Ⅰ.日時 | 2021年6月26日(土)14時00分~15時30分 |
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Ⅱ.場所 | Zoomによるインターネット開催 |
Ⅲ.出席者数 | 65名 |
Ⅳ.講師 | 田中秀樹さん@88期(近畿大学水産研究所教授(魚類繁殖生理学))
1957年 大阪府生まれ 1982年 京都大学大学院農学研究科水産学専攻 修士課程修了 1982年 水産庁養殖研究所 研究員 1996年 博士(農学) 2004年 日経BP技術賞 医療・バイオ部門賞、2011年 水産学会賞、2012年 日本農学賞 受賞 2018年 国立研究開発法人水産研究・教育機構 増養殖研究所を定年退職後、同年4月より現職 著書:うなぎ[謎の生物](築地書館 2012)分担執筆、ウナギの科学(朝倉書店 2019)分担執筆、トコトンやさしい養殖の本(日刊工業新聞社 2019)分担執筆 |
Ⅴ.演題 | 「ウナギの完全養殖の実用化を目指して」 |
Ⅵ.事前宣伝 | ウナギは日本の食文化に欠くことのできない食材ですが、国内消費量の99%以上を養殖に依存しています。ウナギは川や湖など淡水で育つ魚ですが、産卵は日本列島から遠く離れたマリアナ諸島西方海域で行われます。孵化した仔魚はレプトセファルスと呼ばれる透明な柳の葉のような形態の幼生となって北赤道海流に運ばれて黒潮源流にたどり着き、約半年かけてシラスウナギと呼ばれる稚魚となり、日本列島など東アジアの生息場所に来遊するのです。ウナギ養殖の元種となる種苗はすべて河口付近で採集された天然のシラスウナギが用いられており、現在のウナギ養殖は「完全養殖」ではありません。近年、漁獲されるシラスウナギの量が著しく減っているためウナギ養殖に必要な種苗の確保が課題となっており、一日も早い「完全養殖」の実用化が望まれています。ウナギの完全養殖を目指す研究は古くから行われ、北海道大学で1973年に人工孵化に成功しました。ところが、孵化した仔魚は、それまでに種苗生産に成功していたマダイやヒラメなどと同様の方法では全く育てることができず、20年以上、大きな進展は見られませんでした。その間、地道な研究を続けていた国の水産研究所において、1996年にサメの卵を材料とした液状の飼料でウナギの仔魚を成長させうることが発見され、2002年に初めてシラスウナギまで育てることに成功しました。その後、2010年には人工飼育した親から生まれた卵をシラスウナギに育てる、いわゆる「完全養殖」も達成されましたが、実用的なコストでの大量生産ができないため、この技術は現在も実験室レベルに留まっており、実用化されていません。その原因として、ウナギの完全養殖実現のための各ステップに様々な困難が残されていることが挙げられます。
近畿大学水産研究所では、これまでにクロマグロだけでなく多くの海産魚の完全養殖を世界に先駆けて達成し、実用化してきた実績があります。国の研究所で開発されたウナギの種苗生産技術に近畿大学水産研究所の実用化のノウハウを融合させ、ウナギの完全養殖実用化を実現することを目指しています。 |
Ⅶ.講演概要 |
1.近畿大学水産研究所について所在・水産研究所の各種施設は、和歌山県にあるが、私は現在、那智勝浦町にある「浦神実験場」に所属している。
・結構辺鄙な所で、JR利用で、大阪・名古屋から約4時間、東京からは、新幹線利用で約6~7時間、航空機(白浜空港)を利用しても約3時間かかる。
各実験場・種苗センター・アーマリン近大の関係(以下が相互に関連している)・各実験場:「教育・研究」・生産現場の課題の解決・技術開発
