われわれが今回選んだのはゴッホが自殺直前の2カ月を過ごし、70点もの絵を描いたオーベールシュルオワーズ(オーベール)と、イタリーから多くの芸術家を呼びよせ、フランス絵画の基礎を築いたフランソワ1世がパリの西側の防御用に作った城のあるサンジェルマンアンレイである。どちらも郊外電車RERで行ける距離のところにあり、昼食に2時間かけても十分日帰りができる。 オーベールにはゴッホが死ぬ前に描いた多くの名作のモデルの建物や風景がほとんどそのまま残っており、その場所に相当する絵の写真が掲げられている。結構歩くので体力が必要だが、ゴッホ好きのわれわれには面白い場所である。パリの通勤圏にあるにもかかわらず古い道路沿いに古い建物が残り、しかもそこに人々が普通に生活している。パリでも100年を越える建物が普通に使われている。一方東京では昭和初期に建った洋風アパートである鉄筋の同潤会アパートの老朽化が進み、生活に危険になっているとの理由で立替が進んでいる。まだ70−80年にしかならないのになぜだろうとの疑問が湧く。もともとの建物の出来が悪いのか、それとも維持管理の経費支出を怠ったのか。いま私の後ろのテレビが、民家の平均寿命はイギリスが75年で、日本は26年であるといっている。パリやその郊外を見ていると東京や大阪のはかなさをつくづく感じるとともに、京都や奈良をもっと大切にしなければならないと痛感する。 セーヌ川はパリを出ると南北に大きな蛇行を繰り返す。凱旋門で乗ったRER A線は3回セーヌを横切ってサンジェルマンアンレイに着く。3回目のセーヌがここのお城のテラスから見下ろせ、遠くにはエッフェル塔を含み、パリの街が見える。このテラスは2.4Kmの長さがあり、これを向こうの端まで行き、テラスの後ろのサンジェルマンの森を通って帰ってくるのがいい散歩コースになっている。テラス上のカフェでは昼食も取れる。東京や大阪に比べると、パリには不思議に虫がいない。写真のようなパラソルの下で食事が楽しめる理由の一つが虫かもしれない。 |