恩師を訪ねて【第16回】

基本は呼吸法

阿部俊一先生

    北野では34年間、書道と合気道を指導した。まだ高校になる以前…府立北野中学の時代からで、当時は無試験やった。その時の校長が浜田先生やった。彼が私 を学制が変わる前に「中学時分から『書道』が要る…」いうことで引っ張ってくれた。その後、学制が変わり新制高校の「芸術科目」の中に「書道」という教科 がしっかり入ったわけや。正にそれを先読みした人事で…以来、私は北野に34年間勤めることになった。書道の時間は2コマ連続の授業やった。一番初めの授業の時に一年分を喋って、喋って、喋りまくって…次からはもう一切喋らへん。ひたすら書くだけや。その 時、喋ったのが「呼吸法」について。一番の基本はやっぱり「息」やからな。筆を下ろすときには息を止めろ、いうことやな。

    禊をする阿部先生
    禊の鍛練をする阿部先生

    我々はいつもは「呼吸」というのものを意識してないけど…その中に「言葉」とか「書」とか、日本人が知っていながら普段忘れているものがあるわけや。だから、呼吸法を会得すると健康にも役立つし、精神的にも豊かでおれるわけやな。

    目に見えないけれど呼吸をしている…「見えないけれども存る」それの追求や。それを皆に説明した。北野の生徒に伝えたかったのは、正に「呼吸法」だったわ けや。腹式呼吸法ともうひとつ逆式腹式呼吸法と…。書道教室に写真貼ってなかったかな。「直腹筋と斜腹筋」のな。あれがコツなんや。

    北野に来る以前に「お習字」を習ってた子は皆あかんねん。先入感があるさかいな、習ろてた通りに書くやろ。塾の指導と高等学校とは違うわけや。高等学校は芸術科の書道やから、そもそも目標が違うわけや。
    それでも…卒業の時にはな。「君らは下手くそでも何でもない…みな芸術家なんや」言うて…「その根元の呼吸、見せたる」言うて開陳したもんや。お腹に筋肉 の柱が一本、どーんと立って「これが若くしてできたら物凄い大物になる…君らできるか?」言うたんやけど(笑)。腹筋が丸まって他のほうが内臓にひっつい て腹直筋だけがグッとまっすぐ立つ…そういうことが、呼吸法の鍛練だけでできるようになるんや。

    しかしまぁ芸術科の成績って欠点が無いから、みな安心や。私の場合、書道部は5点、合気道部も5点(笑)。その次4点、最低でも3点や。 5、4、3しかつけへん。2点は無し。よっぽどサボった奴には2点つけたけど、34年間で数えるくらいや。それでも皆、単位取れるもんな。そやから毎年、 大勢受講してくれた。建物も別棟やし自由やったんやな。本館ではみな目指す学校は京大、阪大、神戸大。別棟では書道だけ呑気なことやってる(笑)。

    聞き手●壽榮松正信(74期)、石倉秀敏(84期)、
    谷 卓司(98期)、中西郁夫(101期)
    収 録●Sep.18,1998
    (吹田市元町の天之武産塾合氣道々場にて)
    Mar.13,1998
    (北野高校武道場にて)
    協 力●佐伯新和(98期)

Update : Aug.23,1999

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