【第204回】12月「パーソナルゲノム時代が拓く未来」

Ⅰ.日時 2019年12月18日(水)11時30分~14時
Ⅱ.場所 銀座ライオン7丁目店6階
Ⅲ.出席者数 60名
Ⅳ.講師 高橋祥子さん@118期 (株式会社ジーンクエスト 代表取締役)

1988年生まれ、大阪府出身。北野高校118期。2010年京都大学農学部卒業。2013年6月東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程在籍中に、遺伝子解析の研究を推進し、正しい活用を広めることを目指す株式会社ジーンクエスト(https://genequest.jp/)を創業、代表取締役就任。2015年3月、博士課程修了。2018年4月、株式会社ユーグレナ執行役員に就任。

生活習慣病など疾患のリスクや体質の特徴など約300項目におよぶ遺伝子を調べ、病気や形質に関係する遺伝子をチェックできるベンチャービジネスを展開。10年後に世界を変えるビジョンとテクノロジーを持った企業に送られる「リアルテックベンチャー・オブ・ザ・イヤー」受賞、「科学技術への顕著な貢献2015(ナイスステップな研究者)」に選定。東京大学大学院農学生命科学研究科長賞受賞、テクノロジー&ビジネスプランコンテスト優秀賞、経済産業省「第二回日本ベンチャー大賞」経済産業大臣賞(女性起業家賞)受賞、「日本バイオベンチャー大賞」日本ベンチャー学会賞受賞など。

著書に「ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか?」。

Ⅴ.演題 「パーソナルゲノム時代が拓く未来」
Ⅵ.事前宣伝 「ヒトの全ゲノム解析が完了したことで、ゲノム情報を活用した研究が可能になり、その成果が多数報告されている。またゲノム解析技術の発展により、一般個人向けにゲノム解析を提供し、個人が自らのゲノム情報を持つというサービスが登場している。(株)ジーンクエストは、個人向けのゲノム解析サービスを提供する企業である。パーソナルゲノムサービスを提供する中で見えてきた、ビッグデータが生命科学・医療へ引き起こすイノベーションについて、実際の取組み事例の紹介を交えながら、特に生命科学研究へのインパクトについて紹介します。」
Ⅶ.講演概要 1.自己紹介<Ⅳ.講師(紹介)補遺
・幼少期はフランスで育ち、外国人である(周りの人達と違う)ことを認識。
・帰国後は、同調圧力(皆と同じ行動をとる)を感じるも、唯我独尊的に振舞って、真実を突き詰める研究者としての素質が養われて来たと思われる。
・医師の家系であり、その環境の中にいること(何とか病人を助けられないか・予防できないかと考える様になったこと)が、生命科学の分野に進む契機となった。

2.起業の経緯
・東大時代は教授(何事にも肯定的・後押し)や先輩(ビジネスに精通)に恵まれ、ディスカッション(研究成果の論文以外の発信方法や研究の加速方法等)を徹底的に行った。
・遺伝子調査データの解析といった研究成果をお伝えするサービスと、データが蓄積することによって新たな研究内容の開発をフィードバックすることによって、即ち、謂わば「研究」と「サービス」のシナジー効果に依って、研究を加速するといった結論に達することが出来た。
・その結果、先輩と共同で起業するに至った。
・2013年11月の朝日新聞1面に「東大系」を強調した見出しで、遺伝子解析の「ジークエスト」起業の記事が掲載された。
・結構反応があり、遺伝子調査は、馴染みが無い為か、「あぶない・怖い・怪しい・神への冒涜」等と厳しい批判もあった。
・初めは社会とギャップを痛感したが、丁寧な対応をしてきて、6年たった最近では、批判は少なくなってきている。

3.ゲノムとは
・gene(遺伝子)+ome(総体)=genome(ゲノム):遺伝子情報の全体
・生物を構成するゲノムの全塩基配列には以下の特色がある。

①ヒトのゲノムは30億対・750MB②2003年に完全解読③人とチンパンジーのDNAの差は1%
④ヒト同士のDNAの差は約0.1%(遺伝的個性:アルコール耐性・体格・人格等)

