この事故は「JCOが会社ぐるみで裏マニュアルを作り、従業員がさらに手抜きして、事故を起こした」とされています。これは「上司のいいかげんな指示にしたがって、運転員がでたらめな運転をしたので、チェルノブイリ事故になった」というのに似ています。
チェルノブイリの上司たちは裁判にかけられ、服役しましたが、悪いのは原子炉の方だということが分かって、後に釈放されました。
申請書やマニュアルで「臨界事故は絶対に起こらない」としていたのは、臨界事故を起こすような材料と装置を使わないことが前提です。実際、材料として天然ウランや原発に用いる5%程度の低濃縮ウランを扱うかぎり、バケツで溶かそうが問題の沈殿槽一杯に入れようが、事故にはならないのです。純粋のウランはプルトニウムと違って放射能が少ないので、バケツで扱っても、別に問題ではありません。
ウランには燃えるウランと燃えないウランがあることはご存じと思います。この燃えるウランの割合を濃縮度といっていますが、原爆に用いるウランの濃縮度は80%以上で、20キロ程度で臨界になり、核分裂反応が進行します。そこで、広島型ウラン原爆ではこのウランをふたつに分けておき、急速に合体させて核爆発させるのです。
原発用の濃縮度5%程度の低濃縮ウランは、そのままでは大量にあっても臨界になりません。そこで原発では数十トンの低濃縮ウランの燃料棒を水中にぶら下げて、臨界状態にします。この場合、水は危険物質で、核分裂反応を促進するのです。原発はこの臨界を制御棒で制御して運転し発電しているのです。
ところで、事故を起こしたJCOの作業は、動燃(現核燃サイクル機構)の「常陽」という特殊原子炉の燃料加工でした。これは濃縮度が20%程度の中濃縮ウランですが、粉末状態では危険はありません。しかし、これを10キロほどの濃厚水溶液にしますと臨界となる危険性があります。この臨界を防ぐには、装置のすべてを20センチ程度の細い管状にしておくなど工夫が必要です。これを形状臨界管理といいます。この臨界管理をしておけば、臨界事故はあり得ません。
東海村の事故は、この起こるはずのない臨界事故が起こってしまった、というものです。したがって、もっとも責任の重いのは当然JCOですが、原子力安全委と科技庁にも重大な責任があります。それはこのような危険な中濃縮ウランの水溶液を扱うのに、形状管理を徹底せず、直径50センチもある沈殿槽の使用を許可したからです。
さらに、動燃にもやはり重大な責任があります。そもそものJCOと動燃の契約は、粗製の中濃縮ウランの酸化物を精製して、粉末で動燃に納入することでした。この精製作業でもウランの水溶液を使うのですが、良質の沈殿を得るためには濃度の薄い水溶液を使うので、臨界になることはありませんでした。
ところが動燃は、この契約を変更して、濃度の濃いウランの硝酸溶液で納入することを要求したのです。これには臨界の危険が伴いますから、この作業に適合した新しい装置が必要です。しかし、動燃はこの装置を作るための資金をJCOに渡しませんでした。そこでJCOはそれまでの装置を目的外使用して、事故にしてしまったのです。つまり、この事故の直接の原因は動燃にあるのです。しかし、動燃のこの責任を追求する声はあがっていません。そして、JCOとその作業員だけが事故の責任を問われようとしています。