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2010年のバックナンバー

ポラントリュイだより: スイス・ジュラの年中行事~クリスマス編その1

ワールドアイ・スイス連載も、50回を迎えることとなりました。日頃ご愛読下さっている皆様に、心より感謝いたしま す。50回を節目に、心機一転、新たな気持ちで執筆に取り組みたいと思っています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

ポラントリュイのイルミネーション
▲ポラントリュイのイルミネーション
決して派手ではないが、個人的には、こういった大人しい飾り付けのほうが好み。人口6600人の古都にふさわ しく奥ゆかしい情景
日めくりカレンダー

「スイスは、どんなに外国人や異文化を受け入れても、やはり根本的に、むしろ絶対的にキリスト教国なんだ」と強烈に感じる時がある。それは、祝日、そして 年中行事に関してである。
キリスト教とは、イエス・キリストを救世主と信じ、また、イエスや使徒達の言行を記した新約聖書を信じる宗教である。そして、キリスト教国とは、国が公 式に指定しているかどうかに関わらず、イエスの生涯、誕生から復活までを中心に1年の行事が成り立ち、祝日もそれに準じている国である。ちなみにスイスの 法定祝日10日のうち、8日までが、キリスト教関係である。(残り2日は元旦と8月1日の建国記念日)スイスに26ある各州は、1年に8日まで独自の法定 祝祭日を自由に指定できることが出来る。この中には、州毎の独立記念日(ジュラ州は6月23日)、聖母マリア昇天祭などカトリック独自の祝日などがある。

スイスでは、信仰の自由は認められているが、「自分は無宗教だから」とか「自分はイスラム教徒だから」などという個人的理由から祝日を無視することは出 来ない、というのが現実である。例えば、「自分はキリスト教徒ではないので、復活祭前の金曜日が祝日と定められているが、断固反対し、登校して勉強する、 または会社に働きに行く!」とは誰も言わない。万人が喜んで休日を楽しんでいる。
2002年の統計では、スイス国民の41.8%がカトリック、35.3%がプロテスタント、イスラム教徒が4.3%、そして無宗教は11.1%となって いる。イスラム教徒は、ほぼ大多数が移民やその家族、または彼らの子孫だと言って間違いはない。カトリックとプロテスタントの人口率は、登記上そうなって いるだけで、実際に信仰しているか、教会に通っているか、ということは、また別問題である。
また、後に述べることになるが、カトリック多数州と、プロテスタント多数州では、祝日が同じではない。カトリックの方が、若干、祝日の数が多い。プロテ スタントの州に会社があるのなら、例えカトリック教徒であろうとも、自宅がカトリックの州にあっても、休暇を取らない限りは、働きに行かなくてはならな い。

スイスで最も大切な行事と言えば、1年に2度、クリスマスと復活祭である。1年の始まりは暦上では1月1日であるが、ここでは、イエス・キリストの誕生 を祝うクリスマスの話題から始めるとして、12月の行事から話を進めたいと思う。

娘が作ってくれたアドヴェント・リース
▲娘が作ってくれたアドヴェント・リース

厳寒の季節ではあるが、町や村はイルミネーションで飾られ、店々のショーウィンドウもクリスマスにちなんだ個性的な飾りつけで彩られることで、何となく 温かな気分になる。日照時間の少ないこの季節、せめて人工の光でも浴びないと、精神衛生上良くない。
日本でもクリスマス商戦と言うが、この時期は、スイスでもクリスマスツリーを初めとして、行事にちなんだ飾りつけに使うきらびやかなデコレーション、ま た、形も色も様々なろうそくが商店の棚を占めるようになる。このろうそくのうち、単なる飾りではなくキリスト教的な意味を持つものがあるので、ご紹介しよ う。