4.ゲノム解析
・解析キットで、①体質(例:酒に強い)②健康リスク(例:がん)③祖先分析(どの大陸から来たか)等に関する遺伝子情報が分かる。<③は米国では盛ん/日本は低調>
・健康リスクについても、どの遺伝子を調べると何の病気に繋がるか等科学的根拠を示している。
・塩基配列は一生変わるものではないが、研究が進むにつれて、新たな知識(どこがどの病気に繋がるか等)が増えるので、アップデートな情報を提供するようにしている。
・データの信頼性については、モノに依って異なる。「アルコールに強いかどうか」については古くから研究されてきているので、信頼性が高いが、「ヒトの性格と遺伝子との関係」については、最近研究され始めたので、余り高いとは言えない。
・尚、遺伝子で全てが決まるという思い込みがあるが、どんなモノも「遺伝要因」と「環境要因」がある。癌について言えば、家族性乳がんは遺伝要因の比率が高いが、肺がんでは遺伝要因が 10%で”喫煙”などの「環境要因」が90%と言われている。
・一方に、100%「遺伝要因」で決まる小児科系の病気があるが、これについては、医療行為に該当するため、当社では扱わず、「環境要因」を減らすことで予防に繋がるようなモノを対象としている。
・その他、精神疾患(うつ病等)についても扱っていない。これは、うつになりやすい「遺伝要因」はあるが、それを知ってしまったために却って罹患してしまう等の倫理的な問題がある可能性があるためである。
・技術的に出来ることと倫理的に問題になることとの相克がある。これは国によって異なり、仏独は全面的に禁止、米国はOK、中国は国主導、韓国は一部のみ認められている。

5.事業の背景<パーソナルゲノムのメリットとリスク>
・オーダーメイドゲノムによる患者独自の治療法の適用:例:癌ゲノムの一部が2019年4月から保険適用開始された
・疾病リスクの回避:予防に繋がる
・適正を知る(例:運動で短距離か長距離か→筋肉が異なる):これから研究が進展

○リスク
・知ること自体のリスク:例えば精神疾患→「遺伝要因」と「環境要因」などについて適切なコミュニケーションの仕方を検討要
・差別の助長:米国などで雇用や保険に適用する事例→遺伝子差別禁止法案が出された。

日本でも近い将来制定される可能がある。

・詐欺まがいの横行リスク:例)遺伝子で子供のすべてが分かることを悪用したビジネスなど

<これについては根拠のないものである>

*日本でも同様な企業が増えているが、玉石混交状態である。嘗て、遺伝子組み換えが喧伝されて逆に「遺伝子組み換えではない」という表示が横行したため、それ自体が悪い訳ではないが、却って尻すぼみになってしまったことがあるが、そういった事態がこの「遺伝子検査」に到来しないか懸念される。

6.健康寿命の延伸
・日本再興戦略の改定が2015年に行われたが、寿命が延びるに従って、健康寿命は延びるものの、一方で、健康でない状態の期間も増えて来ている。
・その為にも、遺伝子と疾患との関係を解析することによって、予防に繋がる方策の重要性が増えて来ている。

7.海外と日本の状況
・ゲノムを巡っては、国によって状況(施策・方針・取組姿勢等)が異なっている。
・米国では、検査を受けた人数が、ここ1~2年で急速に進展し、解析コストの低下とともに、知見・知識が大幅に拡大している。
・日本は、米国から概ね3年遅れの状況であるので、向後3年で大幅な進展が期待できる。
・米国の事例では、遺伝子関連の周りの企業との連携で、例えばパーキンソン病治療薬開発に貢献しているし、保険会社などでは、顧客が健康になるための方策に利用したりしている。
・米国では遺伝子を扱う大きな会社が増えて来ているが、一方に、欧米系とアジア系では、遺伝子の背景が異なることが分かってきて、例えば、肥満率も、米国では30%以上に対して、日本は3%だったりして、それに伴う罹患リスクのある遺伝子も異なってくる。
・従って、先行する米国の状況をそのまま適用する訳にはいかない。
・それ故、アジアでは、まだ新たな領域の進展の可能性を秘めている。