・水産養殖種苗センター:「陸上生産・販売」・飼料培養・仔稚魚飼育・中間育成
・アーマリン近大:「海上生産・販売」・親魚養成・稚魚/成魚養成・出荷
世界で初めて人工孵化から種苗生産に成功した魚種・近大と言えば、近大マグロの人工養殖で有名であるが、種苗生産成功には、その他にも様々な魚種がある。
・1965年のヒラメから始まって、1960年代:5種類、1970年代:10種類(内、クロマグロは1979年)、1988年:クエ、1991年:マイワシ、1999年:マサバ
完全養殖達成魚種・完全養殖とは、上記種苗生産の一歩先をゆくもので、その人工的な種苗から人工的に親に育て、その親から卵をとって、次の世代を創るという無限のループを創り出す、つまり天然の資源に影響を与えずに魚を創り続けるもの。
・完全養殖に成功したのは、(1964年の)マダイから始まって2002年クロマグロまで16種類。
近大(理事長)2020メッセージ <近大も世界を熱くする。>・近大クロマグロは、50年前から挑戦が始まったが、五輪マークのように並んだ丸い大きな生簀の中で泳ぎ続け大きく成長してゆく。
・目指すは、餌さえも天然の海洋資源に依存しない「完全なる完全養殖」の達成。それは持続可能な社会を実現させる大きな一歩。
・次に、国民の期待を背に、完全養殖ウナギの大量生産へ。
・日本の食卓を支え、さらには世界的な食糧不足を解決する切り札を近大は持っている。
2.ウナギの供給量・供給量は、漁業生産量(天然ウナギ)・養殖生産量・輸入量に大別される。
・漁業生産量のピークは1941(S36)年に3,387tであるが、その頃は既に養殖生産量の方が上回っていた。
・1973(S43)年頃から、輸入が開始されるが、養殖生産量のピークは1989(H1)年で39,704t、但し、その頃既に、輸入量(全て養殖ウナギ)が全体の半分以上を占めていた。
・輸入に関しては、1980年代は台湾から、90年代からは中国からが中心となっている。
・供給量・輸入量のピークは、2000(H12)年で供給量158,094tに対して、輸入量が133,211tを占めており、直近の2019(R1)年は、供給量48,547tで構成は、輸入量31,410t・養殖生産量17,071t・漁業生産量66tとなっている。
・そのピークを境に、輸入量が急減しているが、その理由の一つが、中国の食品に対する不信感(薬剤使用等)があげられる。
・もう一つの原因が「ウナギ資源」の問題で、先ず、2007(H19)年頃、ワシントン条約で、ヨーロッパウナギが絶滅危惧種に指定されたことがあげられる。
・現在は、ニホンウナギも絶滅危惧種に指定され、供給量は減っており、全体で約5万t、輸入が3万t・養殖が約2万t(天然は微々たるもの)という状況が続いている。
3.ウナギの養殖・天然のシラスウナギ(5~6cm)を採捕し、ビニールハウスの中の養殖池で育てている。
・魚を粉にして澱粉と魚油を加えて練り合わせた「餌」を与えて育て、半年から1年で出荷サイズ(200~250g)になる。
・養殖には天然のシラスウナギが不可欠。
4.ウナギの一生概要・天然のシラスウナギが黒潮に乗って南方から訪れるので、それを取って育てる。
・取られなかったシラスウナギは、河川や湖沼で育って、4年から10年たって成魚となって、秋から初冬に、「下りウナギ」として川から下って海に至り、どこかの産卵場に向かう。
・ウナギは19種類あるが、その全ての種類の産卵場はこれまで分かっていなかった。
ヨーロッパウナギ(アメリカウナギ)の産卵場・その最初の研究は、ヨーロッパウナギで、1897年にドイツで「ウナギの繁殖と変態に関する論文」が発表されている。