フランス語ではAvent(アヴァン)、英語ではAdvent(アドヴェント)、日本語では「待降節」または「降臨節」と言われる、イエス・キリストの 降誕を待ち望む期間がある。カトリックなど教会歴を用いる教会では、この第一日曜を一年の始まりとする。スイス人が信仰心に富んでいるかどうかは別とし て、一般家庭で、11月30日に最も近い日曜日からクリスマスイヴまでの4週間、ろうそくを4本用意し、輪型にまとめた常緑樹の枝や葉などでな装飾した盆 の上に、備え付ける。第一日曜日に1本目に火を灯し、第二日曜日には2本目、と、火を灯すろうそくを増やしていく。カトリックなど教会歴を用いる教会では この第一日曜を一年の始まりとする。優しいろうそくの明かりは、長く寒い冬を迎えたばかりの人々を癒してくれるが・・・何よりも大事なことは、火の用心!  である。

お誕生日会のお土産
▲娘の誕生日に来てくれた子供たちにあげたお土産
この季節、あちこちでこのような包みをもらうので、
家中がピーナッツだらけになる。
(みかんとチョコレートはあっという間になくなるのだが…)

クリスマス前後によく食される三大菓子と言えば、ピーナッツ、みかん、そしてスイスらしくチョコレートである。娘二人の誕生日が11月末と12月初めと いうことで、誕生会のお土産として、写真のような包みを作って、招待した子供達に渡している。スーパーなどでは、みかんを除いたピーナッツ&チョコレート などの菓子がもう袋詰めにされて売られている。
この時期、チョコレートの売り上げも凄い。ただでさえ、スーパーや食料品店ではチョコレートコーナーが幅を利かせているが、これに、「クリスマス仕様 パッケージ」チョコレートが加わる。そのきらびやかさは、目の毒、とでも言おうか。私の夫も含め、スイスには甘党の男性が多いが、この時期は、美味しくバ ラエティに富んだ味のチョコレートの食べ過ぎで、男女とも体重が確実に増える。食いだめして冬眠したまま越冬し、春にやせ細って目覚める動物はいいが、我 々人間は寝てばかりいられないのが、運のつき。しかも、毎日甘い物を食べるので痩せることはない。冬が終わりに近づいた時、だぶついた我が身に呆然とし、 頑固な贅肉を落とすのに四苦八苦するだけである。

ポラントリュイのイルミネーション
▲カトリック教徒志願者のためのアーヴェントパーティ。持ち寄りパーティだったが、見事に甘い物ばかりが並ぶ!

ポラントリュイだより: スイスグルメ話~野外編~

またまた最初に断っておくが、このエッセイにおける「スイス人」とは、「ジュラのスイス人」像であるので、必ずしもスイス人全体に当てはまらないかも知れない。

スイス人は、概して、散歩や山歩きを愛している。と言っても、専門店で山登りグッズを買い込み、重装備で「さあ、登山をするぞ! ○○山に登るんだ!」という意気込みは感じられない。ちょっとその辺に行ってくるわという気軽さでホイホイ出かけるのである。
義父母の例を紹介しよう。既に隠居の身の彼らはスイスの南西部、ヴァレー州での山歩きを生きがいとしている。ジュラからヴァレーまでは車で片道3時間近 くかかるので、1週間単位で借りられるアパートを予約してから行っている。彼らは不動産業者が仲介している、やたら高いシャレーなどには泊まらず、友人知 人が「お友達値段」で貸してくれるアパートが空いている時を狙って行く。

ヴァレー泊まりの時は、やはり「小旅行」。多少気合は入っているが、地元ジュラでは、フットワークも軽く、天候の良い時は、ほぼ毎週山や森林の散歩に出 かけている。彼らの持ち物の中には、たいてい、パンとソーセージが入っている。ジュラの各市町村が管理する森林には公共のピクニック場があって、火さえ起 こせば、簡単にバーベキューができるからだ。お腹がすいたら施設を見つけて火を起こし、持参してきた食べ物を焼く。施設がなくても、石を円形に積んで枯れ 木を拾って火をつけると、見事な焚き火となる。木の積み方にもコツがあるらしいから、長年の経験が物を言うのだろう。自然の真っ只中でほおばるソーセージ は、たとえ安物でも、多少焦げていても、屋内より数倍美味しいに決まっている。

