六稜トークリレー【第67回】 reporter:桂 典子さん@82期

講師中の森さん

「針目に込めた女たちの哀しみ」森南海子さん@64期

森先生が書かれた『手縫いの旅』と出合ったのは、数年前です。
私は高校で国語を教えて居ります。

教材として取り上げる時、出来る限り作品の時代背景等を調べますが、「千人針」については、一通りの知識しかありませんでした。丁度、在住の市でニ、三点 の千人針が展示されており、拝借したいと申し出ましたが断られました。千人針の性格上仕方のないことですが、残念な思いが残りました。

授業では、先生がなぜ困難な旅を重ねて千人針を収集しようとされたのかという点と、今生で最後になるかも知れない「贈り物」を愛する夫に・息子・兄弟・恋人に贈らねばならなかった女性たちの悲しみ、愛しい人を喪った無念さに焦点を当てました。
先生初め当時の多くの女性たちが「純真さ」ゆえに「愛する者」を「名誉の死」へと追い詰めた、時代の潮流の恐ろしさを「平和な」時代の若者達にこれからも伝えたいと思っております。

六十余点の千人針の展示

六十余点の千人針の展示は圧巻でした。
見事な虎の絵からは「千里征っても生還せよ」という思いが、縫い込められた五銭玉・十銭玉からは「死線・苦戦を乗り越えてどうぞご無事で…」という女性達の願いがひしひしと伝わってきます。
二つに裂けて綿が飛び出した物、血の跡が残っている物からは戦場に立たされた男性たちの断末魔の声が聞こえるようでした。展示を囲む多くの人の中で物言わぬ千人針たちは「時代の狂気」を静かに語り続けているようです。

これらを長年手元に置かれた森先生のお辛さは、私共の思い及ばぬことと拝察申し上げます。今は沖縄にある千人針を目にする機会は再び無いかも知れません。しっかり目に焼き付け、撮らせて頂いた写真は貴重な資料として活用させて頂きます。

桂さんの質問に答える森さん

最後に、千人針がどの戦争から始まったのか、どの地方の女性が始めたのかという質問にお答え下さってありがとうございます。起源は遥か日露戦争からで、どの地方から始まったのかは不明とのこと。
恐らく、一人の女性から燎原の火のようにあっという間に日本中の女性達の間に広まったのではないでしょうか。

私事乍ら、先日盧溝橋に参りました。平和で長閑な風景の中、龍の彫刻で飾られた美しい橋の下を川が静かに流れています。先生のご講演の直後でしたので、日 中戦争の火蓋が切られた地に立って、千人針を肌身離さず身に付けて戦った無数の男性達の姿が眼前にまざまざと浮かびました。

今回千載一遇の機会を得て、先生のお話を伺えましたことに、心より御礼申し上げます。
Last Update: Aug.18,2009

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