・ウナギとは別の種類の魚として学名がつけられていた透明で平たい形態の不思議な魚(レプトセファルス:Leptocephalus brevirostris)から徐々に姿を変えて、最終的にヨーロッパウナギのシラスウナギとなることを明らかにしている。
・また、このレプトセファルスがどこから来るのかというのを研究したのが、デンマークの海洋生物学者のヨハネス=シュミットで、より小さいレプトセファルスがどこにいるのかから探っていった。
・1922年の研究であるが、探って行くと、北米の東、キューバ近傍の「サルガッソー海」に辿り着いた。同時にそこでアメリカウナギも産卵していた。
日本ウナギの産卵場・太平洋ニホンウナギ産卵場調査は、1930年代に日本近海で始まり、1967年に沖縄で初のウナギレプトセファルス(約50mm)が採取された。
・産卵場の推定海域は初め南方へ、そして東方へ、黒潮や北赤道海流に沿って移動してゆき、1991年に全長10mm程度のものが、グァムやマリアナ諸島西方海域で発見された。
・そして同年、東大海洋研究所の「白鳳丸」研究航海により、産卵場はマリアナ諸島西方海域と特定され、1992年にはそのことで、雑誌「ネイチャー」の表紙を飾った。
・その後2005年には「天然のプレレプトセファルス幼生」が発見され、また、プレから卵・親を見つける研究が続けられ、2008~2009年に、グァム島の西、マリアナ海溝の北側で発見された。
・さらに同時に、水産庁の漁業調査船開洋丸(2,630t)で、産卵場の親ウナギを探す調査が行われ、2009年第2レグ(6/12~7/1)には私も参加している。
・沖縄那覇から調査海域まで、船で3日半かかり、帰りは東京までやはり、3日半かかった。
・この時の漁獲装置は、中層トロールで、その網は、開口部の幅が約55m・高さ60mの巨大なもので、夜8時に海に入れ、水深300mから水平に引くこと2回で、夜中の2時頃まで、約6時間かけて 捕獲した。
・獲物は、ぐちゃぐちゃの状況で、タコやイカ・エビ、イワシやクラゲ等雑多で、5kgから多い時には30kgになる。
・それを手際よく分類すると、その中で、ウナギ近縁種である、ヘラアナゴ・クビナガアナゴ・シギウナギ・クロシギウナギが採捕されていた。いずれも深海魚。
・その他に、900m(~2-300m)の深海で採捕されるノコバウナギ等があるが、その中で、ニホンウナギも採捕された。痩せ細って、90gほどの小さいものだった。
・日本から2000kmも離れた大海原まで、この小さなウナギがはるばる泳いできたというのは、本当に驚きであった。
・2009年に採捕されたもので、雄・雌とも解剖し、卵や白子の状況を観察した。<写真>
ウナギの一生・成熟したニホンウナギの親ウナギは海に下った後、小笠原海流にのって、南の産卵場(マリアナ諸島西方海域)へ向かい、到着後産卵する。
・そこで、孵化し、プレレプトセファルスとなり、北赤道海流にのって、レプトセファルスから変態してシラスウナギとなり、更に黒潮にのって中国南部から、朝鮮半島や日本列島沿岸に来遊する。そして、成長後捕獲されて、最後はかば焼きとなる。
・これが天然ウナギの一生であるが、一説によると天然シラスウナギの7割程度は捕獲されて養殖にまわされるとのこと。
5.ウナギの漁獲量国内の天然ウナギ漁獲量・稚魚・成魚とも、1960年頃をピークに右肩下がりである。
・稚魚の漁獲は80年代以降安定しているとは言え減少傾向で、かつて(60年代)は200tくらいあったものが、現在は20t以下。
・成魚についてもかつては3000tくらいあったものが、現在は100tをきるくらいの状況で、資源の減少が憂慮されている。
