お待たせしました。「逆単身赴任エピソード」第2弾、もっと早くに書き上げるつもりが、なかなか筆が進まず面目ないことです。長期休暇を利用してようやく続きを書きあげました。
さて、オランダから単身帰ってきて、日々気をつけているのは自分の健康です。「出稼ぎ父ちゃん」としては、急に身体を壊して仕送りができなくなるわけにはいきません。(現在放映中のNHK朝ドラでは、出稼ぎ父ちゃんが失踪してしまう展開で、ちょっと他人事ではいられません)たとえ仕事は二の次になっても、規則正しい生活とバランスの取れた食事、それに定期的な運動を心がけています。
運動については、2013年に始めたランニングと、近所のスイミングクラブでの水泳を、それぞれ週に1、2回ずつ。今は川崎市幸区に住んでいるので、ランニングは近くの鶴見川や多摩川沿いが多いですが、月一回、六稜の同期生有志たちと皇居外周を走ってモチベーションを高め、ランニング関連情報などを交換しています。1月には同期の仲間たちと千葉のハーフマラソンにも出場しました。オランダでは独りでランニングしていましたが、大阪でなくても東京に近ければ六稜ネットワークの恩恵が受けられて、とてもありがたいです。
食習慣はすっかり、「プロテスタント的」になりました。いわゆる「グルメ志向」がすっかり影をひそめ、健康に必要な栄養が確保できるのなら、食べるものが毎日同じでもすっかり平気になりました。中世の宗教改革の果てにプロテスタントが最初に作った国、オランダの食習慣に順応したのだと、自分では勝手に思い込んでいます。
オランダに行く前はファミレスなどの外食はよく利用しましたが、オランダでは、日本のファミレスに相当するのはマクドナルドやケンタッキー・フライド・チキンのようなファストフードであって、レストランと言えば、値段も雰囲気も調理時間もちょっと高め(長め)で、家族でレストランに出かけることはほとんどなくなりました。
でも、この食習慣への順応に一番影響があったのは、勤務先の社員食堂だったかも知れません。畑と砂丘と海岸に囲まれた、約1500人が勤務する事業所で唯一の社員食堂。弁当持参者以外はそこで昼食を摂るわけですが、温かい食事は選択肢が限られていました。 一種類だけの日替わり定食はいつもお皿に山盛りで、全部食べると腹一杯で午後の1~2時間仕事になりません。多い分は残せばいいのですが、「出されたものを残すのは罪悪」と親に躾けられたワタシは、料理がよほど口に合わない時以外は残すことができませんでした。これを毎日食べていたら確実に太ってしまうし、味付けも濃い目だったので、早いうちに選択肢からはずしました。
それ以外の温かい食事のチョイスは、日替わりスープと、円柱状のコロッケ(kroket)が2-3種類、frikandelというオランダ風ソーセージ、スライスチーズのフライ(kaassoufflé)など。どれも冷凍品をキッチンで揚げるか温めるだけのもので、やはり味が濃く毎日食べると飽きました。目玉焼きを薄切り食パンの上に乗っけるuitsmijterというオランダ独特の料理もありましたが、パンを温めて給仕するのはこれだけです。パンは温かいのでなければ食パンの他にもいろんな種類がありました。その他にはバナナ、リンゴ、キウィ等の果物や、スライスチーズ・スライスハム・レバーペースト・一食パックのポテトサラダ等の冷蔵品、バター・ジャム等仕入れて並べるだけのものが主でした。唯一サラダバーだけが、比較的種類が豊富で毎日それなりに変化がありました。
社員食堂なので、それぞれの値段は1セント単位で設定されていて(レジは完全なキャッシュレス)リーゾナブルなのですが、温かいチョイスはイマイチ口に合わないし、周りのオランダ人達を見回しても、パンとチーズと果物だけだったり、パンにバターを塗ってhagelslagと呼ばれるチョコレートの振り掛けをかけるだけ(これはかなり極端な例ですが 笑)だったり、温めないものばかりで済ませている人がかなり多いのです。話を聞いてみると、オランダの伝統的な食習慣では、朝昼の調理には火を使わず、温かい食事を食べるのは夜だけ。敬虔なプロテスタントは食生活は質素に済ませ、その分勤労に励んだのだとか。彼ら自身も中高生時代の弁当は質素なサンドイッチが普通だったので、社員食堂でも質素な食事でも気にしないのだとか。「定食の内容にうるさいのはフランス人とかイタリア人とかだよね。オランダ人はこんなモンで十分」 食堂を利用する事業所にはEUの研究施設も同居していました。
1,2年の試行錯誤の末、結局ワタシが毎日何を食べていたかというと、「サラダバーと薄切り食パン2枚とスライスチーズ。たまにチーズの代わりにコロッケ。気が向いたらスープ」という昼食を、ほぼ8年間続けていました。オランダに転職前は、奈良県中部の従業員約1000人の事業所の社員食堂で、料理に文句を言いながらもあれこれ選びながら毎日違うものを食べていた訳ですが、これが実はとても贅沢だったと思う一方で、毎日同じものを食べていても健康にさえ気遣っておれば別にどうということもない、という達観した考え方に至ったのです。
そんなワケで、今では毎朝毎夕、アパートで一人で食べるときは、いつも同じものを食べています。もちろん夕食時に会食などがあるときは別ですが、一人のときはほぼ外食せず、いつも台所で包丁を握って簡単な料理をしています。同じものばかり料理して食べていると、料理や買い物の時に「何を作ろうか、何を買おうか」悩まなくてすむので、時間の節約になります。食材の種類も限られてくるので、冷蔵庫のスペースも節約になるし、野菜などは短いサイクルで使い切るので、消費しきれずに腐らせることもなく、いつも比較的新鮮な状態で食べることができます。結果的に材料費も少なめに抑えることができるので、「単調な食生活への不満」さえ感じなければ、実に合理的なのです。
16ー17世紀の宗教改革の時代、地球全体の気温が低めになったこともあって、当時プロテスタントが広まり始めたオランダや北ドイツ地方では、農作物の出来が悪かったそうです。一方で新大陸からもたらされたジャガイモ栽培が一気に広がったのだとも。気候温暖なイタリアやスペインのカトリック信者のように、豊かな農作物を神様に捧げることはできないものの、禁欲的な食生活を送りながら「労働すること」を神様に捧げることを選んだプロテスタント。その食への合理的精神を、ワタシはオランダで身につけてきたような気がします。
せっかくですから、ワタシが朝夕に何を作って食べているのか、紹介してしまいましょう。ほぼ毎日同じものを食べていますが、一日あたりではかなり多品目を食べているので、多分健康的だと思います。「いったいどこが『プロテスタント的』か?」と問われると、食べているモノの内容というワケではなく、毎日質素に同じモノを食べている、と言ったトコロですかね(笑)
余談
今回のブログ、1月のオランダでの休暇中に書き始めたにもかかわらず、日本にいる間はグズグズと筆が進まず、結局また次の休暇でのオランダ滞在中に仕上げています。家族の元に帰り、妻が食事の用意も洗濯もしてくれるので、のんびりブログが書けるのはありがたいです。残りの休暇期間を使って、次回の更新の準備を始めることにしますか・・・
2017年5月4日
オランダ・アルクマールにて
小松雄爾