10年前、「改札口のない鉄道駅」と題してオランダ鉄道事情を少し紹介しました。オランダに限らずヨーロッパ全体では、パリ・ロンドン等大都市の地下鉄を除けば、駅には改札口がなく、「信用乗車方式」と呼ばれる乗車券チェックシステムがほとんどでなのです。この方式は、走行中に複数の乗務員が巡回してきて、乗客の切符を抜き打ちで調べます。その時点で有効な乗車券を持っていなければアウト、有無を言わさず罰金です。完全自動改札システムに慣れた大部分の日本人にとっては、あまり馴染みのない方式です。
とはいえ、これは19世紀に鉄道システムが整備された頃からの方式であり、改札口整備には大規模で広範囲な設備改修が必要なことから、閉鎖系である都市部の地下鉄以外、ヨーロッパでは改札口の整備があまり進んでいません。その中でオランダではまさに、その「大規模で広範囲な設備改修」が進行中です。10年前の本連載で、 「オランダの改札導入プロジェクトをじっくり観察する」と書いてしまいました(笑)ので、今回はそのフォローアップということになります(笑)。
オランダでは2006年頃、OV-chipkaartという交通用ICカードが導入されました。ICOCAやSUICAなどと同様の機能のものですが、オランダ国内では統一規格です。
初めにバス・トラム・地下鉄で利用できるようになりました。バスやトラムでは、乗車時と降車時にドア近くのカードリーダーにかざします。
料金は、基本料金+乗車距離に比例する料金が0.01ユーロ単位で計算されますが、降車から35分以内に他のバス・トラムに乗れば、乗り換えとみなされてその乗車での基本料金は免除される仕組みです。アムステルダムで一般的になったのは2007年頃でしたが、2008年か9年には、以前紹介したようにアムステルダムのメトロ(地下鉄)で改札口が完全整備され、OV-chipkaartを持たずに駅ホームに立ち入ることはできなくなりました。ただし、改札口を通って入っても、電車に乗らずに同じ駅で改札口を通って出ることで料金を取られることはありません。
全国網のオランダ鉄道(略称NS)でOV-chipkaartが導入されたのが2010年頃からだったと記憶していますが、改札口は設置されず、券売機の近くや、ホームの上にあるカードリーダーのポストにかざして乗車・降車手続きをしていました。この方式だとカードリーダーにかざすのを忘れがちで、意図せず不正乗車になってしまったり、あるいは降車処理を忘れて後日窓口での手続きが必要になったりと、けっこう不便な扱いが続きました。
2012年か13年ぐらいに、アムステルダム中央駅にはようやく改札口が設置されました。日本のICカード改札口のように、隘路のすぐ右手にカードリーダーがあるので、通行時にかざすのを忘れることはほとんどありません。ただ、最初の数年はゲートを閉めることはなく、カードをかざさず通るときもゲートは開いたままでした。適正なカードをかざした時だけゲートを開けるようになったのは、2014年からだったと記憶しています。
ワタシがオランダ住民登録を終えた2015年5月には、アルクマール駅はちょうど改札口の設置工事中でした。その年末の「帰宅」時には、工事はほぼ完成していましたが、カードリーダーのみの運用で、ゲートの開閉は始まっていませんでしたが、2016年5月の「帰宅」時には、ゲート開閉の運用も始まっていました。
本連載の初期の頃に「アムステルダムの十三駅(笑)」と紹介したスローターダイク駅(Amsterdam Sloterdijk)では、2017年5月初めにはまだオランダ鉄道(NS)の改札口はなく、カードリーダーのみの運用でしたが、約8ヶ月ぶりとなる年末には、改札口が完成していました。南北方向に2線1ホーム(3階)、東西方向に6線3ホーム(1階)ある複雑な駅のため、2階の乗換ホールで改札口を出たり入ったりする必要があり、空港からアルクマールに向かう途上のワタシにとって、お土産満載のスーツケースを2つ引きずって通るのはちょっとした苦行でした。おまけに本稿のための写真も撮らないといけないし(苦笑)。
ただ、未だ改札口が設置されてない重要な駅があります。スキポール空港駅です。アムステルダム・ハーグ・ロッテルダム・ユトレヒト等主要都市から乗換なしの列車が発着ている他、ブリュッセルやパリへ行く国際特急の停車駅でもあります。
スキポール空港は、とても機能的な空港として世界中から高く評価されています。乗継ゲートのわかりやすさの他、上に挙げた鉄道アクセスの便利さも高い評価点の一つです。しかも、空港メインホールからエスカレータでワンフロア降りるだけでそこは鉄道ホームという、駅と空港が完全に直結状態。到着ロビーから重い荷物をひきずってきても、ものの2分で鉄道ホームなのです。
ただ、このアクセスの便利さが災いしてか、今のところ改札口設置のための作業が進んでいないようです。ワタシがスキポール空港を毎年利用するようになって以来12年、保安検査場の向こうの搭乗ゲート側は、幾度となく大きな改装工事を繰り返してきましたが、見送り客なども自由に出入りできるメインホール側は、タクシー乗り場側にレストランが新設された以外、これまで大きな改装は一度もありませんでした。鉄道駅の改札口設置に向けて、そろそろ大きな改装が始まる頃かも知れません。
2018年1月9日(初稿)
オランダ・アルクマールにて
小松雄爾
(2018年1月14日、川崎市にて追記) 本稿では、改札口整備が進んだ、アムステルダム中央駅、アルクマール駅、スローターダイク駅と、まだ改札口整備が進んでいないスキポール空港駅について紹介しました。本稿を登録したのが1月9日の早朝(日本時間。オランダではまだ1月8日)でしたが、1月9日に東京行きの飛行機に乗るためにアルクマールから出る列車から途中駅を見てみると、まだ改札口が整備されてない駅の方が多いくらいで、ホームにカードリーダーポストが並んでいる駅がいくつか目につきました。また、車内では検札乗務員も巡回してきました。2-3人組ではなく、単独で巡ってきたのが以前との違いでしたが。「改札口を国内駅すみずみまで整備し検札乗務員の人件費を大幅に削減する」目標を達成するには、まだまだ時間がかかるのだろうな、と思いました。