Ⅰ.日時 | 2020年7月18日(土)14時~15時30分 |
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Ⅱ.場所 | Zoomによるオンライン開催 |
Ⅲ.出席者数 | 58名(~69期:8名 70~79期:19名 80~89期:26名 90~99期:3名 100期~:0名 不明:2名) |
Ⅳ.講師 | 五十君興さん@88期 (株式会社日建設計執行役員) 成田国際空港など国内メジャー空港ターミナルビルをはじめ、ウエットからハードまで様々なタイプの研究施設、食品から半導体まで広範囲な業態の生産施設、物流施設を手掛けた。Industryに関わる施設設計のExperienceを重ね、最先端の研究施設、加速器施設、粒子線がん治療施設、スーパーコンピュータ施設にも実績を持つ。BCS賞など多くの賞を受賞し、先端技術やIndustry4.0に関わる講演啓蒙活動を行っている。 生年月日:1958年2月1日 — 学歴 — — 職歴 — 所属団体:日本建築学会、日本建築家協会 — 受賞歴 — — 主な経歴 — 日建設計HP https://www.nikken.jp/ja/ |
Ⅴ.演題 | 「Industry4.0時代の建築 ー羽田クロノゲート・豊洲市場を読み解くー」 |
Ⅵ.事前宣伝 | 「建築は産業経済活動によって変化していくものであると同時に文化でもある。ここ数年の社会的な変化、たとえばIoT、e-コマースやAIロボット、5G、自動運転などは産業界ではIndustry4.0として語られることが多いが、これらによって文化としての建築はどう変わるのか、変わらないのか。Industry4.0時代に、建築と社会の在り方がどう変化していくのかという視点で設計者自ら、東京の巨大建築 羽田クロノゲートと豊洲市場を解説する。 羽田クロノゲートはヤマト運輸が、物流の在り方を変えるというコンセプトのもと作られた次世代型物流施設。豊洲市場は築地市場移転先として2016年に完成したものの、土壌汚染問題が再燃し2年後に開場した巨大卸売市場である。双方とも私たちの都市生活を支えてくれている産業系建築であるが、文化としての建築として読み解いてみたい。」 |
Ⅶ.講演概要 | 紹介者は、同期の楠本圭子さん。五十君さんは呼び名が難しいので、犬君(いぬき)と呼ばれていた。これは源氏物語の若紫からとったものです。陸上部に所属していて、同世代の瀬古選手とは5000mで3週遅れぐらいのスピードでした。タワリングインフェルノという映画で、スティーブ・マックイーンよりはポール・ニューマンに憧れて建築家になろうとしたとか。現在は、日建設計の執行役員で、水泳、愛犬と遊ぶことがお好き。老後は海外旅行を楽しみたいとのこと。
以下は、五十君さんが講演で話した内容である。 ++-++-++-++-++ 1.五十君さんが関わった羽田クロノゲートや豊洲市場を紹介して、現在の建築のトレンド、そして現在大きな社会問題となっている新型コロナに関して、After CoronaやWith Coronaについて講演した。 ++-++-++-++-++ 2.五十君さんの経歴は上に紹介した通りである。1983年に日建設計に入社して、すぐに東京赴任、現在に至っている。日建設計は,1900年創業で、今年120周年を迎える。社員数約2000人の都市計画、建築設計、エンジニアリングといった総合的なサービスを行っている。日建設計の代表的作品は、東京スカイツリー(東京タワーも日建設計が設計)、八重洲口のグランルーフ、東急プラザ、ポーラ美術館、東京ミッドタウン、そして五十君さんが携わった羽田クロノゲート、豊洲市場などが挙げられる。 ++-++-++-++-++ 3.五十君さん本人の作品は、上記の「主な経歴」に紹介する通りである。成田空港旅客ターミナル、長野フィギュア―スケート会場、神戸のコンピューターレセプタクル(京、富岳)、大阪の重粒子がん治療センター、明治イノベーション、野田キッコーマン研究所が講演で紹介された。このように、五十君さんはエンジニアリングと融合した産業界の施設に数多く携わってきて、こういった施設の設計にも「建築は文化である」という思想が取り入れられるべきと考えている。 ++-++-++-++-++ 4.2010年以来Industry4.0の時代に入った。それ以前のIndustry3.0は、情報革命として日本がリーダーとなり、通信、情報、自動車の分野で自動化を取り入れた物づくりの時代であった。4.0では自動化から自律化ということで、ロボット、AI, IoTの進歩で物から事へ、メーカーからユーザーへ、Globalから地産地消へと主客逆転した時代になってきている。ドイツやアメリカがこれを引張っており、日本は遅れ気味ではある。3.0では、録音したものしか聞けないウォークマンから、メカそのものは大きな進歩はないメーカー使い方を進化させて数千の曲が聴けるiPod, iPhoneが生まれたと考えれば、その違いが理解できると思う。 ++-++-++-++-++ 5.このようにIndustry4.0で、世の中の流れが変わる、集積から分散、そして集まることの意義が変わる、そして東京への一極集中が変わるものと考えている。ひいては、With Corona, After Coronaと言ったこれからの社会の進むべき方向とも一致している。即ち、これまでの都市計画のようにZoningで区別された施設群ではなく、京都の西陣のようにいろいろな職業が生活と一体となって複合化され、オープンに組み合わされた施設が、都市の建築の建築として求められると考えており、これによって町や都市のあり方が根本的に変わってくる。 ++-++-++-++-++ 6.これまでのIndustry3.0の生産・流通・消費は一方通行の流れであったが、4.0では円形で相互に関連しながらユーザー情報が生産者に還元され、更に進化してゆく。このことで建築は都市とかかわりを持つ施設へと変化してゆく。 ++-++-++-++-++ 7.上に述べた思想をとりいれた建築設計の一つが羽田クロノゲートである。これはヤマト運輸の都市に開かれた総合物流ターミナルである。ヤマト運輸は、1976年に日本で初めて宅急便を始め、今では現代社会に無くてはならないサービスとなったことは言うまでもない。ヤマトはバリューネットワークの思想を持ち、スピード、品質、コストといった物流に必須な要素が、それぞれ加算したものではなく、すべてを掛け合わせたものを極大化させることを基本方針としている。即ち、一つがゼロなら全てゼロとなり、これを避けるためにそれぞれの要素の付加価値を高めながら物流を止めないようにするため、どうすれば良いかを常に考えている。こういった背景から、羽田クロノゲートでは、以下の点を考慮して設計を行った。 ●羽田は鉄道・道路だけでなく空の便を通して日本全国、世界に通じている。 ++-++-++-++-++
8.次に豊洲市場が紹介された。築地市場は、1936年に建設され80年以上も使われてきて老朽化が著しく、耐震性や衛生面での安全性に欠け、現代の物流の変化に対応できないといった問題を抱えていた。2016年に竣工したが、物議をかもした末に、2018年に築地から2㎞離れた豊洲に水産物と野菜の市場が移転した。豊洲市場の総床面積は560,000m2で、これは銀座1丁目から8丁目までと同じ面積であり、幅はスカイツリーを横にした634mもの長さがある。労働人口42,000人、33,000台のトラックが出入りし、総工費は2,147億円である。以下が計画・設計上の特色として説明された。 ●築地は一つの区画にまとまっていたが、豊洲は道路で分断されているという問題があった。しかし、道路の下で各施設が有機的に繋がるようにして、デメリットを解消した。 ++-++-++-++-++
9.総括として、Industry4.0の時代では、以上紹介した物流、あるいは工場といった産業施設であっても、「建築は文化である」という思想のもとで設計されねばならない。即ち、都市とのつながり方、複合化された機能の建築デザイン、時代を拓く機能といった3つの要素が相互に、そして有機的に関連させたコンセプトのもとで、市民とどうインタラクトしてゆくかを考えてデザインされねばならない。紹介した羽田クロノゲート、豊洲市場は、都市に隣接して、建築とパブリックがどう繋がっていくかという点を深く考慮した建築設計であると考えている。 ++-++-++-++-++
10.質疑・応答 ●峯さん(65期):逆円錐形は耐震性に欠けるのではないか? また、世界にこういった設計例はあるか? 回答:重力を考えると不利ではあるが、充分な耐震性を持つよう設計されている。逆円錐形が持つ新鮮さ、先進性の魅力を取り入れことがイノベーションと考えている。角度についても45度では不安感があるので、5分の1の模型を作って検証し、今の角度の57度とした。他の設計例では、ブラジルの国会議事堂が丁度お椀のような形状で、美しい建築物である。 ●浦勇さん(88期):いつも5分の1のような大きな模型を作っているのですか? 回答:そういった大きなものは通常作らないが、角度が与えるインパクトを検証するため、今回は製作した。 ●植村さん(82期):逆円錐形は、施工者泣かせというか、施工が難しい構造と思うが? 回答:設計の段階で施工性も考えて構造設計を行った。フォーラム棟はコンクリート造であるが、先ず地面で壁を打設し、それを所定の角度になるまで片側から吊り上げ、ちょうど花びらが閉じるように、その角度で止めてPC鋼線で緊結し、これを繰り返して全体が円形となるようにした。単純ではないが、充分に施工性のある建物と考えている。 ●楠本さん(88期):豊洲市場の開場後の様子、現在は? 回答:開場前にいろいろ物議をかもしたが、開場初日にトラックの大渋滞が起きて問題となった以外、その後特に大きな問題もなく、現在は円滑に運営されており、実は設計者としてホッとしている。いろいろ批判してきた人も、現状を当然の事として、そして何年も前から市場があったかのように受け入れており、これはすごい適応能力だなと感心している。 ●五十君さん:クロノゲートは一時、コロナの関係で一般公開を止めていたが、現在再開している。いろいろな施設、公園などがあり、お孫さんを連れて行っても楽しめる施設なので、一度訪問してほしい。 https://www.yamato-hd.co.jp/facilities/haneda-chronogate/ ●広本さん(88期):0 で新しいデザインパターンというものは生まれたのか? 回答:4.0は、概念であって形状を指すものではない。むしろ、4.0はこういうデザインというのを決め付けない方が良いと考えている。 ●千種さん(88期):渋谷の再開発について教えてください。 回答:去年渋谷に200mのタワー(スクランブルタワー)ができた。これも日建設計が手掛けた。近くに桜が丘という楽器屋、釣り道具があったエリアを再開発をして、オフィスビル、ホテル、教会のある街を作る予定です。渋谷の新しい顔となるでしょう。 |
Ⅷ.資料 | 東京六稜倶楽部選別PPT.pdf(15MB) |