8.最近の当社の状況
・データを集めてどのように活かすかということでは、大学や研究機関や企業との連携がある。
・医療や心理と遺伝子の関係の他に、食品分野では伊藤園とお茶のカテキンの効果と遺伝子の関係などがある。
・それらを含めて、当社で発表する学術論文の数も増えており、それと共に解析結果の応用分野も増えて、やっとサイクルが回り始めたと実感が持てるようになって来た。
・他企業との連携例で、パナソニックと「寛げる部屋」を再現するといったプロジェクトがあって、睡眠と遺伝子の関係を反映したベッドやシーツ、或いは睡眠のリズムの併せた、照明やカーテンを提示している。

9.今後の方向性
・ピーター・ティールという起業家の著書に「ZERO TO ONE」という本があり、バイオ系とIT系のベンチャーの立上げを比較した表がある。
・それによれば、バイオ系は、コントロール不可能・周りの低い理解度・高い規制・高コスト・人員の非協調性等により、IT系より立上げが困難とされている。
・生命科学或いは生物の分野は、難しいと思われているが、そのようなジャンルでも、流れ(時流)を読んで、未来を予測するのは重要なことである。
・最近、人工知能(AI)が脚光を浴びているが、これも突然出てきた訳ではない。「電気→コンピュータ→IT→膨大なデータの蓄積」があって初めて、AIが使えるようになった訳である。
・ゲノムの世界も同様で、「1950年代のDNAの発見→2003年のゲノムの完全解読→現在の解析技術の飛躍的発展→膨大なデータの蓄積→その活用の飛躍的発展」となる訳で、その時流を読んで、起業した次第である。
・解析に係る一人当たりのコストも、15年前に100億円かかっていたものが、今年辺りで10万円となり、来年再来年には1万円になると言われており、機器とコンピュータの発展と相俟って、劇的なイノベーションが起こりつつある。
・1年間に新たに発表された論文の数も、2000年に100件であったものが、2019年では2万件と加速度的に増えて来ている。このことは、新たな発見がそれだけ増えている訳で、それに対応した技術も増えていることになる。
・次世代の遺伝子読み取りのシーケンサーが開発され、USB型の小さなもので、周辺にあるどんなもの(観葉植物や髪の毛等)でも、15分で読み切ることが出来る。
・こうなって来ると、“読み取り禁止”等と言っている場合ではなく、あらゆる規制等も、変わることを前提に策定する必要がある。又、分析結果を知った時のリスクをどう乗り越えてゆくかが重要で、前向きな議論が必要となる。
・データ取得が容易になって来ると、過去の知見に拘泥するよりも、その活用にどういう未来を描けるかという「デザイン能力」が必要になって、そういう人材が持て囃されるのではないかと思料される。

10.将来に向けた私のミッション
・最も好きな文言に、人類初の宇宙飛行士である、ユーリー・ガガーリンの「人間にとって最大の幸福とはなにか。・・・それは新しい発展に参加することである。」というものがある。
・これに即して言うと、「ゲノム解析を通して、今まで誰もやったことのない課題を解決することに依って、新しい発展に参加する」ことを将来の目標と考えている。
・しかしながら、自分一人でできるものではなく、私を取り巻く人脈・環境といった支援体制等の仕組みを構築し、遺伝子の研究をしながら、それをサービスにして、より一層昇華させて行くことがミッション・使命と考えている。
・2025年には、現在の超高齢化社会の更なる段階が到来すると言われており、その世界で新たな課題も現出するであろう。
・現在、健康・栄養面の研究に取り組んでいるが、その中で、医療関係で「認知症」という課題について、人海戦術てきなものではなく、サイエンスで解決できるものを開発し、最も早く超高齢化社会の到来する日本から世界に発信すべく、未来に向けてチャレンジしてゆきたい。

 
 

★講演録後記

・今回は著作権等の関係で「資料(講演会テキスト)」が添付されないため、文字の羅列に終始し、ビジュアルな要素<シェマ(図式・模式)や図表・グラフ・写真類>が欠落し、分かり難い部分があると思われます。

・より理解を深めたい向きには、会社ホームページ(https://genequest.jp/)や著書「ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか?」の参照をお勧めします。

【記録:植村和文(82期)】
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Ⅷ.資料 なし

 

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