【第202回】10月「僕が芝草から学んだこと -芝生から日本を見ると-」

Ⅰ.日時 2019年10月16日(水)11時30分~14時
Ⅱ.場所 銀座ライオン7丁目店6階
Ⅲ.出席者数 52名
Ⅳ.講師 宇城正和さん@84期 (埼玉工業大学先端科学研究所客員教授 日本芝草学会評議員・理事)

1953年大阪生まれ。
大阪市立三国中学校卒。大阪府立北野高等学校卒。
鹿児島大学水産学部卒、同大学院水産学研究科修士課程修了。水産学修士(水産増殖学専攻)
東京大学大学院農学系研究科水産学専攻博士課程修了、農学博士(水産増殖学、水の中の微生物 専攻)。

法政大学教養部生物学兼任講師、
オリエンタルバイオ㈱研究開発部部長(健康食品研究開発)、
両国予備校生物学講師等を経て、
㈱アクションコーポレーション、アクション植物科学研究所所長。退社後、同会社科学顧問。
埼玉工業大学先端科学研究所客員教授。

日本芝草学会評議員・理事。

中学時代バレーボール部主将、高校時代ラグビー部副主将。
趣味:美術・音楽鑑賞、フィルムカメラ写真入門、囲碁入門、読書。

Ⅴ.演題 「僕が芝草から学んだこと-芝生から日本を見ると-」
Ⅵ.事前宣伝 僕は小学生の頃、科学者になりたいという夢があった。北野に入ると、自分の成績では科学者は無理だと思い知らされたが、なんとか世間ずれした科学者になりたいと思うようになった。それで、国立大で最も偏差値の低かった鹿児島大学水産学部に入学したが、勉強しなかった。講義がどれも面白くなかったから。ところが、4年生の卒論の時の指導教官は仏教徒でありながら破天荒で面白かった。培養環境の海水中のプランクトンや細菌類の動きを追っているうちに、修士課程を修了していた。その後、僕はキリスト教のボランティア宣教師を経て、31歳から東京大学で同じプランクトンと微生物の研究を推し進めた。博士号を取得したとき、36歳になっていた。通常の大学教官職はなかったので、予備校で生物学を教えた。55歳になってから小企業の研究開発部に誘われ、まったく初めての芝草学をやりだした。芝草といっても僕のまったく関心のなかったゴルフ場の芝草ではあったが、芝の葉っぱの表面構造を最新の顕微鏡などで観察発表しはじめた。日本のゴルフ場の問題点を土壌分析結果の日米比較から考えたり、ゴルフ場グリーンの土壌細菌を最先端の次世代シーケンサーを用いてDNA解析を行ったりした。芝草のことを色々と学んでいくうちに、陸上の芝草は海の植物プランクトンみたいだと思うようになった。芝草は植物プランクトンのように代謝が盛んで、二酸化炭素の吸収力が大きい。また、食べる植物ではなく「心の植物」であり、人間の住環境にとって目立たないがとても優しくて重要な働きをしている。戦後日本の経済復興と経済至上主義で今や日本は社会的円熟期に入ってしまったが、未だ欧米にかなわないものがあって、それは住環境における芝生である。日本の学校の校庭の芝生敷設率はわずか6%である。「芝生は文化のバロメーター」と言われてもいる。ミクロとマクロ的な観点からお話します。今回の講演では、芝草の葉っぱの美しい微細構造をお見せしたり、僕の科学者としての夢を少しでも開陳できればと思っています。終わりの無い旅、見果てぬ夢を追い求めてきた人生の、中途半端ではありますが現在進行形のお話をさせていただければと思います。It’s not over until it’s over!
Ⅶ.講演概要 ※テキストが配付されて(Ⅷ.資料参照)いるため、ここでは講演内容の骨子を記す。1.はじめに

*先端科学とは

●所謂先端を行く「科学」であるが、“明るい領域”に存在する科学のことである。一歩外に足を踏み入れるとそこは“ダークな領域”即ち、“オカルト的な”、“似非科学”とも呼ばれる。しかし、境界領域から一歩踏み出し、先端科学のさらに先を開拓していくには勇気が必要になってくる。

2.DNA(遺伝子)と突然変異等

●擬態(葉っぱ)の頂点に君臨するムラサキシャチホコ(蛾):偶然の突然変異と自然選択のみの結果と考えられるか。自然の背後にあるインテリジェンスを感じる。
●遺伝子と酵素:DNAの塩基配列が最終産物抑制をも指定する酵素タンパク質の立体構造を決定。驚嘆すべき遺伝暗号。
●生物学的暗黒物質:最先端のDNA解析により自然界に(人間の体内にも)全く未知の微小生命体の存在が予想される。→自然界の微生物の99%は培養できない!⇒正体がわかっていない。
●原子転換(生物学的元素転換): ルイ・ケルヴランの研究仮説では、生体内における酵素やバクテリアの作用によって、特定の元素(K)が別の元素(Ca)に転換している。いわゆる常温核融合の範疇に入る。

3.「芝生」は文化のバロメーター

●日本は明治維新以来、富国強兵や戦後の経済復興と経済至上主義により、インフラ・箱物建築・世界最高水準の車など工学技術面の向上を図って社会的円熟期にあるが、唯一欧米に追いつけないものに、住環境の優しさ・アメニティがあり、樹木はあっても「芝生」がない。

*日米のゴルフ場の問題点(日米比較)
●日本のゴルフ場グリーンは、根からすぐに吸収できる栄養素が少なく、栄養不足で病気になりやすいとともに、銅殺菌剤を多用している。
●米国は土壌分析に基づいて肥培管理がなされているのに対して、日本は土壌の管理は余り行われず、感覚的監理(殺菌剤散布)の傾向が窺える。
●芝草(芝生の葉)には、ハスの葉の持つ“ロータス効果”(水をはじく性質)のように様々な微細構造があって効率の良い生存戦略を取っている。

<ここで、芝の葉の表面構造の最新の顕微鏡のデータ等を画面で詳しく紹介【Ⅷ.資料参照】>

4.学校(母校)のグランドの芝生化を推奨

*以下の項目で芝生グラウンドは、土グラウンドより優位にある。
●運動中の外傷(少ない)・情緒への影響(良い)・運動能力/体力(高まる)
●環境ストレッサー(削減)・高温/光反射(軽減)・砂塵(防除)・空気汚染物質(除去)
●酸素ガス(供給)・土壌侵食(防止)・防災避難所(良い)
●造成維持費(グレードによる←→土グラウンドは無し)

*これまで、学校管理者は、校庭の芝生化は労務時間を取られることからその実施を逡巡している。欧米で芝生管理は、学外の業者が行うのが常識である。在校生や先生方の希望も引き出しながら、造成維持管理費を何とか捻出できないものか。地球環境対策を初め多くのメリットがあるため、母校北野高校が「文化のバロメーター」である芝生面積を多くし、より良い人間性豊かな教育環境を提供したい。関西の諸高校をリードしたいものである。

Ⅷ.資料 僕が芝草から学んだこと_資料.pdf(5.0MB)