日本人が遠足で弁当を持っていき、ビニール風呂敷の上できちんと座って食べるのとはまた趣が違う。スイス人は、自宅で手をなるべく煩わせず、購入した食 品をそのまま焼き、少々歪な岩だろうが倒れて腐りかけた木の上だろうが、平気で座るか、座れそうなところがなければ立ったまま食べる。野外では無礼講状態 である。
この法則に忠実にのっとっているスイス人は、とにかく野外での食事が大好きだ。大阪に比べて日照時間は確実に少ないかと思われるが、過ごしや すい晴れた夏の日は、必ず屋外で食べる。庭がない家は、バルコニーで。とにかく外気に触れていたいのだ。ちょっとお金をかけて、本格的なバーベキューの道 具や鳥の丸焼きができる器具を買う家庭もある。それだけ使う頻度が高いということなのだろう。

また、何かの式典や結婚式のアペリティヴも、季節を問わず、野外で催されることが多い。寒がりな私、冬の野外アペリティヴ出席は恐怖に近いものがある。しかし、グラス片手にハムやチーズの切れ端を摘みながら歓談する楽しさを優先してしまう。
この連載を執筆している今は12月。平均気温は0度以下にまで下がっているが、気分の上では野外バーベキューをしたくてたまらなくなってきた!

ポラントリュイだより: スイスグルメ話~パーティ編~

スイスは地域や言語によってメンタリティが異なるが、私が住んでいるジュラに限って言えば、人々はパーティをこよなく愛している。何か機会があれば家 族、親戚、友人などが寄り、長時間にわたって飲み食いする。さあ、夕方になったからそろそろ・・・と思っていても誰かが必ず「じゃあ場所を変えて、うち で!」と提案し、ぞろぞろ移動。(意志の強い人はここで退散)誰かの家の居間に入れば、酒とつまみ(パン・ハム類・チーズ・ナッツ類など)が登場する。暗 くなり、「じゃあそろそろ帰りますよ」と、玄関口、または外でお見送り。そこで「そうだ、あれ、どうなったっけ」と新たな話題が出たらさあ大変。よほど寒 くない限り、立ち話に花が咲きまくり、決して数分では終わらない。


①我が家のクレープパーティ。
「火傷をしないように、自己責任でね」(笑) それぞれが自分のクレープ作りに勤しむ。

スイスに来たばかりの頃はフランス語が不自由だったため、長話が退屈でしょうがなかった。年月を経て多少はフランス語会話が何とか形になってきても、大 都会の典型的核家族の中、しかも一人っ子として育った私、この大人数での「パーティ社交」が苦手だった。しかし、住めば都というのか、郷に入れば郷に従え というのか、こちらの暮らしが長くなるに連れ、「パーティ命」とまではいかなくても、「パーティが当たり前」、同じ参加するなら楽しまなけりゃ損々!と性 格改善?に至った。
この回では、行事としてのパーティとその食事についてお伝えする。


②マルキ明子特製のお土産
チョコレート・みかん・ピーナッツは、クリスマスシーズンのお菓子「三点セット」である。

③豚ちゃんのパイ皮の中身はハム。
ブタの足一本分入っている。お祝いの席での定番料理の一つ。

スイスでは、子供が大きくなっても、時には大人になっても「誕生パーティ」をやっている。我が家の場合は、子供が友達を家に呼んでの誕生会は小学6年生 までと言い渡してある。しかし、家族内ではおそらく娘が独り立ちするまでやっていると思う。
友達を呼ぶ誕生会では、クレープが我が家のお決まりメニュー。そしてゲーム(太っ腹にも景品ありですぞ)をし、帰り際、菓子袋を渡す。娘達2人ともクリ スマスシーズンに近いので、菓子もクリスマス仕様である。
成人すれば、20,30,40,50,60歳・・・と、節目節目のパーティがある。これは誰が催すのかというと、親ではなく自分である。やる気満々な人 は25,35・・・と5飛びでもやる。同い年の私と夫は、30歳と40歳の誕生会に家族と親しい友人を大勢招いて楽しんだ。


④夫と私の40回目の誕生日
ケータリング業者にハムを渡してパイ皮で包んで焼いてもらい、じゃがいものグラタンと数種類の野菜も注文。給仕の女性2 人も派遣!

