どういう内容かというとね。原子爆弾よりもっと凄い爆弾を東西両陣営がそれぞれ開発した(芝居の中では原子弾という名前なんだけども)。
爆発すると地球の半分が壊滅するぐらいの威力を持ったこの原子弾を一方の陣営が「発射した」という情報が流れてしまうんです。それで…抑止力どころか、もう一つの陣営もやむを得ず対抗して発射してしまう。
2つの原子弾が地球のまわりをそれぞれ逆向きに回ってるわけね。それは25分経つと、向こうはこっちに、こっちはあっちにと、それぞれの陣営に到達して、地球は一巻の終り。全部が破滅して人類はいなくなる…そういう設定なんですよ。
さて、否応なしに原子弾は打ち上げられた。それはいま上空何万メートルを、敵陣営めがけて飛んでいる。さぁ、どうするか…。といったって、どうしようもないでしょ。
アト何分かすれば爆発する、人類が破滅する…それまでの間、まあ一種のパニックじゃないけども「人間はどうするだろうか」という極限を描写するんです。
ラジオがそれを刻一刻と放送するわけ。あと5分、あと3分…。それで10秒前、5秒前…というところで幕なんですよ。だから『5秒前』。あと5秒演ったら舞台もろとも吹き飛んで無くなっちゃう(笑)。そういうお話。
無責任な終り方? まぁ、そう言えなくもないけれど…5秒前で終ってしまうのだから、後は何も考える必要はないの。それでお終い。「いい芝居」も「悪い芝居」もへったくれもない(笑)。
続きは観た人がそれぞれ考えればいい。人間、ウカウカしていると人類破滅するぞ、というシリアスな警告劇でね。省内に「霞座」というアマチュアの劇団があって、共済会館という公共の大ホールを借りて一度だけ上演したんです。当時としては非常に面白いと言ってくれる人がたくさんいたんですがね。
戦時中にもね、実はかの陸軍中野学校へ配属されてたんです。小野田少尉なんかと同じ特務機関で、戸籍も抹消されてね。そのまま残っていたら今ごろは…ひょっとしたらB級かC級戦犯で…もう、どうなってたか分かんないでしょうね。
それが途中で原隊復帰を命じられて、中野学校を卒業しなかった。僕にはどういう訳だか分からなかったけれど…どうも天の配剤というのは不思議なもんです。