Ⅰ.日時 | 2022年1月15日(土)14時~15時30分 |
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Ⅱ.場所 | Zoomによるインターネット開催 |
Ⅲ.出席者数 | 92名 |
Ⅳ.講師 | 家 正則さん@80期 (国立天文台名誉教授 / 日本学士院会員) 1968年 大阪府立北野高校 卒業 1972年 東京大学理学部 卒業 1977年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、東京大学理学博士 1977年 東京大学理学部天文学科 助手 1981年 東京大学東京天文台 助手 1986年 東京大学東京天文台 助教授 1988年 国立天文台 助教授 (改組) 1993年 国立天文台 教授 2002年 総合研究大学院大学数物科学研究科長(併任) 2014年 TMT国際天文台評議会副議長(併任) 2015年 国立天文台名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授 2015年 ハワイ大学研究公社職員 TMT国際天文台日本代表 2020年 国立天文台退職 2020年 日本学士院会員 |
Ⅴ.演題 | 「最新の宇宙像」 |
Ⅵ.事前宣伝 | 私たちがハワイ島マウナケア山頂に17年かけて1999年に完成した8mすばる望遠鏡は、130億光年かなたの銀河を観測して宇宙の夜明けを解明し、ダークマターの分布も明らかにしつつあります。また、視力を10倍にする「超賢い眼鏡」を装備したすばる望遠鏡は、太陽系以外の恒星を廻る惑星の撮影にも成功しました。国立天文台がチリに建設した電波干渉計ALMAも惑星誕生の現場やブラックホールシャドーの撮影に成功。ニュートリノや重力波の観測も始まり、人類の宇宙観はこの20年で劇的な進化を遂げています。最新の天文学・宇宙物理学の知見をスライドやムービーで分かりやすくお話します。一方で、2008年以降、これらの観測をさらに先へ進めるためライフワークとして取り組んできた次世代超大型望遠鏡TMTの建設は、ハワイ先住民迫害の歴史問題を背負った反対運動に会い、工事ができない状況が続いています。月や火星などの探査や宇宙への進出も視野に入りつつあり、宇宙文明との遭遇さえ真面目に考える時期が来たのかもしれません。これらについての問題意識も共有させていただければと想います。 |
Ⅶ.講演概要 | 家さんは2011年10月以来、2度目のご講演となる。 東京六稜倶楽部 | 【第106回】「すばる望遠鏡で見る宇宙の一番星」 -六稜WEB (rikuryo.or.jp) 紹介者は80期の稲田正俊さん。 1.ハッブル:宇宙を拡げた男(1920年代)・エドウィン・ハッブル(1889-1953)は、アメリカ・カリフォルニアのウィルソン山天文台(2.5m望遠鏡)において、1923年10月から翌1月までの観測で、アンドロメダ星雲の中に距離測定の物差しとして使えるセファイド型変光星を発見した。これにより地球からアンドロメダ星雲までの正確な距離の算出に成功。我々の天の川銀河の外にも別の銀河が存在する事を世界で初めて実証した。(第一の功績)
・その後、複数の渦巻銀河を観測し、地球からの距離と移動速度を算出した結果、地球から遠い銀河ほどより大きな速度で地球から遠ざかっていることを発見し、1929年に「宇宙膨張」を示す論文を発表した。(第二の功績)
・これら二つの大きな功績により、ハッブルは世界で最も有名な天文学者として知られるようになったが、自己中心的で愛想のない性格が災いし、上司・同僚・学生から慕われず、晩年は観測提案書が不採択となり、肖像画や銅像も作られず、ノーベル物理学賞の受賞も適わず、失意のうちに亡くなった。
・アメリカ航空宇宙局(NASA)によって1990年に打ち上げられた大型宇宙望遠鏡はハッブル望遠鏡と命名された。ハッブルの死後約30年たってようやく彼の偉大な功績が認められたのである。ハッブル望遠鏡は打ち上げから30年以上たった現在でも現役で観測を続けている。
・参考著書:ハッブル 宇宙を広げた男 (岩波ジュニア新書)
2.すばる望遠鏡建設(1990年代)『ハワイの8.2m反射望遠鏡「すばる」の画期的な点は、自重変型や空気のゆらぎによる結像性能の劣化から、望遠鏡が解放されたという点です。』 ―われら六稜人“超望遠鏡すばる誕生の秘密”から抜粋―
1)賢い鏡のアイデア・私は、1978年の博士論文(渦巻構造は銀河円盤の振動の自己重力不安定性に発生することを証明)を元に、姿勢や温度変化による巨大な鏡の歪みを制御する方法を提案した(1989年)。
・鏡の形がいつも理想的になるように、鏡の歪みを毎秒毎秒精密に測定し、261本のロボット腕で薄い鏡の歪みを直すという方式だ。(添付資料No12)
・この方式を実証するため、実験用望遠鏡を作って実験したところ、予想に反して、人が活動する昼間よりも、何故か人がいなくなる夜間の方が測定値のブレが激しい事が分かった。(夜に暴れる鏡の謎?)