国内のシラスウナギの池入れ量と価格・養殖に使用されるシラスウナギは、国内で不漁の際には、中国・台湾からの輸入で補い、2003年頃からは毎年だいたい20t程度を確保している。
・シラスウナギの稚魚は約0.2g、成魚は200~250gで、だいたい千倍くらいに増える。
・トータルで、概ね20tの稚魚を池に入れ、2万tの養殖生産となる。
・値段の方は、取れる年取れない年で変動があり、一番高い年は(2018年)、約300万円/kg。1kgで5000匹ほどなので、1匹辺り600円程度となる。それが成魚になるとどれくらいになるかは想像して頂きたいが、鰻の値段が高いのはある程度仕方がないと思われる。
資源保護・2014年に日本・中国・台湾・韓国が集まって、養殖池に入れる稚魚の制限量が決まり、この年の各国の池入れ量の8割を上限とすることとなった。
・日本では、1年の上限が21.7t。近年で一番多かった量の8割であるが、その後、上限に達した年はなく、この取り決めの意義が問われている。
東アジア各国のニホンウナギシラス池入れ量・韓国・中国・台湾・日本の池入れ量を合計することで、その年のニホンウナギ稚魚の総漁獲量がおおよそ把握できる。各年バラツキはあるが、2018・2019年は不漁(全体で20t程度)で、2014年(上限設定年)が豊漁でトータル90t(内、日本約27t→その80%で以後の上限を21.7tに決定)。
・2020年は比較的豊漁で、トータル80tあるが、別の採捕量の情報では、110t(内、日本23t程度)という噂があり、実際、闇から闇へ流れている可能性もあり、資源保護がどれだけ効果があるのか危ぶまれている。
6.ウナギ人工種苗生産研究ウナギ人工種苗生産(人工的に養殖に使う種となるシラスウナギを造ること)の難しさ・ウナギは飼育条件下では自然に成熟・産卵しない。
・養殖ウナギを解剖しても、精子・卵子は確認できないほど未熟。
・GSI(体重に対する卵巣・精巣の重さの割合)が、雌で1.0-1.7、雄で0.2-0.3 という非常に未熟なものである。
・また、飼育条件下では殆ど(通常90%以上)が雄になり、養殖ウナギの中に雌は殆どいない。
→雌化、成熟・産卵誘起技術が必要となる。
人工種苗生産研究の歴史-その1・1960年代:ニホンウナギの人工孵化を目指した研究が始まる(東京大学など)
・1973年:世界初の人工孵化に成功、5日間生存(北海道大学) 静岡県水産試験場・千葉県水産試験場・東京大学でも成功
・1975年:体重増加を目安としたホルモン投与法の開発
・1976年:孵化後14日間の発育を観察(静岡県水産試験場)
・1979年:孵化後17日間の飼育に成功(東京大学):但し卵の栄養だけで餌はナシ
・1991年:メス化養成親魚より孵化レプトセファルスを得ることに成功(愛知県水産試験場)
従来のウナギの人為催熟および人工授精法・自然では進まないので、ホルモン注射をする必要がある。
・雄にはHCG(人の胎盤から採取)を、雌には、サケの脳下垂体抽出液を注射して成熟させる。
・しかし、雄はしばしば精子の活性が低く、雌は排卵せずに過熟になることが多いため、上手く受精できないことが多い。
改良された人為催熟および人工授精法・その後、色々改良が行われ、雌にはOHPと呼ばれるステロイドホルモンを追加で注射すると排卵が進み、雄には、注射ではなくオスモティックポンプを腹に埋め込むことにより、速やかな人工授精が可能となった。
・更に、雄では、精液を人工精漿で培養して冷蔵保存して更に凍結保存して、受精機会を増したり、遺伝子を取り出して培養細胞に導入して生産するリコンビナント(組み替え)ウナギ生殖腺刺激ホルモンも開発されて、商業的にも販売されている。(高価)
