オランダから見たドイツ《4》研究所とヒエラルキー(その4) (2008年7月10日)

【研究所と企業の関係・オランダとドイツの違い】

ECN(太陽電池研究棟)
ECNの研究棟

ずいぶん長い前置きになってしまった。いよいよ本題である。
研究所は、単純に言うと、大学での基礎研究の成果を、企業の生産現場での応用のための、橋渡しをしているところ、といえる。もちろん、研究所自身が基礎 研究を行っている場合もあるが、一般的に言って、大学は研究所に比べると、ある程度自由な研究ができる場所でもあり、独創的な基礎研究も行いやすい。しか し、基礎研究はそのままの形では、実際の生産現場に応用するのは難しいので、研究所が技術開発の役割を担うのである。その成果を、技術供与の形で、産業界 での生産現場に提供する。
この「技術供与」を効率的に行うには、企業と研究所の間で、十分なコミュニケーションと、相互の理解が必要だ。研究所は特に、生産現場の問題点をよく理解していないといけない。

技術供与(イメージ)

手前味噌ではあるが、ECNはこの「技術供与」を非常に円滑にできているように思う。産業界が求めているのはどのような技術か、生産現場に導入させやす いのはどのような技術か、その方面への理解もさることながら、技術供与後の企業へのアフターフォローがしっかりしており、問題点を修正するだけでなく、産 業への理解をさらに深める機会として利用している。
一般に、技術を提供する側は、その技術に自信があればあるほど、そのままの状態での応用を産業側に強いがちになるが、ECNはかなり柔軟で融通が利いて いる。さながら、オランダにおける研究者と技官とが、お互いが対等な立場で話し合って、双方納得のいく解決策を見つける努力をしているのに似ている。すな わち、研究所と企業も対等な関係で技術について話し合い、供与される技術が、研究所にとっても企業にとっても都合のいい形で受け入れられる妥協点を見つけ ていく。異なる組織同士のフラットな関係が、よりよい結果を生み出している。

対するところのドイツ・フラウンホーファー太陽エネルギー研究所(F-ISE)である。彼らの太陽電池の生産技術の応用研究は先進的で、発表される技術 は、革新的である。ECNより優れた生産技術も多く開発している。しかし、筆者の見たところ、彼らの技術を生産現場に持っていくには、もう一つか二つ、応 用を利かせる必要がありそうなのだ。製造コスト低減への見込みが甘かったり、製造時の排出物に対する配慮が足りなかったりなどが、そこここに見受けられ る。産業側からの技術提供の依頼の件数も、あまり多くはなさそうに見える。

靴と靴(イメージ)

少し話がわかりにくいかもしれないので、靴選びを例にして説明して見よう。「靴」を研究所から提供する技術、「足」を企業の生産現場にたとえて見る。
ドイツF-ISEの提供する靴は、デザインも斬新で短距離を走るには申し分ない。しかし、長い時間履いていたら足にマメができてしまう。ところが、その性能を生かすには、マメができないように修正することは許容できない。
一方、ECNの提供する靴は、デザインはそれなりに斬新だが、平凡さも残っている。長く履けそうな履き心地で、長距離を歩くのに適している。そのままで はやや足に合わないところもあるが、ちょっとした手直しをすれば、格段に履き心地はよくなる。この違いがお分かりいただけるだろうか。
前回紹介したように、ドイツの研究所では研究者と技官の間の階層構造がコミュニケーションを阻害しているように、研究所と企業の間にもヒエラルキーのようなものがあり、コミュニケーションや相互理解がうまくいっていないように見えるのである。

研究者の学歴にも違いが見える。ドイツの研究所では、研究者クラスはほとんどが博士号を持っている。持っていない研究者も、少なくとも修士は修了してい て、研究業務を通じて博士号取得を目指している。オランダの研究所では、博士号の保持は必須ではない。修士修了者も、必ずしも博士号取得を目論んでいな い。中には、技官の仕事を務めているうちに、いつの間にか研究者的な仕事をしている者もいる。研究者と技官の間の垣根の高さの違いが、研究所と企業の間の 関係にも影響しているように思える。

※キャプションの無い写真はイメージ

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