・犯人は夜の外気温と鏡本体の温度差から生ずる陽炎(空気のゆらぎ)だった。すばる望遠鏡では空調で観測開始前に鏡を冷やす仕組みを作り陽炎が立たないようにした。
2)世界最大のガラス・直径8.2mという、これほど大きなガラス(鏡)を作る設備は世界中どこにも存在しなかったので、まず工場の建設から始めなければならず、鏡を完成するのに7年かかった。1998年8月ついに世界最大級、世界最高精度の鏡が完成した。
3)ハッブル宇宙望遠鏡との感度勝負・すばる望遠鏡の最初の観測には、ハッブル宇宙望遠鏡との感度勝負を行った。(1999年1月)
・当時、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影済みの40億光年彼方の銀河集団の画像が発表されていたので、すばる望遠鏡でも同じ領域を撮影して画像を比較した。(添付資料No19)
・大気のない宇宙空間で観測するハッブルと比べると、約100㎞の大気を通して観測するすばるの方が不利だと覚悟していたが、どこまで暗い星を検出できるかを比較してみると、両方とも同じく28等星の撮影に成功、写真撮影での勝負は引き分けとなった。
・ハッブル宇宙望遠鏡の直径2.4mと比べて、すばる望遠鏡の直径は8.2m。鏡の面積はハッブルの13倍となるので、分光観測では、すばる望遠鏡が勝てると確信した。
3.最新の宇宙像:暗黒トリオ(2000年代)我々21世紀の宇宙物理学者は3つの暗黒問題に取り組んでいる。 ・暗黒時代(初代の銀河が誕生したのはいつ?)
・暗黒物質(未知の素粒子、見えない重力源?)
・暗黒エネルギー(真空のエネルギー、宇宙の膨張を支配する力?)
0)ビックバン宇宙論ジョージ・ガモフによる宇宙シナリオの提唱・宇宙には高温高密度の始まりがあった。
・その火照りの名残が宇宙背景放射線として残っているはず。
・38万年後、空間の膨張により宇宙は急速に冷えた。(光のない冷たい宇宙、暗黒時代の始まり)
・暗黒時代の後、ガスの濃い部分から最初の星や銀河が生まれた。(原始銀河の発生)
・炭素、窒素、酸素、鉄などの原子は星の中で核融合反応によってできた。
ビックバン宇宙論の確立・1964年、ベル研究所のロバート・ウィルソンらがマイクロ波の宇宙背景放射を偶然発見し、ビックバン宇宙論が確立された。(1978年ノーベル物理学賞受賞)
1)暗黒時代の夜明け:一番星を見る・宇宙考古学:天文学者は遠い宇宙を見る事で、宇宙の過去の姿を直接見ることが出来る。
・1967年、原始銀河の探査方法が提唱されたが、望遠鏡の性能が追い付かず、1990年代半ばになるまで誰も観測できなかった。
・宇宙で一番多く存在するのは水素原子。水素原子が出す一番強い光はライマンアルファ光。ドップラー効果により、遠ざかるスピードが速いほど光の波長は長くなる(赤方偏移)。すなわちライマンアルファ光の赤方偏移が大きい銀河ほど、地球からは遠い銀河だと言える。遠くの銀河を観測する事で、過去の宇宙の姿がわかる(宇宙考古学)。
・私たちは、地球の大気分子の発光に影響されない波長域(夜空の暗い窓)を選び、赤色偏移したライマンアルファ光をとらえるべく、すばる望遠鏡で宇宙を探査した(特注フィルターによる分光観測)。
・その結果、赤方偏移7の銀河(約130億光年かなたの銀河)を1個だけ発見し、IOK-1と命名した。IOK-1は最遠方銀河の世界記録として公認された。(添付資料No25-No27)
・126.5億年前の宇宙(赤方偏移5.7)には約50個の銀河、128.2億年前の宇宙(赤方偏移6.6)では約40個の銀河が見つかったが、128.8億年前の宇宙(赤方偏移7)では1個の銀河しか見つからなかった。