・ホルモン投与による成熟→投与された雌雄とも解剖すると精子・卵子が成熟している。
・人工授精:雄から精子を取って、希釈冷蔵保存し、雌から卵を絞って掛け合わせ、海水で管理を行う。<受精卵写真>
・ウナギの孵化の動画(30分程度):直後は全長3mm弱。
→仔魚の発生と成長・消化機能の発達
・海産魚の初期飼料:ワムシ<写真>
・ワムシ給餌による飼育の問題点
・摂餌率が低い ・摂餌量が少ない ・摂餌行動の成功率が低い ・暗黒下でも摂餌する ・日齢18、全長7.3㎜が限界
→生きたワムシではウナギは育たない。
*試してみたエサ
①よく食べたもの・②少しは食べたもの・③食べなかったもの・④害があったもの)
・生物餌料:②ワムシ・冷凍ワムシ・天然プランクトン/③オタマボヤ・アルテミア/④ミズクラゲ・カブトクラゲ
・市販配合餌料:②海産魚用初期餌料・甲殻類用初期餌料・シラス餌付け用ペースト状餌料
・栄養強化餌料:①サメ卵粉末/③濃縮ナンノクロロプシス・DHA強化ユーグレナ
・その他:②イカ・エビ・鶏卵(卵黄)・ムラサキイガイの生殖巣・ムラサキイガイの未受精卵・ウニの未受精卵・ウナギ卵・マダイ卵・のれそれ(マアナゴ幼生)/③バクテリアボール・光合成細菌・塩蔵クラゲ・エイのヒレ・ゼラチン/④ヒトデの卵・ナマコの卵
*嗜好性の高い餌:サメ卵凍結乾燥粉末 栄養強化用
→1996年:仔魚の摂餌を確認
1998年:サメ卵飼料給餌による成長を確認(写真:無給餌区で13日までが27日まで延長)
*これでも栄養が足りないということで、「オリゴペプチド添加飼料」<サメ卵粉末+オリゴペプチド+ビタミン・ミネラル・オキアミ(抽出液)>でポタージュスープのような液状飼料を給餌→よく食べる様になった。<動画>
人工種苗生産研究の歴史-その2・1999年:レプトセファルスまでの飼育に成功(養殖研究所:現水産研究・教育機構)
・2002年:世界で初めてシラスウナギへの変態達成(水産総合研究センター:現_同上)
<写真>孵化直後3.6mm→25・50・100・150・250日(最大)を経て264日51.9mm
→≪2003年に宮内庁より連絡があり、皇居にて(天皇陛下と)「お茶」≫
→≪2017年(天皇退位表明後)には皇居にて(天皇・皇后に)「ご進講」≫
・2010年:世界で初めてニホンウナギの完全養殖に成功( 同 上 )
・2014年:1000リットルの大型水槽による飼育に成功( 同 上 )
*完全養殖 民間:㈱いらご研究所(東洋水産の小会社)・国外:韓国水産科学院
→いずれも商業規模での完全養殖には至っていない。
*ウナギ完全養殖までの道のり
・天然シラスウナギ→養成親魚→成熟親魚
→(ここからループ)受精卵→プレレプトセファルス→レプトセファルス→人工シラスウナギ
(→養成親魚→成熟親魚→受精卵→・・・・・)
*様々な難しいことがある。
・親魚養成が難しい ・人為催熟が難しい ・良質卵の安定確保が難しい ・仔魚用飼料が難しい ・大量飼育が難しい
7.近畿大学水産研究所におけるウナギ人工種苗生産研究の歴史・1976年:開始
・1984年:1/23に白浜実験場でホルモンを投与したウナギから誘発産卵で約30万個の浮上卵を得た。→2日後の1/25に孵化し、孵化後12日まで生存
・1998年:同様の誘発産卵に成功 ・いずれも仔魚が餌を食べて成長するには至らず
・2019年:(私の着任後)浦神実験場にて研究を再開
・3月~養殖ウナギを親魚候補として導入
・6/17よりホルモン投与による人為催熟を開始 ・7/20:雄の排精を確認
・9/11:3尾の雌より排卵、人工授精に成功
・9/12:孵化 9/19より給餌飼育開始
・9/18:1尾、10/3:2尾の雌より排卵・授精成功
