太陽電池と「低い国」と〜民間企業研究者の海外転職記【第32話】
女子30kmマラソンレースの様子(1周目) アルクマールのスケート場にて
12年ぶりの天然氷スケート【後編】
次回オランダで天然氷のスケートが楽しめるのは、いつのことになるだろう。オランダ気象庁によれば、現在の気候でスケートができるレベルに運河が凍りつくのは、18年に1回の確率だそうなので、当分は望み薄かもしれない。しかし、次回厚い氷が張ったときには、アイセル湖のような大きなところを滑ってみたいものだ。
そんな気持ちもあって、筆者もスケートを習ってみることにした。
幸いなことに、アルクマールには、立派なスケートリンクがある。競技もできる400mトラックと、室内リンクがあり、筆者の自宅からもさほど遠くない場所にある。プールなどと共通の、アルクマール市スポーツ年間パスを持っておれば、一回の入場料はたったの1.6ユーロ、とても気軽に利用できる環境にある。
スケート場併設のスケート学校は、事実上スピードスケート専用である。2006年の秋から、冬じゅうスケートレッスンを受けている妻と子供たちは、既にかなりの滑り手である。来蘭前は全くスケートの経験のなかった妻だが、今では30kmツアーに参加するぐらい容易いことであろう。
筆者は、我流ではあるものの、全く初めてというわけでもなかったので、これまでスケートレッスンは受けなかった。妻ほど熱心にオランダ語を勉強していないこともあって、オランダ語でレッスンを受けることも心理的障壁だった。スケート靴も、日本のスケートリンクでは通常禁止されているスピードスケート用ではなく、ホッケー用のものを選んだ。
しかしながら、週末いっしょに滑りに行っても、レッスンを受けている家族と、我流で力任せに滑っている筆者とは、技量の差は開くばかり。基本ができてない上に、スピードが出にくい構造で、妻はおろか、上の娘にもスピードで抜かされてしまっていた。バックやターンなどのホッケー的な小技を上達させることで、気を紛らわせていた。
この1月、天然氷のスケートツアーの話を聞いているうちに、スピードスケートを習わねば、という気持ちが強くなった。今のままでは長距離ツアーに参加することなど覚束ない。オランダ語がわからなくても、見よう見まねで何とかなるだろう。少しぐらいは、英語でも教えてくれるに違いない。何より、コーチ達の間では、スケートを熱心に習う日本人として、妻と子供たちは既に有名人なのだ(笑)。筆者も多少はその恩恵に与れるはずだ。
オランダには2月に一週間、学校が休みになる週がある。国民の祝日が日本に比べて非常に少ないので、学期中に休みの週を作ってリフレッシュするのだが、子持ちの勤め人も、通常その時期に合わせて有給休暇をとる。地元のスケート学校では、4日間の集中レッスンが、子供だけでなく大人対象にも開催される。筆者は午前の部・夜の部のうち、午前の部の方に申し込み、張り切ってスピードスケート用の靴も新調した。
スケートレッスンを受ける筆者
(【前編】のときとは靴が違う)
午前のコースに集まった大人の数は30人ほどだった。何人かに尋ねてみたが、今回レッスンを受ける気になった動機は、ほとんどが筆者と同じようなもので、12年ぶりの天然氷がきっかけだったようだ。久々に滑ったものの、思うように滑れなかった人や、スケートを基礎から習いなおそうと思った人たちが多かった。例年ならば、2月の大人向け集中レッスン午前コースには、こんなに多くは集まらないのだという。
4日間の集中レッスンは、予想通りほとんどがオランダ語だったが、コーチの仕草の見よう見まねで、何とか内容をフォローした。時々は英語で話しかけてくれて、多少なりとも筆者の理解を助けてくれた。おかげでスピードはそれなりに速くなり、長時間滑っていてもそれほど疲れなくなった。学生時代に受けたスキー講習の経験も、それなりに役に立った。
土曜の夜の室内リンクはシニアの時間
スケート場で周囲を見渡せば、高速で滑る上級者たちや、若者や家族連れはもちろんのこと、お年寄りが連れ立って颯爽と滑っているのが印象的だ。足腰を強く保つには、打って付けの老化防止策なのだろう。エネルギーも適度に消費され、運動不足解消にも役立っているに違いない。
個々人の健康管理も自己責任に負うところの多いこの国では、一方では様々なスポーツが奨励され、施設も安価で利用できるようになっているが、スケートはその一つの象徴といえる。筆者らの家族にとっても、今ではスケートがすっかり冬の娯楽である。
オランダの冬は暗い。夜が長く、基本的にはどんより曇った日が続く。この憂鬱な冬をストレスなく過ごすのに、スケートは必須のアイテムとなりそうだ。
Last Update: Mar.6,2009