六稜会報Online No.26(1993.7.20)


    あゝ 感動の一瞬!!
    “平成五年三月二十一日午後四時三十分”


    六稜楽友会会長
    野口藤三郎(53期)

       平成5年3月21日午後4時30分。それは、私の生涯忘れ得ぬ一瞬となった。

       本年10月、北野創立百二十周年記念祭に「フェスティバルホール」で「六稜交響楽団・六稜混声合唱団」が演奏する、ベェトォベンの「第九交響曲」の最初の合奏練習の日だった。
       正午すぎ、私は、阪急電車十三駅の改札口を出て、母校に向った。人品卑しくない老若男女が、みな同じ方向へ向って歩いて行く。この方々は、皆、「第九交響曲」の練習にかけつけて戴いたオーケストラとコーラスの人たちだった。

       遠くは埼玉・東京・名古屋から、旅費自弁で、年齢も大正15年卒業の先輩から、平成5年の卒業生まで、管弦楽団70・合唱団180。総計250余名!
       練習は、第一楽章から始まって、第四楽章を午後4時30分に終った。凄い迫力だ。
       北野創立以来、母校の歴史で初めて本格的なベェトォベンの「第九交響曲」が講堂に響きわたった。しかも我々卒業生の手によって…。

       言い知れぬ感動に胸を掩われ、私は不覚にも、泪を押えることが出来なかった。

       世に稀なものがそこにあった。現時、華麗な演奏は数多い。だが、溢れる感動を受ける演奏は実に稀である。それが、ここにあった。この感動の一瞬を、私は生涯忘れ得ない。


    原典●『六稜會報』No.26 p.3