運河のオランダ語シリーズ最終回です。これまで、都市部のgrachtとsingel、大運河kanaal、農地排水用のslootを紹介してきました。
【vaart (ファールト)】
kanaalは大都市を結ぶ大運河でしたが、kanaalほど大きくはないものの、町と町の間を結んでいる運河をvaartと言います。vaartは、船(のような乗り物)に乗って移動するという意味を表す動詞varen(ファーレン)が名詞に転じたものです(動詞の二/三人称単数も同じ綴り)。「(車を)運転する」という意味のドイツ語fahrenと語源は同じようですが、オランダ語のvarenには車の運転の意味はありません。動力のあるなしにかかわらず、船で移動する状態を表し、修飾語を伴って様々な熟語や複合動詞となる、日常会話に頻出する動詞です。ドイツ語から分離して千年余り、オランダ人にとって船に乗ることが日常生活に密着していたのでしょう。
鉄道がなかった時代、人々はvaartを使って船で荷物を運びました。高低差がないので、上りも下りもありません。人力で漕ぐことが普通だったでしょうが、側道から馬に引かせることも一般的だったようです。ほとんどのvaartは、かつて曳き馬が通った側道があります。
kanaalは現代でも物流に利用されているため橋が開きますが、vaartの橋は現代ではほとんど開きません。それでも小型船舶なら橋は潜れてしまうので、天気のいい休日は多数のレジャーボートで賑わいます。
さいごにひとこと
5種類ある運河の内どれが一番好きかと聞かれたら、ご想像の通り、もちろんvaartが一番好きです。vaartを一人でゆったりと、考え事をしながら、あるいは心を空っぽにして、変わりゆく景色を楽しみながらカヌーを漕ぐのが、今のワタシにとって一番の安らぎです。
ワタシが在学したころの美術の中村先生が、「オランダで絵画は発達したのは、風景が二倍になるからだ」と仰ったそうですが、水面に映る景色は、何か人間にとって懐かしいものを思い出させてくれるような気がします。
これからも皆さんに、「vaart waterからの便り」を続けたいと思います。