槌田 敦『JCO事故と原発事故』より

      3.今後の原発事故とその対策


      これから起こるかも知れない原発事故では、今回のような中性子線被曝はほとんど考えられません。仮にチェルノブイリのような臨界事故だったところで、原発は裸ではありません。格納容器に包まれており、原発の敷地境界の外へ届く量はごくわずかです。したがって、地方自治体が中性子測定器を多数購入しましたが、将来使うことはないと思われます。測定器の業者だけが儲けました。これも原子力の知識の不足です。

      原発事故でもっとも恐ろしいのは、原子炉が破壊されて、出来たばかりのヨウ素134などの若い放射能が煙となって流れてくることです。この煙に巻き込まれ、呼吸で体内にこの放射能が入ると10シーベルト以上の内部被曝をして、死亡することになります。
      1960年の原子力産業会議の計算では、廃炉になった小型の東海原発が事故を起こしたとすると、晴れている夜の事故の場合、700人を超える住民が、呼吸で放射能を吸い込み、死亡することになります。この報告書は、昨年までマル秘扱いでした。

      この被曝を防ぐ方法は、放射能の煙を吸い込まないようにすることです。そのためには、原発から10キロ以内の住民は放射能の煙に巻き込まれないようにともかく逃げることが必要です。自宅待機や公民館への退避では、放射能の煙に巻き込まれることになります。
      不幸にして放射能の煙に巻き込まれたときは、火事対策と同じです。鼻と口を濡らしたマスクや濡れ手ぬぐいで覆い、放射能の煙が身体に入らないようにします。これらの方法で身体に入る放射能を10分の1にして、10シーベルト以下にできれば、放射線障害にはかかりますが、放射能で死ぬことは防げます。さらに10分の1にして、1シーベルト以下にできれば、急性放射線障害にもかからないで済みます。

      今年の3月23日、福井県の敦賀で、住民を巻き込んだ防災訓練がありました。当日早朝から避難訓練の様子を見ていましたが、住民の誰も濡れマスクや手ぬぐいをしていませんでした。消防士もマスクもせず、事務服で被曝者をタンカーで運んでいました。警官も同じで、普段と変わらぬ交通整理をしていました。放射能の何が怖いのか、誰もが何も考えずに、防災訓練をしていたのです。
      それは、原子力や放射能の専門家といわれる人々が、原発事故で発生する放射能が煙状になって襲うという問題を考えようとしていないからです。そのため県や市の職員、消防士、警官はおざなりの訓練をすることになるのです。ここでも、日本の原子力のレベルの低さを見せつけられました。
      この敦賀の防災訓練では、ドイツのテレビ局のメンバーが取材していましたが、彼らがこの訓練を見て“childish”(「おままごと」)とあざけっていたことが気になります。


    Last Update: Mar.23,2000