだけに、否定のことばには気をつける必要がある。子育てハッピーアドバイスの大事なメッセージでもあるが、「あまえ」は受け止めることは大事だが、「あまやかす」はいけない。

 

山近紗知子さん 111期

Q: 町田市の小児科クリニックに勤務している。HSCにも遺伝的な要素はあるのか

A: 遺伝病というほど濃くはないが、遺伝的なもの。父母のどちらかが敏感な方でDNAにかきこまれたもの。

 

Q: 不登校生の8割がHSCとのことだが、HSCだからこその声掛けの仕方があれば教えてほしい。

A: 私の場合、初診の際にHSCのチェックリスト(23項目)を書いてもらう。HSCと分かれば、親や子ども本人にもいいところを伝えつつ説明する。生まれつきのすばらしい性格であることを説明し、必要に応じ、子育てハッピーアドバイスの本を紹介する。イラストでマンガのように子どもでも読め、理解することにより、子どものエンパワメントに役立つ。

 

栗山敏さん 90期

Q: 明橋さんの話には愛がある。HSCの比率は昔も今も変わらずとのことだが、数が増えているとの感覚がある。遺伝子が社会的なストレッサーに触れて行動にでるという了解だが、遺伝子の比率は変わっていないのか。

A: HSCの研究が始まったのが20年そこそこ。それ以前の統計はない。ただ、人間だけでなく、いろいろな種で敏感な個体と敏感でない個体の2種類が存在し、どの種でも、敏感なものが少数派で、敏感でないものが多数派ということが確認されている。なぜなら、大胆なものは良く死に、敏感なものは生き残るから。4:1というのは、「生存戦略」として一番適切な比率ではないか。最近増えてきたとか、現代病とかではないと考える。

 

葛野正彦さん 88期

Q: ニューロダイバシテイーの話で、自閉スペクトラムやADHDから優秀な人が輩出されたとの話があったが、HSCと「ギフテッド」との関係はどうか。

A: HSCと重なるところがある。HSCの中でも特異な才能に恵まれた人を「ギフテッド」といい、これも持って生まれたダイバーシテイーの1つ。「ギフテッド」は、まだ学術的に認められる概念ではないが、児童青年精神学会でもシンポジウムが組まれ、学会の中でも、病気ではないが、特性としての理解が必要なジャンルとしてようやく認められるようになってきた。

 

園山陽輔さん 75期

Q: 子どもを育て、孫の姿を見てきた視点から話を聞いていたが、心を打たれたのが「自己肯定感」ということ。過去できたことができなくなった等、自分の生きている意味や役割は何かと「自己肯定感」を問いながらすごしており、これからもすごすと思う。子どもだけでなく、これから老いていくものも「自己肯定感」を問いかけ、自己を肯定しながら生きていかないといけないと思う。

A: 子供だけでなく、お年寄りの心のケアーにも関わっている。自分が価値があると思えないことは、非常に苦しいもの。そういう気持ちが持てない人が、自分の存在確認のために、外でやらかしてしまうことがある。そういうものの背景にあるのも「自己肯定感」の問題といわれている。どの年代にとっても、自分の役割をもち、生きている価値を確認できることが、メンタルヘルス上、非常に大事なこと。

(講演録作成 葛野正彦 88期)

Ⅷ.資料 2022年11月-六稜講演会(2MB)