われら六稜人【第33回】風にまかせた夫婦人生
     著書『地球放浪〜夫婦で風まかせに生きてみる』(かもがわ出版)
    ISBN4-87699-494-3
    C0095 \1700E

    第9フライト
    自然の一部として生きる




      '99年の11月に念願の著書を自費出版しました。大阪にいる時から書き溜めてはいたのですが、こちらに来てから1年目ですね。知り合いに京都の出版社を紹介してもらって、大阪にも打ち合わせに行きました。装丁も知り合いのデザイナーに頼み、結構わがままを聞いてもらって(笑)。
      地元の新聞社の人に少しお話したら、いろんなところから取材が舞い込んで来ました。いわゆる「iターン」て言うんですか…都会から脱サラで来たというだけでも話題性があるのに、5年間も夫婦で世界を放浪して回ったというのも、この辺では珍しいので取り上げてもらえたようです。
      それで思ったより売れました。友達も本当にいっぱい買ってくれたんですけど、気をよくして増刷した分があと300冊くらい残ってるんです。みなさん、お気に召しましたら、どうぞ買ってやってください(笑)。

      不思議なもので、放浪中はまったくその気配も無かったのですが、長野の地に落ち着いた途端に妊娠しました。この7月21日に長女を出産、先週退院してきたばかりなんです。高齢出産でね。3,940gもあったんですよ。「無農薬野菜ばかりを食べていたので育ち過ぎちゃったのかな」なんて言われてたんですけど(笑)、予定日よりも11日も遅れてしまったので、無茶苦茶大きくて、本当に難産で、死ぬ思いでした。
      名前は「芽生(めい)」と名付けました。「芽生える」から取ったんです。この土地の子供になるので、農作業とか旅行とか一緒にできたらいいなと思います。この辺の若い人はみんな都会へ出て行ってしまうので、結構珍しがられて…近所の人たちも、自分の孫のように毎日顔を見に来てくださるんですよ。

      よく「田舎は閉鎖的だ」とか言われますけど、この辺りに関しては本当に親切で素朴な方ばかりですね。その点、非常に恵まれていて良かったなとつくづく思います。
      どこでもそうでしょうけど、いったんコミュニティーの中に入れば、それなりに開放的なんだと思います。もちろん、ある種のカルチャーショックはありますよ。近所の御葬式の時には何をおいても手伝うとか、地域共同の草刈り作業に出ないと罰金を取られるとかね。そういう行事は色々あります。要は、その地域のルールさえ理解していれば、溶け込めるのではないでしょうか。それで集団生活が成り立っているのですからね。
      物々交換のしくみもすごいですよ。毎日のように誰かが何かを持って来てくれるんです。うちも、その家で作っていない物をあげて…そうやっていろんなものがグルグルまわってます。そういう意味ですごく助かります。遅くまで農作業をしていたら「晩ごはん、できてるからね」って声をかけてくれたり。本当に有り難いですよね。


       
      世界のいろんな国を回って思ったのは、価値観がいろいろ様々ですからね。「こうでなくちゃいけない」なんて絶対的なものは世の中に無いんじゃないか、「みんながこうだから、自分もそうしなくちゃいけない」なんてこと…あまり考えなくていいんじゃないか。みんなそれぞれ違っていて、違っているからいいんじゃないかな…ということ。

      わたしも高校時代は、どちらかと言えば他人のことを気にして「みんながやってるから自分もやらなきゃ」「みんなが行くから行かなきゃ」という感じでしたけど、世界を旅して感じたのは「自分の価値感に自信を持て」ということでした。時には変わり者扱いもされますけど…特に日本では周囲を気にすることが美徳とされていますからね(笑)。
      もちろん「人に迷惑を掛けない」というような最低限のルールは守らなきゃダメですけど、それ以外については違っていていいんじゃないかな。

      それと、地球の大きさっていうか…自然の雄大さっていうか。実感しますね。

      わたしも高校の時は余り悩みませんでしたが、大学の時に人生の進路のこととか恋愛のこととかで悩んだ時期もあったんです。すごく落ち込んだりしてましたから。だけど、世界を回っていると、砂漠にしろ鍾乳洞にしろ…大自然は気が遠くなるような悠久の年月で出来上がっている。その中を歩いていたら、自分が生きている数十年間なんて…本当に短くて、些細で、その中でクヨクヨしていた自分が、すごくチッポケな存在にすら思えて来たりする。
      そういうスケール感を、この肌で実感できたのは一つ良かったことだと思います。ですから高校生のみなさんも、広く視野を広げて…若いうちにしかできないことを、後悔のないように、悔いを残さないように、取り組んでもらえたらいいんじゃないかと思いますね。

      わたしですか?
      もちろん、これからも精力的に活動したいと思っていますよ。

      さらに多くの国々を訪ね歩きたい。そういうのもあって、この仕事を選んだんですから。冬のあいだは農閑期なので、仕事は一応出来ないことになってます(笑)。その間2か月位はオフになるんです。今は子供が小さいのでとても連れては行けませんが、そのうち今度は子連れでアジアやアフリカ、中南米にまた行けたらいいなと思っています。
      もちろん、もう5年とか長い期間は無理でしょうけど。子供にも、いわゆる「貧乏旅行」の愉しさを味わわせてやりたいですね(子供にとっては迷惑かも知れませんけれど)。

       
      あと、田舎暮らしをして「人間も自然の一部なんだ」とつくづく痛感しています。わたしは農業も全く知らないままでこの地に来ましたけれど(今もほとんど夫がやってるんですけど)、やっぱり自然のサイクルに沿って生きるというのが、情緒も安定しますし「いいな」と感じますよ。
      都会では、どうしてもチグハグになっているところがありますよね。季節感もなく野菜は常にスーパーに並んでいて。でも、ここにいたら嫌というほど季節感があります。「旬」のものを食べるのが体には一番いいんでしょうしね。明るくなったら起きて、暗くなったら寝るという…太陽とともに暮らす自然のリズムというのが、わたしたちには良かったなと思っています。

      今年の4月に御近所の人たちとお味噌を作ったんです。すべて手作業で、梅干しを作ったり、干瓢を干したり…あぁいう事って大事だな、とこっちに来て感じましたね。第一、お年寄りが元気なんです。ここに来ると60才で定年なんて信じられませんよ。まだまだ若い。
      80才でも元気に畑に出ています。今朝も81才のおじぃちゃんが「枝豆できたよ」って持って来てくれて。そういう意味では、土と共に生きている幸せというのを感じていますね。そういうことも…機会があったら、ぜひ体験しておいて欲しいと思います。

      とくに北野高校なんか、十三という都会のまん中で…わたしも気に入って住んでましたけど(笑)…ネオンがチカチカしていますよね。それに比べると、田舎の暮らしは最初は寂しいかなと心配したんです。何しろ真っ暗ですからね。でも星が綺麗だったり、螢がいたり…それはそれで「すごく贅沢だな」と感じています。
      水と空気も美味しいし。都会ではそういったものはお金を出して買わないといけないでしょ。お金を出しても、もう買えなくなってきているんじゃないかな。そういう意味で、今は毎日がすごく充実しています。


    Update : Jul.23,2000