(1)自分はサンミック商事勤務中の1986年5月に3週間、欧州~ブラジルに出張した。その時の経験を踏まえて話をしたい。
(2)次のようなフレーズをお聞きになったことがあると思う。「紙は文化のバロメーター」、「鉄は国家なり」、「ICは産業の米」、「コンピューターは紙 のパートナー」日本の紙の消費量は第1次オイルショック時に15百万トンであったが現在は30百万トンを超えている。但し、今後は人口の減少に伴い減る可 能性がある。
(3)GDPと紙の需要の関係を見るとそのカーブは略同じである。1950年~69年の20年間は約10%の伸率であったが今後5年間は9%と予想されて いる。現在注目されているのは古紙のリサイクル。天然林は増えず人工林が増えているのが現状。日本の山々に植林された杉がいくらあってもコスト的に製紙用 の原料にはならない。地球環境の問題もあり世界各地で植林の動きが出てきている。
(4)ブラジルについて
(i)国名:12世紀にフィレンツェで染料として使用されていたブラジル・ウッドの同属が1500年に南アメリカの新大地と共に発見されたので「ブラジル」と命名された。
(ii)面積は日本の約23倍あり、人口は1997年で1億6千万人。内日系人は99年で130万人おり、日本で働いているブラジル人は30万人いる。
(iii)日本との結びつき:(イ)1908年4月28日神戸港を出航した「笠戸丸」が158家族781人を乗せて6月18日サントス港に着いた。これが最初の移民。
(ロ)1997年天皇ご夫妻が始めてブラジル訪問
(ハ)産業支援:日本は、戦前は農業における移植・品種改良・技術・経営組織などの面で多大の貢献を行ない、戦後は重化学工業化に貢献した。ウジミナスと ツバロンの製鉄、アマゾンのアルミニューム、パルプ資源開発等。ブラジルと云えばコーヒーというイメージがあると思うが、工業製品の輸出が2003年で 54%以上ある。以前はインフレが酷かったが現在は安定している。また、農業開発では「日伯セラード農業開発」が有名。1974年9月に当時の田中首相が 訪伯、飛行機からセラードの広大な粗地を見てその開拓を発想した。田中首相は個人的には好きではないが、その着想は優れていたと思う。ブラジルの経済発展 に貢献した日本人、日伯農業開発(株)副社長・筒井茂樹氏(在伯)という人がいる。彼は安宅産業から伊藤忠ブラジル社長となり、在伯日本商工会議所日伯経 済交流委員会委員長、対伯投資促進諮問委員会日本代表などの要職を歴任し、ブラジルから2等級国民栄誉章などを受章している。石油、木材等日本の商社の開 拓意欲は旺盛である。
(5)ユーカリについて
(i)約400年前に発見された。日本に持ち込まれたのは安政年間?1954年から5年計画で全国的な産地造林計画が開始されたが良い結果は得られなかった。原因は、
(イ)立地条件に対する認識不足
(ロ)間違った樹種の選択
(ハ)未熟な育苗技術
(ニ)間違った植樹時期
(ii)英語名はblue gum。原産地:オーストラリアの南東端部とタスマニア島。分布はニューギニア、ニューブリテン、チモール、セレベス、ミンダナオ。ユーカリほど急速に南 北両半球に広く伝播した植物は少ない。植林地は規模順にブラジル、インド、スペイン、南ア、ポルトガル。2010~13年にCO2を減らさねばならない が、ブラジルに大量植樹すれば良いとの考えもある。
(iii)樹形:一本だけの植樹は隔樹のため自由奔放に枝葉を広げる。植林樹は上に伸長、幹は直立、枝は上部のみ、樹冠は幹の上部に固まっている。成長するに従い下枝がどんどん落ち、上部だけに樹冠部分を形成する。
(iv)挿し木は容易であり、切り株から多数の萌芽が群生、何回伐採しても萌芽する。生長力は大で、1年で2メートル、7年で胸高の直径15~25cm、 高さ25メートルにもなる。伐採の機械化により就労の平均化・合理化が進み、伐採後に萌芽するので植林費用が低減。下刈作業回数も低減する他、深層根なの で治山効果が大である。
(v)用途:パルプ、枕木、電柱、燃料、薪炭等。また、梁・桁・天井等の建材などの他、ユーカリ油から駆虫剤・塗料・香料、樹皮からタンニン、樹液からキノ(医療)、花から蜂蜜などが取れる。
(vi)植林の弊害は殆ど無いが天敵は葉切り蟻。この対策として蟻の幼虫を食うハエを育成。蟻の撲滅は他植物に悪影響を及ぼすので蟻とハエの共生を図る。 コアラがユーカリの葉を食べることは良く知られているがコアラは一生に5~6種類のユーカリのみ食し水分も葉から採る。コアラの個体数とユーカリの分布は バランスがとれている。
(6)ティッシュ・ペーパーについて:
(i)日本におけるティッシュ・ペーパーの需要は1988年一人当たり2.65kgであったが2004年には3.94kgに増えている。米国人のティッ シュペーパーの使用量は日本より少ない。米国ではペーパーナプキンを大量に使うのでティッシュペーパーは日本程使わないのではないか。
(ii)ユーカリパルプがティッシュペーパーに向いているのは、ユーカリが
(イ)嵩が出しやすい
(ロ)引っ張り強さがそこそこ出る
(ハ)多孔性を適当にコントロール出来る
(ニ)不透明性が優れている等の特徴を持っているため。
更に、針葉樹パルプと混合すると、
(イ)湿潤強度や濾水度が改善される
(ロ)抄紙工程の走行性が向上する
(ハ)引き裂き強度が改善される 等のメリットがある。
(iii)販売競争激化に伴い、ティッシュペーパーは高品質化している。即ち、地合の重視、繊維分布の良化(繊維の引張り強さを最大限に生かす)、柔らか さを出す繊維の配合率が高まる、繊維が均一で緻密に分布、繊維を節約、薄くし柔らかさを出す等々。なお、各テーブルの上に最も上質のティッシュパーパーを 置いているので、その柔らかさの感触を実感して頂きたい。
【報告者注】講演はパソコンとプロジェクターを使用し、映像をスクリーンに映しながら行なわれた。また、出席者には詳細な説明資料が配布された |