・これは129億年前後の僅かな間に宇宙に何か劇的な変化が起こったことを示す。我々はこの時期を、銀河が一斉に生まれた「宇宙の夜明け」と呼んでいる。
・最新の宇宙モデル:138億年の宇宙史(添付資料No31)
①宇宙は138億年前ビックバンで始まった。
②高温高密度の宇宙の最初の3分間で陽子とヘリウムの原子核が生まれた。
③宇宙の晴れ上がり:38万年後、膨張により3000度まで冷えた宇宙で陽子と電子が結合し水素原子が発生。宇宙が晴れ上がったことで名残りの光(宇宙背景放射)が地球に届くようになる。
④宇宙の暗黒時代:光を放つ天体が何もない状態。冷えた宇宙。
⑤宇宙の夜明け:星の誕生と原始銀河の大量発生。
⑥原始銀河が合体と成長を繰り返し、今日の銀河となるなかで、恒星の核融合で水素以外の原子が出来る。
⑦46億年前、太陽と同時に地球が生まれる。
⑧1万年前、人類が誕生する。
・動画によるシミュレーション:観測データに準拠する160万個の銀河の三次元空間を航行する。
2)暗黒物質という素粒子(見えない重力源)・ブラックホールによる重力レンズ効果は著しく、良く知られている。(画像の歪み)
・すばる望遠鏡で銀河団を観測すると、重力レンズと同じような現象(画像の歪み)が見られた。これを逆算することで、暗黒物質の三次元的な構造を世界で初めて明らかにした。(添付資料No33)
3)暗黒エネルギー(宇宙斥力)・宇宙の未来は、重力により膨張が減速すると考えられ、放送大学での私のTV授業でも20年前まではそう教えていた。しかし宇宙背景放射の分布と超新星の観測から、宇宙膨張は70億年前から加速膨張に転じていることが分かった。
・宇宙の組成を調べると、暗黒エネルギーが73%、暗黒物質は23%、通常の物質はたった4%。これは宇宙の膨張に歯止めをかける重力よりも、宇宙斥力(暗黒エネルギー)の方が遥かに大きい事を示している。
・暗黒エネルギーの存在を直接証明するには、次世代の超大型望遠鏡が必要になる。
・地球からいろいろな距離にある銀河までの距離を測定する。これを毎年繰り返すと、それぞれの銀河の加速度が算出できる。つまり遠い銀河(遠い過去の時間)から近い銀河(近い過去の時間)の加速度を体系的に観測することで、宇宙の減速膨張から加速膨張への転換史を直接証明できる。(添付資料No36)
・宇宙は毎年138億分の1ずつ膨張している。この事実の測定には、1年で138億年分の1の膨張を感知できるような精度の高い望遠鏡が必要である。(次世代超大型望遠鏡TMTの必要性)
4.ボケを直す補償光学(2000年代)私たちは、大気の揺らぎによる光の乱れ(ボケ)を解消するレーザー補償光学系を開発し、すばるの視力を10倍に改善した。(添付資料No38) 1)賢い眼鏡(添付資料No40)・補償光学系:光が大気を通過する時の揺らぎを波面センサーで感知する。その揺らぎを打ち消すように可変形鏡(直径15cmの鏡を1秒間に1000回変形させる精密装置)を駆動する。すると、望遠鏡で集めた歪んだ光波面は、可変形鏡で反射するときに歪みが補正され、賢い眼鏡を通して見たようにくっきりした画像となる。
・補償光学系を駆動させるには、観測したい方角に指標となる明るい星(ガイド星)がないと使えないが、そんな都合の良い星はなかなか無い。
・レーザー補償光学系:そこで、補償光学系をいつでもどこでも使えるように、任意の方角に人工のガイド星を作り出す装置を開発した。人工星は地上90㎞にあるナトリウム層にレーザー光線を当ててピンポイントでナトリウム原子を発光させてつくる。
・これにより、観測したい天体がどんな方角にあっても観測できるようになった。