⑤こちらは同じく40歳の誕生日
デザート三種類。真ん中は「黒い森ケーキ」である。

日本同様、結婚式の内容は人それぞれになってきている。子供ができても同棲を続け、籍を入れない人、入籍を済ませ身内だけで食事会という人もいれば、伝 統にのっとって、入籍→教会で挙式→アペリティヴ→場所を移動してレストランなどで食事会、そして朝まで歌い踊り騒ぐ、という私と夫の結婚式のようなパ ターンを踏襲する人もいる。その「伝統的」結婚式については第4~6話「一年がかりの結婚式」をご参照に!


⑥友人の結婚式(入籍+身内でのパーティ)に招かれた時のアペリティヴ。
一口サイズで色々な種類があったが、春巻きが絶品!
夕食会に招かれていなかったらもっと食べたかった(笑)

⑦結婚式での夕食会にて、メーンディッシュ。
牛フィレ肉に、フランス語圏では最高格のモリーユ茸ソースがかかっている。


⑧こちらは、別の友人の結婚式
5段ケーキはアイスクリーム! 他にもフルーツサラダやティラミスなど、既にお腹が一杯でも無理して食べたくなるデザー トばかり。

その他、パーティと言えばキリスト教国では当然、クリスマス。カップルでいちゃつくことがメインイベントの日本と違い、本場のクリスマスは家族で過ご す。(だから、スイスで家族のいない人はこの季節、かわいそうである。店もすべて閉まり、家族同士で寄り合っているので友人すら招いてくれない。レストラ ンは開いているところもあるが、独りで食事も・・・。ポラントリュイではそんな人を含め、誰でも来れる「皆のクリスマス」というパーティが12月24日の 夜にCOOPレストランで催され、身寄りのない人、外国から単独で来た家族などが出会う場となっている)
ジュラのクリスマス・イヴ料理は七面鳥とは決まっておらず、ごく普通の家庭料理に舌鼓を打つ。「今年も早かったねえ~子供達、大きくなったわね~」とし みじみ語り合いながら過ごし、早めにお開き。クリスマスの特別礼拝に行く人がいるためだ。 毎年クリスマス当日は、夫の母方の親戚がシャレーに集まり、賑やかにパーティ。1年にこの日しか会わない人もいるので、貴重なひと時である。

⑨毎年恒例のクリスマスパーティ。
12月25日は主人の母方が一堂に集う。ハム&グラタンという定番メニューに、各自が持ち寄ったサラダとデザート。
そ れぞれの家庭の味が楽しめる。
⑩クリスマスイヴは義妹宅でのパーティが恒例。
義妹の義母がいつもケーキを差し入れてくれる。
手作りケーキの素晴らしい出来ばえに、ただ驚くばかり!


⑪お祝いの巨大なぶどう型パン。
2年前の復活祭前夜にカトリック洗礼を受けた著者。
その時に教会からいただいたもの。

スイスはキリスト教国と言えど、教会に頻繁に通っている人、洗礼を受けても教会に行かない人、途中で信仰を捨ててしまう人など様々である。 ジュラ州はカトリック教徒が大多数。子供が生まれれば洗礼→小4で初聖体拝領と初懺悔→中2で堅信、と段階を経て晴れて正式なカトリック教徒となる。初懺 悔以外は、パーティがつきものである。家族と子供の洗礼代母・代父だけを呼んで身内だけの食事会が一般的である。(写真⑬)