・第2弾・第3弾の仔魚も給餌飼育を実施
・11/1:プレス発表(人工孵化初期飼育に成功→完全養殖を目指す)<動画>41日齢18mm(最長149日間飼育、最大37mmを記録)
・2020年:4月に浦神実験場のウナギ仔魚飼育実験施設-Ⅱを拡充
・近大ウナギ第1期生<動画>
8.ウナギ人工種苗生産の特殊性(クロマグロと二ホンウナギの比較)近大クロマグロ・良い環境におけば、卵は自然に産んでくれる。→孵化
・食べる餌も、日齢の若い順に、ワムシ・アルテミア・他魚種の孵化仔魚・魚肉ミンチ・冷凍魚等がある。
・また、アルテミアの後頃(15日頃)からは、配合飼料も可能。
・肉食なので、他の魚の仔魚を餌としてやらなければ、共食いしてしまう。
・成長も早く、稚魚になるまで1ヵ月足らず。
・仔魚は人間で言えば、乳児でミルク的なものから離乳食が餌となるが、稚魚は人間で言えば幼児で、大人とほぼ同じものが餌となる。仔魚の時期は餌が大変。
・数十トンの水槽で100万尾単位の飼育が可能で、1ヵ月程度で稚魚になり、生簀に出して、1年もたてば、5kgくらいまでに成長する。
ニホンウナギ・特殊な懸濁液状飼料を延々と食べ、孵化してから半年から1年で稚魚になるまで続く。
・そこからシラスウナギになると一般飼料となるが、ここまで1年かかる。
・また、液状飼料は水を汚すので、数十リットル規模の小型の水槽でしか飼えない。
・1回で数千尾の飼育を始めて、その中でシラスウナギが100匹出来れば大成功ということで、大量生産には向かない。そこが大きな違い。
もう一つの違い・マグロの場合は、1匹の稚魚を造ると、出荷サイズが30~50kg、1匹10万円以上になる。
・一方ウナギの方は、0.2gの稚魚を造ると、出荷サイズが200~250g、1匹が高いといっても、精々1,000~1,500円。
・つまり、1匹の価値が大きく違うので、ウナギの養殖は大変な割には、値段がつかないということになる。
9.近畿大学水産研究所の今後*これまで、世界の水産資源持続へと寄与するクロマグロ完全養殖の夢を実現してきた。
・有用魚類の飼育技術研究から、養殖産業の発展へ。
・実学の精神に則り、魚類の完全養殖を通じて、社会に貢献できる技術の形成に取り組んでいる。
*今後は、新たなウナギ仔魚用飼料の開発、シラスウナギまでの安定育成を目標とする。
・近大水研の総力を結集してウナギ完全養殖の実用化を目指す。
→持続可能なウナギ養殖の実現へ(SDGsの一環)
*2010年に「夢の扉」というTBSの番組で「ウナギの完全養殖」を取り上げてもらった。
・スポンサーはNTTであったが、「自分の夢をMYGOALに記す。」という取り決めがあったので、無理に書かされた。
・この時書いたのが、「2020年までに完全養殖ウナギを食卓に届けたい。田中秀樹」当時は先の話でそれほど考えた訳ではなく、いつの間にか約束の2020年を迎えたが、まだ実現している訳ではない。
・そこで新たな目標を設定することになった。
・「近大は万博だ」という近大のポスター(2019年:入試誘致用)に因み、
→2025年に大阪で万博が開催されるので、出来れば次の目標として、
・「2025年までに、美味しい完全養殖うなぎを食卓に届けたい!」
→これは、全国津々浦々の食卓というのではなく、近大の経営する居酒屋「近大卒の魚と紀州のめぐみ:近畿大学水産研究所」(大阪グランフロント店他)に於いて、数量限定・期間限定でもよいので、2025年までに実現したいと思う。
■質疑応答1.広本 治(88期)Q:日テレの「所さんの目がテン:科学の郷」で「エビかなんかの雌雄の比率が半々」という番組がありましたが、ウナギの場合は、その辺りは如何でしょうか?