・アンドレア・ゲズ博士は、同じような装置を使って天の川銀河系の中心部を観測し、ブラックホールを発見したことで2020年にノーベル物理学賞を受賞した。
2)補償光学技術の応用・天文学から始まった補償光学技術は、現在では医療などいろんな分野に応用されている。(添付資料No44)
5.別の地球を探す(2010年代)・すばる望遠鏡は太陽系外の惑星の直接撮影に成功している。(添付資料No48)
・生命居住可能惑星はハビタブルゾーン(表面温度が適切で液体の水が存在できる環境)に存在すると考えられる。ハビタブル惑星の大気中に生命活動の証拠(酸素・メタンなどのバイオマーカー)が確認できれば、その惑星に生命が存在する可能性があると言える。
・将来、望遠鏡による観測でハビタブル惑星の大気を分析できるようになれは、生命が存在する地球のような惑星を探せるようになるだろう。(次世代超大型望遠鏡TMTの必要性)
6.次世代望遠鏡TMT(2020年代)・TMTはガラスの直径30mの次世代超大型望遠鏡。32等級で光る星の観測が可能。
・5か国の国際共同科学事業として2014年4月にTMT国際天文台が設立され、私はその評議員会の初代副議長となった。
・だが、残念なことに2014年の10月、TMTの山頂工事の起工式でハワイ先住民による抗議行動が起こった。それ以来、工事は7年間ストップしている。
・次世代望遠鏡TMTの建設は、昨年のNSF(全米科学財団)のデカダルサーベイ(※)において、次の10年間で実現すべき第1位の計画であると評価された。
※decadal survey:10年に1度行われる宇宙科学・探査の動向とこれからの在り方についての勧告。次の10年間に行うべき大規模計画の選定と順位付けが行われる。
7.人類文明の品格と寿命・私たちの体は1027個の原子からできている。水素原子は宇宙の始まりの頃に作られ、水素以外の原子は星の中の核融合反応によって作られた。つまり、私たちの体は生命の進化によって形づくられたが、その1つ1つの原子は、宇宙の進化によって途方もなく長い時間をかけてどこかの星で生まれ、途方もなく広い空間を旅してきたものが集まっているのである。
・「人類文明の品格と寿命-宇宙目線からの憂い」岩波図書
8.さいごに2035年9月2日に関東で皆既日食が観測できる。一番良く見えるのは地図(添付資料No71)の赤い線上に示した部分。皆既日食は一生に一度は見て頂きたい感動的な天体現象なので、是非長生きして、ご自身で観測して頂きたい。
9.質疑応答(敬称略)石垣具子(69期):最近、テレビで小惑星7482の話題が取り上げられていて不安になりました。このような小惑星が地球に衝突することはあり得るのでしょうか? 回答)小惑星が地球に衝突する可能性はゼロではありません。現在、すばる望遠鏡でもそのような小惑星を探査し研究するプロジェクトが進められています。天体の衝突を回避する研究も行われていますが、小惑星が地球に衝突する確率はとても小さいので、心配しなくても大丈夫だと思います。
野田美佳(94期):銀河と銀河系の違いについて教えてください。 回答)ハッブル以前には銀河系内の星雲と銀河系外の銀河系と同様の「銀河」をまとめて星雲(nebulae)と呼んでいました。現在では銀河系と同様の無数の恒星とガスからなる「星雲」は銀河(galaxies)と呼んでいます。そんななかで我々の銀河を特別に「銀河系(the Galaxy, Milky Way system)」と呼びます。
藤田浩一(77期):家さんの考えておられる100年後の世界について解説をお願いします。 回答)今から100年前の明治時代に発行された報知新聞に掲載されていた「二十世紀の預言」は、23項目中15項目を的中させています(添付資料No68)。私も今から100年後の未来世界について予言をしてみました(添付資料No69)。
