怪!農業援助の仕組み

2008年5月23日

アフリカの大地を緑に~ジャカランタの花咲くジンバブエから【第21話】

小麦の穂が出る頃(ジンバブエ 中部にて)
小麦の穂が出る頃
(ジンバブエ 中部にて)

農業関係の技術協力に携わると、どうしても食糧援助というものとの付き合いが生まれます。
「ハラヘッタ」状態の国民や農家を見ると、パンを援助したくなるのは自然の感情でしょう。
前回にも書いたのですが、技術協力は「パンを与えるのではなく、小麦の作り方を教える。それも個々の農家だけではなく、国全体としての生産振興を図る。」 という原則があります。交通の便のいいところだけで商売をしているNGOと、国全体の底上げを目指す技術協力は立場が違います。
が、世界の援助の常識は、そんなに甘いものではありません。

ところで、食料を生産している農家でさえ、「ハラヘッタ」というのは どうしたことでしょう。 アメリカの影響が強い世界銀行は、1981年に「サハラ以南のアフリカの開発促進」というレポートを出し、その中で食糧自給を二の次にして輸出作物の増産 に努力すべきとの勧告をしました。

ヒマラヤの秀峰(アンナプルナ山系ニルギリ)
ヒマラヤの秀峰(アンナプルナ山系ニルギリ)

欧米各国は、低い穀物価格と農家の所得水準の差を所得補償や補助金で埋めているのですが、開発途上国には農家への補助のための財政的余裕がありません。そ のため、農家には、「穀物はほどほどにして、高く売れる輸出作物を作れ」ということになったのです。どこの開発途上国でも、国民へ食糧を安値供給するた め、穀物の生産者価格は抑制されており、生産意欲があがっていなかったので、一石二鳥だったのです。
しかし、アフリカの主要な輸出作物であるコーヒー・ココアは過剰生産のため、国際価格が最高時の1/2から1/3になってしまいました。
あるフランス人農学者は「第3世界の農民経済は破産し、それに伴う穀物の輸入が増加、アメリカの手中にあるフードパワーへの依存が増えた」としています。 しかし、フランスこそが、穀物輸出の大手なのです。
日本の場合は、国民の皆様の理解を得て、世界的にも割高な価格で米等の穀物を生産・消費できる構造があり、日本の農家は助かっていますが。ただし、日本で も、米麦の価格は、中小規模農家でも再生産が可能な水準という訳ではありませんが。

今では少なくなった畜力水車(エジプト ナイルデルタ)
今では少なくなった畜力水車
(エジプト ナイルデルタ)

開発途上国で、穀物を輸入するための外貨が不足し、飢餓が発生すると、食糧援助という名目で日本を含む先進各国から資金を引き出し、それを使ってアメリカ や欧州の余剰穀物を買い上げ、飢餓に苦しむ人々に援助として供与されます。なんと、日本の税金がアメリカやフランスの農家のフトコロに入るのです。

エジプトは、ファラオのころから、穀物の一大生産地でした。このエジプトへもアメリカは農業援助をしていました。アメリカの援助は、直接、増産に結びつか ない水位の観測網の整備とか、アメリカの好きな「民主主義」的手法による農家の水管理とかでした。ナルホドということです。
欧米は、直接的な食糧増産効果のある援助はしない。それは、自国の農家の保護と自国の余剰農産物の輸出(援助)先の確保のためなのです。
おまけに増産効果のある新しい穀物品種は、肥料や農薬、灌漑用水が必要で、開発途上国の低い穀物生産者価格では、ペイしない仕組みになっています。このた め、国家経済に余裕がない開発途上国では、新品種の導入や自力での灌漑設備の整備は難しく、増産は簡単ではありません。 こんなことが、まかり通っているのです。