→A:養殖池では殆ど雌が出来ずに雄ばかりになる一方で、自然に近い池でウナギを自然まかせで育てると、雌雄半々になるというのはあり得る。
・雄は成長が早く、養殖池では早く育てる方針なので、雄が多くなっている状況にある。一方、自分で餌を取らせるということになると、全般に成長が遅く、雌雄同数に近づく。
2.牧 武志(73期) Q:海外の養殖技術のレベルを教えて下さい。
→A:先ず、韓国の場合は、ある意味日本からの技術流出である。
・韓国でウナギの完全養殖をなし遂げた人は、東京海洋大学に留学していた人で、海洋大学で学位を取った後、研究支援職員という形で、水産研究教育機構増養殖研究所に来られて、ウナギの完全養殖を1から10まで全部覚えて、韓国の水産科学院に採用され、向こうで同じことを繰り返したことになる。従って、基本的には同じ技術。数億円の施設を作って大量生産に向けて歩みだしているところ。
・中国・台湾でも人工孵化までは出来ているが、シラスウナギが出来たかどうかの情報はない。
・他のウナギ(ヨーロッパウナギ・アメリカウナギ・オーストラリアウナギ)については、孵化までは出来ているが、餌を与えて育てるところまでは行っていない。
・東南アジアでは動き始めたところ。
3.秋下 貞夫(69期) Q:ウナギは結構逞しく、とんでもない上流に上ってきたりすると聞いていますが、そういう性質は、完全養殖に関係しますか、それとも全く関係ないですか?
→A:たくましいのが仇になる。水槽で飼っていると、考えられないような隙間から逃げだして、干からびて死んでいるということがある。
・天然ウナギと養殖ウナギを比べると、圧倒的に天然ウナギのほうが逞しい。
・天然ウナギの方が良い卵は採れるが扱い難い。
・完全養殖をやっていると、世代を経る毎に飼いやすくなって成長も早くなる。
・真鯛の養殖で1kgになるのに通常では3年かかるが、養殖の進んできた近畿大学の真鯛は、1kgになるのに1年ちょっとという例もある。
・マグロの養殖では生簀網に衝突して死ぬことが多かったが、第3~4世代になって、最近では次第におとなしく、飼いやすくなって、死ぬことも減ってきている。
・従って、養殖を続けると、様々な魚種で家畜化・家魚化というか次第に飼いやすくなる傾向が窺える。
Q:水流に立ち向かう逞しい育て方といった発想はなかったでしょうか?
→A:仔魚(レプトセファルス)の段階は、体が大きい割に筋肉量が少なく、運動に適したつくりになっていない。また、水流を与えることがプラスになるかどうかについては分かっていない。
4.西尾 大次郎(66期) Q:2025年に大阪グランフロントの「居酒屋:近大水産研究所」で、3000円程度でウナギが食べられる見通しは如何ですか?
→A:是非とも2025年にはお出ししたいと思います。しかしながら、数も限られるので、期間限定・数量限定で、ある範囲のリーズナブルな価格になると思いますが、恐らく全くもうからないでしょう。
・実は、マグロもそんなに儲かってはいない。
Q:スペインで2年前に養殖のウナギを、1kg:14ユーロ(1600~1700円)で食したことがある。(情報提供)
→A:ヨーロッパは、イタリア・スペイン・オランダ・デンマーク・北欧などで、ウナギは人気がある。
5.岡本 明(73期) Q:アナゴとウナギとは、種・科などどこまで共通するのでしょうか? 又、構造的に大きな違いはあるのでしょうか?
→A:「目」:ウナギ目で同じ、「科」の段階で違っている。
・見分け方としては、ウナギは下アゴの方が前に出ていて、アナゴは上アゴが出ている。
・また、アナゴはウロコがないが、ウナギにはある。
・アナゴは淡水では生きられないが、ウナギは生きられる。
・ウナギ目には沢山種類があって、ウツボやウミヘビなども含まれるが、いずれも淡水では生きられない。
6.釜江 尚彦69期) Q: 北海道にはウナギはいないと聞いたのですが、これは本当ですか?
→A:全くいないことはないらしい。ウナギの研究は北海道大学でも盛んで、ウナギがいるところがあるとのことであるが、殆どいないと言える。青森県までは確実に存在。
・ウナギは黒潮に乗って日本に来るが、なかなか北海道まで届かないのが実情。
【記録:植村和文(82期)】 |
Ⅷ.資料 | 資料-ナシ
※講師コメント:「さまざまなところからお借りしているスライドが含まれるため、掲載は控えさせていただきます。」 |