ウィーンの散歩道 ~Mit der Musik【第14話】

2009年4月21日


▲王宮公園


園田先生とベートーヴェン

花々と若葉と陽の光あふれる春のウィーンより。
皆様ご無沙汰していました。

更新が遅れてしまい報告ができずにいましたが、2月に世界8都市で行われたベートーヴェン国際コンクール予備予選は、200人以上の参加者から32人が 6月ウィーンで開催される本選に進みました。私も無事通過することができて、今は次のプログラムを練習してベートーヴェンと向き合う毎日です。

さて今回はそのベートーヴェンのピアノ音楽を生涯に渡って追求されていた日本の大ピアニスト、そして私が最も尊敬する音楽家、園田高弘氏について書こうと思います。


▲園田高弘70歳記念演奏会にて

園田先生は、戦後の日本のクラッシック音楽界で常に頂点にいた人です。
カラヤンの薦めでドイツに渡り、ベルリンフィルハーモニーなどの世界の一流オーケストラ、そしてそのカラヤン、チェリビダッケなど素晴らしい指揮者と数多く協演、40年近くヨーロッパで演奏活動をされました。
3度のベートーヴェンピアノソナタ全32曲、2度のバッハ平均律全曲を含めてバロックから近現代曲までの400曲を越す膨大なレパートリーの録音を発表、また常に演奏家としての使命を持って活躍され、多くの音楽家に影響を与えた人です。
国際コンクールの審査員としてもチャイコフスキー、ショパン、エリザベート、クライバーン、ブゾーニ等々、もちろんベートーヴェンも……今、世にいるピアニストを多く見聞きし審査をされました。

その偉大な園田先生との初対面は、私が高校1年生の時です。

右も左も分からないまま、恩師である樋上由紀先生に連れられ園田先生の京都のお宅に伺いました。私が弾く音階、アルペジョ、バッハの平均律、リストのエチュードを聴いていただきました。
当時、北野高校に入ったばかりで自分が音楽の道へ進むのどうかも分からなかったし、音楽の知識も教養も演奏のテクニックもなかった私を、よくみ て下さったなあと思います。そこは運が良かったというか、樋上先生の指導のおかげで基礎と集中力だけは良いということで、それから園田先生が京都に来られ る時にレッスンを受けることになりました。


▲高校2年夏、軽井沢での演奏会後

それほど頻繁にではありませんでしたが、指導は毎回厳しいものでした。褒められたことは集中力以外ほとんどなく、よく言われたのは「鍵盤は氷山 の一角。まず曲の背景、経緯、歴史があり、曲の細かな構成、音楽的な解釈がはっきりしていて、それがあってはじめて演奏できる。それと演奏するための手 段、テクニックをつけること」ということ。とにかく毎回、自分の至らなさを実感して帰る……の繰り返しでした。
先生のレッスン室では私がスタインウェイのいいピアノで弾き、先生はアップライトの小さな古いピアノだったにもかかわらず、「いや、違うよ、 こういうふうに音を鳴らしてね」と言い、とうてい真似できない音色で弾かれるのです。その様子を見てどうなってるんだろう? と思いました。
また、バッハだと3声・4声の複雑なフーガでも「高声と中声のバランスはこのくらいで、ここでフレーズが収まってここからこう指を使っ て……」と説明されながら弾いて下さるのですが、後で録音のテープを聞いてもその説明と演奏が一致していて、ただただ凄いの一言。その様に自分も弾きたい と思っていろいろ真似をしたり、指導いただいたことをコツコツと練習したり考えたりして時が経っていきました。

そういうこともあり、今回ベートーヴェンに取り組むにあたっては様々な思いが巡ります。
園田先生が生涯で3度もベートーヴェンピアノソナタの録音をされていること、ソナタ全曲楽譜の校訂、室内楽、協奏曲の全曲録音、そして数え切れ ないほどのベートーヴェンプログラムの演奏会をされて、本当に生涯に渡ってベートーヴェンの音楽の追及をされていたということ……
例えばウィーンの自宅で練習している時や、本番などでその日の演奏を思い出したりする時。私の演奏を園田先生が聴いてらしたら一体なんて言わ れるだろうと、想像するだけで背筋がピシッとし、あぁまだまだと思い直して、少しでも良くなるようコツコツ練習し考える日々を送っています