恩師を訪ねて【第35回】

考古学界の虚と実 村川行弘先生

    ご存じのように最近、考古学界が大きくイメージダウンしました。あれは関西では考えられないことです。考古学の生命は出土状態の確認なんです。どういう状 態で出たかがハッキリしていない物は一等資料じゃない。ただの骨董品と一緒なんです。ですから、一つの物が出土する時には、保存科学の連中から分析屋か ら…皆が集まって確認をするんです。それが関西の考古学です。これが地方へ行きますとね。人手が無いということもあって、業者に任せきり…ということがあ るんですね。特に問題が大きく起こった宮城県なんかは、県に文 化財課がある。ちょっと掘って遺物が出た。「これは遺跡や」…その確認だけやって、後は発掘屋に任すわけです。そもそも発掘屋というのは財団法人をつくっ てまして、専門の大学教授を理事にして、その指導・助言を受けることになってます。そうやって発掘を進める…という仕組み。だから県としても「しっかりし た団体だから」というわけで委託をするんです。 形式はそれでいいんですが、真の中身となると…理事の先生方は一年に一遍ぐらい会議があって、報告を聞きに来る。ただそれだけで、発掘屋が何してるかさっ ぱり知らん。指導・助言の要請もない。一年に一回の会議にだけ出る…そういう仕組みなんですね。結局、発掘会社に任せきりにしてるから、そういう事にな る。関西ではそんなこと、できませんわ。自治体の文化財課がしっかりしてますからね。 だいたい原因も内容も解ってきて、整理せんならんことも分かってきてるんですけども。しかし、大分県のように自殺者まで出しますとね…しかも、亡くなった 人に追い討ちをかけるように「これは他所から持ってきて埋めたもんや」と。こうなったんじゃ、ちょっと具合が悪いですからね。そういう決着の仕方は良くな い。命かけて頑張った人ですし、そういうことする人じゃありませんのでね。 「…と私は思う」そういう、あやふやな処理をしたんじゃイカン。これは本当に正確に処理せんとイカンのです。これからまた、考古学の信頼回復に向けて、 そっち方面の世話もせなイカンのですが。もう私には微力しかないです。世話いうたら文句を言うぐらいで、自分でどうの…しませんからね。もうそんな元気な いですわ。昔は「モノ言うよりも自分で走り回ったら終いや」とパッパッとやりましたけども。 経法大に替わった頃、難儀なのがおりました。「どうして志望したか」学生に面接するんですけど、「村川先生がおられるので来ました」言う学生がようけおり ましてね。「こりゃ、えらいこっちゃ」思って(笑)。 なんせ、経法大には法学部と経済学部しかないんですから。考古学の基礎をやってへん…そんな者が通用するはずないんや、と。だから「お前、旧石器やれ」と か「お前、ウンコやれ」そういうふうにして、要するに従来の考古学研究者がまずやらないような分野に着目して、半ば強制的に割り当てたんです。「そしたら アンタが第一人者になるやろ」言うてね(笑)。 日本中で旧石器やっている奴おらへんのや。ウンコやトイレは一杯出るのに、それについて詳しく研究してる人おらへん。トイレ考古学…それを調べえや、言う て。結局、文化財技師として各地で発掘調査に従事している卒業生が10名ほどおります。 発掘いうのは一種の「破壊行為」ですからね。手術と一緒で「やり直し」が効きません。だから、掘り過ぎたりしたらエラいことなりますから、文化庁長官の許 可を要するわけで、日本考古学協会員とか地方自治体でないと掘れないんです。私らの世代がその第一号ですけれども、今、会員が全国で一万人近くおります。 私も暇になったせいもあって「キミら最近、何してる?」から始まって「一口2千円で、何十口でもええから…」言うて、資金を集めさしてね。それで「協会の 手で全国のあやふやな調査をし直せ…」そういう抜本的な体制を整えているところです。 やはりね。あんな…ありえないような事件が起こりますと、全部を見直さんといかん。自殺者まで出ていますのでね。みんな、地域史の実証を目指して考古学を 始めたはずなんだから。 考古学の秘訣ですか?これはアホじゃないとできません。賢い奴はしたらいかん(笑)。相談に来たら、そういうふうに答えることにしてます。「やめとけ」言 うて(笑)。 今日は、まもなく死ぬと思っていた時にいい機会を作ってくださいました。53年間、教壇に立っておって…卒業したら、やっぱりホッとしますね。というの は、心の片隅にね…やっぱり気になるんですな。発掘現場に行っておっても、心の片隅で学生のこと、生徒のことが気にかかる。遂にそれが無くなった。もうこ れからは何も借りは無いぞ。思い残すことはない。後は兵隊の時のややこしさ…それだけは吐き出さして貰わんといかんなと思う。 ほんまは中枢部の一番下っ端におっただけですから、正確な大本営の情報とは違うんですが。現場の本当の真実…これも日本史の一駒に入ってくれんと困るなと 思いましてね。「中央司令部」の研究だけで、歴史すべてがどうのこうのと言われても…末端の至純な気持ちを黙殺できんと思うんです。

    ※「村川先生、残念ですがもうお時間です。今日は長時間ありがとうございました。また次回に続編を楽しみにしています。差し支えなければ、一緒に ご夕食で もいかがですか?」…話の種は一向に尽きる気配がありませんでした(編)。

    聞き手●石田雅明(73期)、小林一郎(78期)、谷卓司(98期)、矢野修吉(101期) 収 録●Jun.23,2001(北野高校校長室にて)

Update : Dec.23,2001

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