坂田東一(79期):本日のお話を伺って、TMT天文台がこれからの天文学の発展にとても重要な役割を担うことが分かりました。地元の反対運動が続いて建設工事が中断しているのは大変残念な事です。反対運動を解決する糸口は何かあるのでしょうか? 回答)文科省ではお世話になりました。
不幸な歴史を背負ったハワイの先住民の一部は本当に貧しい生活をされています。わずかですが我々も生活支援を行っています。現地でアンケート調査をすると、経済・雇用・教育の面からも建設に踏み切った方がよいと考える人のほうがずっと多いのですが、反対運動はSNSを中心に展開されていて明確な代表者が居ないことと、微妙な政治問題となってしまったため施政者も決断できずにいて、難航しています。
押鐘浩之(学外):宇宙の始まりの頃、素粒子と反素粒子は同じ数だけ生成されたはずですが、宇宙には反物質(反素粒子)が殆ど存在しません(CP対称性の破れ)。素粒子物理学では、ビックバンの環境を人工的に作り出してこのしくみを解明しようとしています。天文学では、CP対称性の破れは実際に観測できるのでしょうか? 回答)私は観測事実に立脚した研究者ですので光が届く範囲の宇宙の事しか議論できません。反物質宇宙を含む他の宇宙の存在(マルチバース説)も含めて、ビックバン以前に実際に何が起こったのかは、残念ながらどんなに性能の良い望遠鏡でも観測できません。
多賀正義(76期):すばる望遠鏡の大きな鏡を作るのに7年もかかったという事ですが、同じものが観測できるなら、大きな電波望遠鏡を建設した方が簡単ではないかと思いました。光学望遠鏡と電波望遠鏡の違いについて教えてください。 回答)電波望遠鏡も光学望遠鏡も電磁波を集める仕組みは同じですが、集めた電磁波を反射させる鏡面精度が異なります。電波望遠鏡では金属の反射板を使いますので波長の長い電磁波を捉えるのには問題ありませんが、光(紫外線・可視光線・赤外線)のような波長の短い電磁波では乱反射してしまい、像の精度が上がりません。そこで光を捉えるのに鏡面精度の高いガラスの鏡が必要となります。同じ宇宙空間を観測しても、電波望遠鏡と光学望遠鏡では見えてくる天体が異なります。最新の天文学では、いろいろな望遠鏡(光赤外線望遠鏡、電波望遠鏡、X線望遠鏡、重力波望遠鏡、ニュートリノ望遠鏡など)を使って宇宙の探索を行います。
秋下貞夫(69期):私は三菱電機で騒音制御の研究をしていました。補償光学系のようなフィードバックシステムは相当高い精度が要求されるはずで、実用化するのには技術的に大変難しかったと思います。波面センサーのしくみについてもう少し詳しい解説をお願いします。 回答)すばる望遠鏡からパワーレーザーを放射して上空90㎞に浮遊しているナトリウム原子を励起してやると589㎚の波長で発光します。その光をすばる望遠鏡で測定すると、空気の揺らぎのせいでできる光の凸凹が感知できます。波面センサーには波面の1次微分を測るシャック・ハルトマンセンサーと波面の2次微分を測る曲率センサーがありますが、すばるでは後者を使っています。波面センサーで正確に測定し、可変形鏡を使って光の凸凹を打ち消して平らに矯正すると、あたかも真空の宇宙で観測するようなきれいな画像が得られます。すばる望遠鏡では、レーザー周波数をナトリウムD2線の周波数に1000万分の1の精度で合わせて制御し、発光するナトリウムの光を1KHzで高速測定し、可変形鏡を数百Hzの応答領域で制御しています。
【記録:野田美佳(94期)】 |
Ⅷ.資料 | RikuryoTokyo20200115Iye.pdf(2.4MB) |