【231回】3月「人生100年時代、健康寿命を延ばし幸せに生きよう」

Ⅰ.日時 2022年3月19日(土)14時00分~15時50分
Ⅱ.場所 Zoomによるインターネット開催
Ⅲ.出席者数 55名
Ⅳ.講師 森 惟明さん@65期 (高知大学名誉教授)

1961年 京都大学医学部卒。大阪北野病院でインタ−ン修了。
1961年 アメリカ合衆国臨床医学留学資格ECFMG試験合格。
1967年 京都大学大学院修了(脳神経外科学)医学博士。
1969年 京都大学脳神経外科助手。
1971年 シカゴノースウエスタン大学脳神経外科レジデント。
1975年 京都大学脳神経外科講師。
1979年 京都大学脳神経外科助教授。
1981年 高知医科大学(現高知大学医学部)脳神経外科初代教授。
1992〜1999年 厚生省特定疾患難「治性水頭症」調査研究班班長。
1992年 第2回高知出版学術賞受賞。
1996〜2000年 高知県医師会理事。
1999〜2001年 国際小児神経外科学会倫理委員会委員長。
2000〜2001年 国際小児神経外科機関誌Child’s Nervous System編集委員。
2000年 高知大学名誉教授。
著書多数
Ⅴ.演題 「人生100年時代、健康寿命を延ばし幸せに生きよう」
Ⅵ.事前宣伝 2019年の厚生労働省発表による日本人の「平均寿命」は、女性87.45歳、男性81.41歳でした。一方、健康上、日常生活を制限されることなく生活できる期間である「健康寿命」は女性75.38年、男性72.68年でした。平均寿命と健康寿命の差は女性で約12年、男性で約9年。つまり、その期間は誰かの手助けが必要となるわけです。最近、高齢の方から、「これほど長生きするとは考えてもみなかった」「老後の準備をしてこなかった」「今後どのように過ごせばよいか」などという言葉をよく耳にします。わが国は世界に先駆けて「超高齢社会」(高齢者人口が21%をこえる社会)のフロントランナー となりました。長い老後を快適に過ごすためには、90年を超える人生設計をしなければならなくなりました。

これからの高齢者は、いろいろな前人未到の領域に踏み込み、冒険をしつつ生きていくことになります。最近、「人生100年時代」を迎え、ただ一度しかない人生をどう生きるかが大きな問題となりつつあります。

長生きは神からの贈り物と言われますが、高齢になると生きるためのエネルギーも低下するため、前向きに生きていくのは大変です。高齢者をサポートする社会システムの構築も容易ではありません。

高齢者の心と体の健康を願っても、世間では「高齢者は病気がちだ」「高齢者は社会のお荷物だ」という目で見られがちです。このような「エイジズム」(年齢差別)の風潮を否定できない中、高齢者はどこに長生きの意義を見つけたらよいのでしょうか。

これは非常に難しい問題です。問題解決のためには、従来からの高齢者の概念を、自立して健康に生活し、新しい社会貢献も可能だという「サクセスフルエイジング」(成功加齢)と言う考え方へ転換することが大切です。

最近は医師でなく一般人でも望みさえすれば、インターネットや書物などで比較的容易に多くの健康情報を入手できる時代です。医学の進歩の情報を知っているかどうかが健康に大きく関わってきました。すなわち、「健康リテラシー」を身につけて、健康情報を知り自分の健康管理に活かすことが重要になってきました。情報格差が健康格差につながる時代になりました。

本講演では、超高齢社会で高齢者がいかにして健康寿命を延ばし、「Well-Being」(身体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態で人生を送るかにつきに述べます。

Ⅶ.講演概要 本講演録は、質疑応答を含めた講演の概要です。詳細については、添付する講演で使ったPPTのPDFを参照ください。

1.

先ず、同期の峯和夫さんから森さんの紹介がありました。森さんの経歴はIV 講師 を参照ください。

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冒頭、従来の人生50年というこれまでの日本人の概念から、現代は100歳までの人生を考える時代になってきて、長寿を謳歌するだけではなく、それは老・病と言った苦悩も伴うことを強調された。2016年にロンドン大学のグラットン教授が「Life Shift」(100年時代の人生戦略)という本を出し、第1、第2の人生という単純な構図ではなく、Multi-Stage のLife Shift、即ち組織に囚われない自分自身の働き方、人生戦略を提案した。

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また、米国ハーバード大学シンクレア教授の著書「Life Span」(老いなき世界)では、100歳を超える人生も理論上可能としながらも、先生は「老いがあって、そして寿命があって初めて、人間は人生を意義あるものと捉えることができる」と喝破された。

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では、加齢に伴う体と心の変化にどう向きあって行けばよいのか。確実に加齢によって体の機能は低下する。そして心も変化して、喪失感を感じて気力が失せ、また鬱の症状も現れてくる。WHOによれば、健康とは、身体的、精神的、そして社会的に満たされた状態を指し、これはWell-beingの定義と同義である。しかし、2019年の日本人の平均寿命と健康寿命は、男でそれぞれ41歳と72.68歳、女性で、87.45歳、75.38歳である。このように、両者の差は男で8.73年、女で12.07年と終生健康を維持するのが難しいことが判る。この健康寿命と平均寿命の差を縮小することが、老後を健康、即ちWell-beingで生きる上でのキーとなる。このためには、たとえば毎年重要な予定を入れて、そのときまでは健康に生きようと努力する姿勢が必要である。そして、生活習慣を改善して健康促進因子を増やし、危険因子を減らしていく努力が必要である。

