一番不思議だったのは…ニューヨークに住んでいる日本人のある銀行の支店長の一家で、これが「日本から来たテレビ番組だ」ということで子供に見せたらしいんです。すると、子供が顔をしかめまして、テレビを消してしまった。「怖い」というんですね。
その支店長いわく「手塚さん。どうして、あんなどぎつい、残酷な、残忍なマンガをアメリカへ持って来たんだ。うちの子供は、怖いと言ってテレビを見ない。」僕にとっては、どちらかというとアトムは大人しいマンガだと思って持って行ったところが、向こうでは非常にどぎつい残忍なマンガと受け取られてしまった…ということがあって、びっくりしてしまったという経験があります。
ちなみに向こうでは『ポパイ』というマンガも三流マンガ扱いされているわけです。これも非常に物をぶっ壊す…そういったことが子供たちにドギツいものとして受け取られているらしいのです。
それから最近は劇画ブームになりまして、例えば『ゴルゴ13』とか『子連れ狼』とか…人をバッタバッタ切ったり、殺したりするマンガが出て来ました。
皆さんもご覧になったかもしれませんが、最近NHKで「マンガ文化はこれで良いか」という番組がありまして、その時に僕は言ったのですけれど、要するに外国人が日本のマンガを見た時に、日本人はすごく面白がって見ているけれど、実際には「これは行き過ぎじゃあないんだろうか」と思われてしまうことがある。
実際に、そういうマンガを外国で見て残忍だとか何とかということを知るには、日本でどんなに受けるからと言ったって、日本人だけが喜ぶんじゃあ駄目で、一度、海外へ出してみる必要がある。そういう中で、日本の文化が洗練されてインターナショナルになるんじゃないか。そういうようなことを言ったことがあります。
僕がマンガ家になってから29年になります。29年の間、ずーっとマンガを描き続けてきたということは、やはりさっきも言ったように、僕に何とか粘りを与えてくれた中学時代があったからじゃないかと思っています。僕の信念は、この粘りと共にずーっと変わらないんじゃないかと思うんで、皆さんも、中学時代、高校時代の思い出というものを大事にして、大人になってから役に立てていただきたいと思うんです。
もっと、色々とお話ししたかったんですけれど、時間も来ましたんで最後にここで、もうちょっとマンガを描きまして皆さんに見ていただきます。