reporter:江本 敬(78期)
かくして30数年ぶりに、しかも一度に数学と国語の宿題を背負うはめになってしまった。
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御堂岡先生が講義の途中でおっしゃった。
「私の年賀状貰うとる人は知っとるんじゃが、わたしゃーな、126歳まで生きることにしとるんです。そねーに思うたらな、来年の桜や再来年の桜を見れるじゃろうか?なんちゅう情けないことは考えん。まだまだ50年もある訳じゃからのう、もうそら、目の前がスコーンとひらけるでな」
なるほど、この素晴らしいプラス思考が若さの秘訣かとも思われる。しかしそれにしても兵庫県で10年、北野で30年以上教鞭を取ってこられた割には、おそらく岡山と推定される中国地方の訛りがきついですね。これも細かいことに拘らずに、健やかに老いる為のコツなのだろうか。
まず一時限目、カラン カラーンの鉦の音を合図に、福田先生の物理最終講義には201号教室に70人もの大勢の生徒が詰めかけた。机のあいだに椅子を置いてもまだ足りずに、教室の後ろは無論、廊下からも立ち見の人がでる盛況である。「北野と私」という楽しいイントロのあと、さっそく力学の「運動の法則」からの講義が開始された。
「ここに力を F とし、加速度を a 、質量を m とします。F は“ Force ”の F で a は“acceleration”の a です。m は当然“mass”の m ですね」(ムム、知らんかった、この40年間。なんとはなしに書いとってんけど、そうやったんか)と、早速汗顔の思い。講義はおかまいなしに、ガリレイの落体実験からキャベンディッシュの引力の実験へと進んで行く。穏やかな早春の陽光が射す中、教室全体は静まりかえって生徒は講義に集中し、福田先生の声と黒板のチョークの音、ストーブの燃える音だけが聞こえる。時に交えるジョークに生徒たちは爆笑で答える。
最後の講義は同時に理想の講義でもあったようだ。
熱い講義と生徒の熱気で、福田先生自らストーブを消しにいく場面も。熱心に詳細な説明をお続けになったために、レジュメの半分ほどのところで終了の鉦の音とともに時間切れとなってしまった。楽しみにしていた「光の波動とその媒質」や、「アインシュタインの光量子仮説」のところまでお話が行かなかったのが実に残念だった。是非補講をして頂きたいものである。
10分の休憩のあと、お隣の202号教室で御堂岡先生による数学の講義が始まった。テーマは「数列」である。まず等差数列。
「1,4,7,10,13,16・・のように差が等しいものを等差数列と言います。数列の総和を求めようと思えば、(1+16)+(4+13)+(7+10)=17×3=51ですね。簡単です。総和を求めるためには同じ数列をひっくり返したものを足して2で割ってやればよい。だから、Sn=n(a+l)/2ということになります」
「次に等比数列の場合は同様の操作で Sn=a(1−rのn乗)/1−r となります」と、まさかここまで省略はしていないのだが、相変わらず進むのが早いっ。一瞬でも気を抜くとついて行けなくなる。その昔、始終居眠りばかりしていて、数学の講義を理解できるわけがなかったのだ。
「次、フィボナッチの数列、行きます!」
「1,1,2,3,5,8,13,21,34・・のように、前の二つの数を足したものが次の数になる、これをフィボナッチの数列といいます。この数列には色々と面白い性質があるんじゃけーどが、そのひとつに黄金分割と関係があっての。数列のある数を前の数で割ると、数値がおおきゅうなるにつれて、1.6180339・・即ち (1+ルート5)/2 に近づくんじゃが、この数値はとりもなおさず黄金分割比なんです」
ほーう、面白い。高校時代あれほど忌み嫌っていた物理や数学も渦中から去り久し振りに聴いてみるとこんなにも興味惹かれるものだったのだ。出された宿題はこの数列に関する問題で、答えもいま手元にあるのだが、ルートや括弧、大括弧、n乗、分数等で充たされており、私の力では解くことは無論、WORD98で表現することさえ困難につき割愛する。
最後に、皆様の益々のご健勝を祈念して、以上ご報告とさせて頂く。