われら六稜人【号外】「いのちの携帯電話」が鳴った日
    第10病棟
    まだ実感はわかない…



      阪大医学部は…ご存知のように、緒方洪庵に始まるわが国の医学の伝統を背負って立っているワケです。僕の研究室にも洪庵の言葉を額に入れて飾ってあるし、彼が蘭学を日本で発展させ、それが今の阪大に繋がっている。そして初めての心臓移植手術が、その阪大で行われた…ある種の歴史的エポックだ、と。
      事実としてはそうなんだけど、内部にいる当事者としてみればね…そんな客観的に言われるような「感動」といかいうものは…少なくとも今の僕には実感としてありませんね。

      一例目を実施する場合に、やらなければならないことを阪大がシミュレーション通りにやったというだけで、当たり前に終わらせるという…ただそれだけが目標の11日間だったためか、まだそんなに「感激」なんてものは沸いて来ませんね。それよりは、僕が初めてメスを取った…移植なんかよりもはるかに簡単な(?)心臓の手術の時の方が、よっぽど感激しました。

      まだ、渦中にあるので…実感が無いだけなのかも知れませんが。1ヶ月…いや、何年か後になって、今回のことを思い出した時に、もしかしたら「感激」が込み上げてくるのかも知れませんね。

      今は、ただ…何も考えずにぐっすり眠りたい。それだけですね(笑)。


    Update : Mar.12,1999