様々な理由はあっても、結局、人々は「家族や親しい友人と楽しく飲み食いし、しゃべる」ことを人生の喜びの一つと考えてからこそ集い、その幸福を子孫に 伝えようとする。日本人が忘れかけている人と人とのぬくもりある交流や、伝統や文化を大切にしていこうという心が、ジュラには生きている。


⑫ヴァシュランアイスクリームケーキ
姪で洗礼代子でもあるノエミの初聖体拝領のパーティにて。
v ⑬長女ジェシカの堅信式後のパーティ(2008年9月)
レストランの一室を借りてコース料理を振舞った。

ポラントリュイだより: スイスグルメ話~アジョワ名物編~


「アジョワ」(Ajoie)という地域名は全世界的には馴染みがないし、スイス人でも知らない人の方が多いかもしれない。しかし、その「知る人ぞ知る」 アジョワは、一年に一度、ある行事に参加する人々により、異常なまでに人口が膨れ上がるのである。

スイスのカレンダーを見ると、各日に聖人の名が記されている。11月11日は聖マルタン。聖マルタンは動物をいさめたり憑いた悪霊を払ったりしたことか ら動物の守護聖人としても聖別されているが、その日辺りの週末(11月の2週目の週末)、アジョワ地方は「聖マルタン祭り」に突入し、豚料理一色に染ま る。
この週末に備え、各農家は多くの豚を屠殺する。祭りの由来は聖人というよりも(豚自身は聖人の恩恵をちっとも受けていない!と嘆いているだろうか)、元 々はこの時期に農家は収穫を終え、長い冬に備えて食べ物の貯蓄準備に入ることから来ているそうだ。干し肉やソーセージなど長期間置ける加工食品を作る。大 切な命の源の豚君には犠牲になってもらうが、頭から足までしっかり食べてあげる。

この週末は、聖マルタンのための特別コースメニューを用意するレストランや特設会場がほとんどだが、聖マルタンの「メッカ」と呼ばれるシュヴネ (Chevenez)村に行く人は予約をした方が無難である。本式のメニューでは10数品目あるが、シュヴネ村の特設会場ではその半分。地元アクロバット チームによるダンス・ショーや、バンドによる民謡演奏(といっても日本と比べるとかなり賑やか)付きである。半・メニューと言っても、小食の日本人には多 いぐらいである。私達が食した皿をご紹介しよう。

まず、豚の頭を煮込んで出た汁を固めたゼリーに包まれたパテ(写真①)。しっかり固められていて、ご覧のように皿を回しても落ちない!


①フリスビーにしても大丈夫?
回転させても落ちない、パテのゼリー固め

②豚の血入りソーセージ
見て地獄、食べて天国かどうか?

③ソーセージの皮を切ると、中途半端に
固まった中身がどどっと飛び出してくる

二品目は、見た目グロテスク、味は・・・かなり癖があるが、「臓物大好き」な方は大丈夫だろう。豚の血のソーセージである(写真②③)。これだけでは辛 い、という人のためにリンゴのコンポートが添えられている。私は最初は一口しか食べられなかったが、リンゴのコンポート(リンゴを小さく切って砂糖をお好 みの量で入れ、長時間煮る)を大量につけて毎年少しずつ食べる量を増やしていき、去年、ついに一本丸ごと食べることができた!(私もやっと正真正銘のア ジョワ人になった……笑)赤い野菜はテーブルビートと呼ばれる根菜の一種である。
その後、口直しにシャーベット(アルコール入り)が出る。特設会場の舞台上ではミュージシャンが音楽を演奏し、食事の合間に客は歌って踊りまくる。こう して腹を少しばかり減らしてから次の皿に挑むのである。

お次はドイツ語圏でもお馴染みの、塩漬けキャベツの千切り煮込み、シュークルット(ドイツ語ではザウアークラウト)。一緒に煮込む定番食品は、ラードと 呼ばれる脂肪の多い肉、ロース肉、そしてアジョワ産ソーセージ(これがまた美味!)とじゃがいもである。
デザートは店によって異なる。クリームブリュレという、日本でもお馴染みの、カスタードクリームをガスバーナーで焦がした一品は万人向けであろう。これ だけの料理を食する間、大量のワインが消費されているのは、書くまでもない。酔っ払ってもいいように、特別バス(有料)が一晩中Chevenez村とポラ ントリュイの間を往復している。


