1. 経歴と自己紹介―3つのスピリチュアルな経験
(1) 父は北野の卒業生(67期 サッカー部)で歯科医師であったので、自分も北野高校に進学し(93期 ハンドボール部)歯科医師になった。ちなみに叔父も北野の卒業生であった。(70期 剣道部)
(2) 1995年1月、2番目に生まれた息子は障がい児であった。24時間、リハビリやいろいろな医療ケアーが必要であった為、歯科医療の現場からは離れて、ずっと息子に付き添い育てていた。そして、毎日毎日「一日でも長く息子よりも長生きさせてください」と祈りながら眠った。しかし息子は7歳半で急逝した。息子の傍らでお線香の番をしているとき「ママ、僕はもう大丈夫やから、他の子をたすけてあげて」という息子の声が聞こえた。それまで、息子にべったりの生活で、逝ってしまった息子に一緒について行ってやりたいという気持ちがそこですーと消えた。(スピリチュアルな経験1)
(3) 他の子を助けるには何ができるかずっと考えていたある時、友達の子供が入院したのでお見舞いの本を選んでいたら、棚の上から「社会福祉士になるためのガイドブック」が落ちてきた。そこで初めて社会福祉士という職業を知った。(スピリチュアルな経験2)
(4) 勉強して社会福祉士の国家試験にも受かって(日本では17番目のダブルライセンス)介護とデイサービス関係の就職先も決まっていたのに、息子の養護学校の時のママ友との会話から阪大に障害者歯科があることを知り、急遽伝手を頼って阪大の障害者歯科の教授に連絡したら、前任者が前日にキャンセルして、ちょうどポストが一つ空いていた。それで阪大の障害者歯科で臨床の仕事に就くことができた。(スピリチュアルな経験3)
15年以上臨床の歯科医としてはあまり働いていない。
歯科衛生士を養成する7つの学校で障害者歯科の授業を受け持つという方向に進み、
現在に至っている。
2. 講演要旨
講演は資料‐1 歯の話 アラカルト ~健康は健口から~ に沿って行われた。以下がその要旨である。詳細については、資料-1を参考にしながら、下記の要旨を読んでほしい。
(1) 高齢者の歯
高齢者は、体が不自由、免疫力が低下している、介護が必要、摂食嚥下と言ったことが起こるという点で障がい者と似たような状況にある。従って、今日の話は障害者という視点ではなく、将来高齢化した自分自身の事として聞いてほしい。
(2) 歯の基本構造
歯の構造について説明があった。虫歯、歯周病で歯茎を損ねて歯が抜けてしまうという事態を招かないように、日ごろからしっかりとしたケアーが必要である。歯の下には歯根膜という歯にかかる圧力を感じる膜があり、神経をとおして脳に伝達して、これが食感の一部となる。入れ歯ではこれがなくなり。生活の質が落ちる結果となる。できるだけ歯を残す努力が必要である。
(3) 虫歯の話
① 胎生6週間、つまりつわりのあるころに胎児の歯が発生する。この時期に母親はカルシウムを取って、歯の成長を促すように心がけることが大切である。
② 子供の歯はよく磨いて、少なくとも夜寝る前に甘いものを食べたり、ジュースを哺乳瓶で飲んだりして、そのまま寝ることの無いように注意する。この習慣をつけると、虫歯になりやすい。孫などを甘やかして育て、寝る時にジュースを与えたりすると、完全に虫歯の原因になる。ポカリスエットなどもダメで、水かお茶にすること。
③ 大人もアルコールは問題ないだろうということで、お酒を飲んでそのまま寝る人がいるが、お酒は糖分を含んでおり虫歯の原因になりやすい。
④ 虫歯の原因となるミュータンスレンサ球菌は家族をとおして感染する。箸や口移しの食事を与えるのは避ける。
⑤ フッ素については効果があるが、濃度が重要。キシリトールも効果がある。
(4) 歯周病の話
① 歯周病を防ぐために歯を磨き、特に歯茎と歯の境目の歯垢を取り、バイオフィルムができないように常に掃除をすることが大切である。
② 歯からの痛くない血はあまり気にせずに磨いても大丈夫である。
③ 歯茎を傷つけないよう、強く磨きすぎないようにする。歯磨き粉はたくさん使う必要はなく、さっぱりしたいときに、最後に少しつけて磨く程度で良いと思う。
④ 歯周ポケット内の細菌は、バイオフィルムの中で静かにしているが、何らかの原因で血流に入ると、癌や糖尿病患者、高齢者などで免疫力が低下している人は致命的な感染症を引き起こすことがある。例えば、インスリン生成の妨げ、動脈硬化ひいては脳梗塞、心筋梗塞など、関節リウマチ等。正しく「健康は健口から」である。
⑤ 歯周病の予防
歯周ポケットを極力少なくすることが大事である。日常生活で、手の動きが悪くなる状態であれば歯ブラシでの歯磨きでは限界があるので、電動歯ブラシを薦める。
歯ブラシで手で磨くときは、磨きにくいところは磨かなくなる磨き癖がある。
磨いているのと、磨けているのは違う。また舌ブラシなどで舌苔を除去する。
唾液の分泌を促すことも大切である。
⑥ 健口情報としては、歯磨きも大事であるが、うがいをすることも重要である。ブクブクで噛む力を強化し、ガラガラで汚れを洗い流す。また、舌や口の周りの筋肉のトレーニングで、パタカラ体操というのがありこれを実践するのも、健口の秘訣。
(5) 掛かりつけ歯科医
馴染みの歯科医を持って、定期的に検診を受ける。また、子供については、歯医者を嫌がるのは虫歯となって治療をする→痛い→先生が怖い という悪循環で歯医者に行くのを嫌がる。従って、日ごろから健康なうちに連れて行って、慣らしておく。「きれいな良い歯だね」などと普段から褒めてもらうことで、歯医者に抵抗感を感じないところから入って行くことが大事である。
(6) 奥真也氏の話
講演の途中で、北垣さんが親しくされている93期の奥真也氏が紹介され、彼が書いた資料‐2の「Die革命」という本の説明があった。今後、100歳、120歳まで生きることが普通の世の中になり、「死ねない時代」になってきた。こういった時代に、いつまでも健康に生きるにはどうすればよいかということを主題に書いた本であるとの説明があった。講演の場でも販売され、多くの方が購入した。
(7) 歯っけよい 残った 8020
大阪府では、80歳で20本の歯を残す、「歯っけよい 残った 8020」運動を行っている。
これは歯と歯茎の健康づくりのための運動で、小読本を配布した(資料―3)ので一読してほしい。
3. 質疑応答
(1) 歯の話 アラカルトの資料の中には、障がい児の一つとして自閉症のことが多く書かれているが、自閉症に対してはどういう歯のケアーが必要と考えていますか。
回答:自閉症の子供は、マイルールというかこだわりというか、それぞれ特性を持っており、例えば触られるのも嫌い、歯を磨きたがらないと言う子もいる。それを理解したうえで、歯の治療に当たることが大切である。それぞれの度合いで、違った治療方針を出している。
(2) 歯は丈夫であるが、朝の歯磨きのタイミングについて教えてほしい。私は、歯磨きは食後行った方が良いという考えから、うがい→食事→歯磨きという順序で行っている。これに対するご意見は。
回答:基本的にそれで良いと思う。うがいの時も、さっと流すのではなく、ブクブクと洗うことを心掛けてはどうか。
追記:障がい者歯科を受診されたい状態の方がおられ、専門医を探される時には、「日本障害者歯科学会」のホームページに、居住地の専門医やセンターを探すフォームがありますので、どうぞご利用ください。 |