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具体的にこのSuccessful Agingを成就するには、マッカーサー財団(終戦後のGHQのトップであったアメリカ陸軍将軍ダグラス・マッカーサーが創設した財団)の研究によると、① 病気・ケガを避ける ② 精神機能の高い水準 ③ 社会との繋がり という3要素が重要と指摘している。[2000年刊行の「Successful Aging」(年齢の噓)より]

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促進要因として、大事なことは、運動、食事、睡眠、口腔ケアー(歯周病に注意)、心のケアーが挙げられる。ジムなどに通う「意識した運動」だけでなく、日常生活でこまめに動くことが大切である。食事については、“You are what you eat.” と英語で言われ、中国でも古くから「医食同源」と言われるように、バランスの取れた良質な食事を心がける。そして、心の平安、心身一如である。

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危険因子としては、「フレイル」(虚弱)「サルコペニア」(筋肉減少症)「ロコモ」(運動器症候群)の3つのリスクが危惧される。これらは、3つの歯車が相互に絡み合ったようなもので、一つが狂うとリスクを促進させる。詳細については、下記の森氏著書を参照されたい。 URL: 著書多数

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特にフレイルは、体重減少、疲れやすい、歩行速度の低下、握力減少、身体活動量の5項目のうち3項目が該当するとフレイルと考えられる。こうなると要介護に陥る恐れがある。また、この間に入院すると体力がもとに戻らなくなることもある。従って、日ごろから以下の健康リテラシーを身につけることが重要である。
かかりつけ医を持つ

・医師・病院の選択
・医師と患者の協働作業
・質の高い医療を受ける
・医療関連機能障害の回避

9.

これにより、Complete Well-being、健康で豊かな人生を送る秘訣は、老いと上手に付き合い老化を先送りする。できるだけ現役で働き続け、社会と繋がりを持って前向きに生き、その中で良好な人間関係を保つことが肝心である。特に「利他の心」の持つ重要性も強調された。

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結びとして、“Living well and dying well !” の言葉を皆様に贈ります。そして右がそのための処方箋である。

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最後に今回の講演の内容は、「健やかな老後をめざして」という著書に詳しく述べられているので、是非参考にしてほしい。依頼されて、2022年春号の広告にも掲載する予定である。その広告を添付します。

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質疑応答

西尾大次郎 66期
Q:私は四国お遍路、そしてフランスでのサンチャゴ巡礼を行ってきた。ここで歩いてきた人の写真を見ると、皆穏やかな顔をしている。歩くことは穏やかさ、心の平穏が得られると思うが、先生はどうお考えですか。
A:運動を楽しむ人はWell-beingが満たされた顔をしていると考える。特に、宗教者は顔が優しく、高僧と呼ばれる人は柔和で、接していても心温まる思いがする。Well-beingの3つの条件が満たされているためであろう。手前みそだが、私も第1回日本Smile Contest で全国からの投票で優勝した経験がある。
雫石潔, 75期
Q:断食の話が出たが、どのような方法があるか。
A:断食については、賛否両論がある。しかし、人間の歴史を考えると、狩猟時代は狩りができたときしか食べられず、常に飢餓の状態にあった。その経緯から今の人間が作られてきた。現代は飽食の時代で、食欲もあって過食、ひいては肥満、結果として生活習慣病を患う時代となった。肥満が体に良いはずはないので、適度な断食は健康にとって良いことと考える。しかし、やせこけた人が断食するのも問題なので、かかりつけ医の意見を聞いた上で実施してほしい。
峯和夫、65期
Q:薬についてはどのように考えるか。
A:多くの薬(5剤以上)を飲むのは体にとって良くない事が多い。極端な言い方だが、薬は基本的には毒と考えるべきである。できるだけ服用を避け、最小限にとどめる。従って、なるべく病気にならないようにする。日本には「薬神話」があって、薬を出さない医者はやぶ医者という考え方をする人がいるが、これは誤った考えである。Health Literacyを学んでほしい。
藤田浩一、77期
Q:私は、断食と逆で時々暴飲暴食をして体に負荷をかけた方が良いと思っている。腹八分目では、慣れで腹が小さくなる気がするが、先生の考えはどうですか。
A:断食と逆で、食べ過ぎるとお腹もびっくりして、これは働かないといけないと動かざるを得なくなる。頻回にこれをやると多分病気になるが、敢えて言うと、ときにこれをやると食欲を満たし、消化器に適度なストレスを与えるという点で効果があるといえるかもしれない。極端に走らず、帳尻を合わすよう上手くやることが大事。日常生活で人間、適度な緊張を持って、思い出したり考えたりすることが大切で、のんびりとボーと生きていてはいけません。
多賀正義、76期
Q:男の健康寿命と言うのは72歳程度とあるが、先生が実際に診断していて72歳で要介護になる人は多くいますか。
A:これは統計に基づいて発表されたものを引用したまでで、健康寿命は人によって差異がある。しかし、70歳を過ぎると不調を訴える人が増えるのは事実である。
平野裕幸、76期
Q:こういった健康寿命はみんなにアンケートを取って、各々の健康状態を聞き、それを集大成したものと理解しているが、その点は如何でしょうか。
A:その通りで、日本では内閣府が細かい質問を無作為で抽出した人に健康状態についてアンケートをして、その結果をまとめたものである。内閣府のWebsiteを見ると詳細に報告されているので参考にしてほしい。あくまで統計上の事なので、実際の各人の健康寿命は様々である。
Ⅷ.資料 人生100年時代と健康寿命-講演スライド.pdf(2MB)