④口直しのシャーベット
この年は「ケ・セラ・セラ」の歌詞が配られ全員で合唱

⑤こんな風に騒いでも踊っても椅子の上に立ち上がってもすべて
無礼講!踊らにゃ損、損!騒ぐだけ騒いだら今度は 食べまくる!
⑥シュークルットにたどりついた頃には、正直、
小さな私のお腹?はもう一杯。拷問の一品。

⑦お腹が一杯でも「これぐらいの量なら大丈夫
かな?」と、つい食べてしまうクリームブリュレ。

最後に、豚肉料理はあまり・・・という人のために、アジョワでは様々な魚も食べられていることをお知らせしよう。写真⑧は、第38話「陶器の村、ボン フォル」でも紹介した池の傍に立つ看板であるが、このように、鯉やパーチ、カワカマスという魚や写真⑨のようなマスのムニエルも名物である。レストランの メニューには、肉料理と並んでほとんどと言っていいほど、魚料理もお勧め品として出ている。スイス旅行中、肉に飽きた人は、是非アジョワでお試しあれ!


⑧本当にこんな色? と疑いたくなる、ボンフォル池に生息の魚達。この地方の名物は鯉のフライ。臭みもなく、からっと揚 がっていて美味。

⑨我らがWebmaster谷さんをお招きした時。
サンチュルザンヌの川沿いのレストランで谷さんが食されたマ スのムニエル。

ポラントリュイだより: スイスグルメ話~家庭料理編~

万国共通、人々の好奇心は普通、食文化に注がれるのではないだろうか。行ったこともない国の歴史や政治などちんぷんかんぷんという人でさえ、その国の人 が何を食べているのだろうということには結構関心があったりする。
今回は、私が日頃親しんでいる、スイスの食生活について述べたい。


①ヴァレー地方で食べたチーズフォンデュ
厚めのフォンデュ鍋の手前、角切りパンを、
しかと目に焼き付けていただきたい


②家族と野外チーズフォンデュ
ジュラの各村には必ずといっていいほど森の中にバーベキュー施設付きの
小屋があり、ハイカー達の憩いの場となっ ている。


③我が家のラクレット風景
ワールドアイ編集長をお招きした時の写真。手前の袋は茹でたじゃがいもの「保温袋」

スイスを代表する食べ物と言えば、チーズ、チーズと言えばチーズ・フォンデュと言われるぐらい、現在では定番となっている。日本でもチーズフォンデュが 食べられるレストランがぽつりぽつりと増えてきているが、残念なことに、「正式な」食べ方はなされていない。
正式とは何か、それは、専用のフォークに角切りにしたパンを突き刺し、フォンデュ鍋の中でぐつぐつ煮立っているチーズをからめて食べることに他ならな い!(←強調)日本で見られるように、茹でた野菜やミニソーセージなどをからめると、水分がフォンデュの中に徐々にしみ出し、しばらくすると水っぽい哀れ な味のチーズと化してしまう。乱暴な言い方だが、敢えて「邪道」と呼ばせてもらおう! 例外的に、パンに加えて心持ち堅めに茹でたじゃがいもを出している のは、チーズで有名なグリュエール村のレストラン。これは美味であったし、チーズも水っぽくならなかったと記憶している。そして、この料理には面白いルー ルがある。パンをチーズの中で失くしてしまうと、その人は、罰として次に飲むワインをおごらなくてはならないのだ。

もう一つの典型的チーズ料理と言えば、ラクレット。これはフォンデュほど知られていないが、我が家を訪れた日本人には100%大好評である。対して、前 出のチーズ・フォンデュには白ワインとキルシュ(さくらんぼ酒)が入っているので、アルコールの苦手な方はそうたくさんは食べられないだろう。また、スイ スアルプスがそびえるヴァレー(ドイツ語でヴァリス)地方の家庭で出されるチーズ・フォンデュには、キルシュがたっぷり入っているということを付け加えよ う。(東欧出身者がウォッカや96度!という蒸留酒をまるで水のようにがぶがぶ飲んでいるのを見たことがあるが、冬が長い地方の人々は厳寒に耐えるために 飲兵衛となってしまうのだろうか?)

さて、ラクレットは、専用に作られたチーズを溶かし、茹でたじゃがいもにつけて食べる。おかずとして、ピクルス、酢漬け茸、干し肉、ベーコンなどと一緒 に食べると、栄養のバランスが取れて良い。また、スイス人宅には「一家に一台」ラクレット器がある。大阪人のたこ焼き器のようなものか。写真③のように、 6~8人が一度に食べられる。また、もうちょっとフンパツして、写真④のような大型のラクレット器を持っているご家庭もある。電熱を浴びて溶けたチーズを ヘラでジャジャッと一気に落とす。(写真⑤)しかし、この器具の不具合な点は、誰か一人が給仕係になってしまうことである。その点、「一家に一台」版は、 全員が同時に食事ができて、罪悪感に陥らなくて済む。

④娘が参加したブラスバンド合宿の夕食
茹で上がったじゃがいもを皿に載せて、
列を作ってチーズが溶けるのを待っている子供達。

⑤奉仕の精神でひたすら溶けチーズを給仕し続けるバンドのお兄さん

何ゆえ、スイス人はチーズを大量に食べるのか? 魚介類を食べる習慣があまりない彼らは、本能に従い、カルシウムをチーズから摂取するようになったのだ ろうか。聞きかじりの知識だが、チーズは、乳製品の中でも、カルシウムが最良の形で含まれているということだ。

フォンデュには、まだ種類がある。写真⑦は一般にミート・フォンデュと呼ばれているが、フランス語では「フォンデュ・ブルギニヨン(ブルゴーニュ地方の フォンデュ)」。
サイコロ状に切った牛肉を、鍋の中の熱した油で軽く揚げて、数種類のソース(手作りする家庭が多い)をつけて食べる。ソースは、卵の黄身に少しずつ食用 油を注いで泡だて器(手動が美味さの基本!)で混ぜ、固くなると酢を少し入れて緩め、その作業を繰り返して段々と量を増やしていく。最後にこしょうなどの 調味料で味を調える。このソースをベースにして、タルタルソース(ニンニクとピクルス入り)やオーロラソース(ケチャップ入り)などを作り、料理人のアイ ディアとお手並みが披露される。付け合わせは、御飯(日本の白御飯と違って、玉ねぎで炒めた上に、塩・ガーリック粉などで味付けして鍋で煮込む)や、サラ ダ。準備に時間はかかるが、全員が揃って食べられるという利点がある。牛肉は生でもとろけるように柔らかい高価な部分を選ぶので、誕生日などのお祝いの日 や来客時に食べるだけで、気軽なチーズ・フォンデュと違い、年に一、二度ぐらいしか食べない。
この他、スイス版しゃぶしゃぶの「フォンデュ・シノワーズ」(中国式フォンデュ)や、あまりスイスでは見かけないが、マルキ家の隠し技「フォンデュ・ペ イザン」(農民式フォンデュ)がある。ペイザンは、角切りにした七面鳥の肉に衣をつけ、揚げて食べる。七面鳥肉は鶏肉より軽めなので、調子に乗ってしこた ま食べてしまうと、胃がもたれるという結果に終わる。

次回は、ジュラ(特にポラントリュイを中心としたアジョワ地方)の名物料理をご紹介する。


⑥さあ、ラクレットをいただきま~す!


⑦ぐらぐら煮立った油に注意!
小さな子供の手の届かないところに鍋を置きましょう。食べ始めたらなかなか止まらないフォンデュ・ブルギニヨン
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