米虫節夫さん@71期(大阪市立大学 客員教授/食品ネットワーク最高顧問)
概略内容
1.今,消費者が食品に望むもの
2.食の安全と食料自給率
3.安全.安心は,消費者の望み?
4.食品安全基本法とゼロリスク
5.正しい情報が導く,誤った判断
1)こんにゃくゼリー事件
2)汚染米事件
3)エコナ事件
6.食育の必要性
7.食品衛生・食品安全の仕組み
1)食品衛生3原則
2)食品衛生7S
3)HACCP
4)ISO22000とFSSC22000
8.微生物テロとバイオディフェンス
9.結論
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H26.6.19
64期 栗岡 豊
第119回トークリレー報告
内容の豊富な講演であった。そのうち印象に残ったことを列挙する。
1. 食品衛生の7S
整理、整頓、清掃、洗浄、殺菌の5Sにしつけと清潔(微生物レベル)を加える。
最初の5Sはトヨタの品質管理でいわれていることであるが、それより2項目多い。
2. 食の安全・安心に関心を持ったのは、堺のO157事件からである。この事件は今までの問題とは全く異なっており、別の対応が必要であると考えた。それで、平成9年に食品安全ネットワークを設立した。
3. 食品安全委員会のホームページに、いろいろな問題に対して、「緊急事態への対応」が示されている。
4. 食品を選ぶときの指標として、おいしさ、品質、安全・安心、価格、便利さの5つがある。このうちのどの項目を重視するかはそのときの状況によって異なる。
5. ケネディ大統領は「消費者のもつ4つの権利」(1962.0318)を掲げている。その最初に安全であることの権利がある。この中に食の安全も当然含まれる。50年前にこの項目を重視したのは、そのブレインの優秀さを示すものであろう。後にクリントン大統領は、食の安全は農場から家庭のテーブルまで(From Farm to Table)と発言している。これは、生産者だけでなく、流通と消費者(消費の仕方)まで考えないといけないということである。
6. リスクゼロはあり得ない。その例を説明する。1958年のデラニー法で、サッカリンに発癌性があるということになり、使用が禁止された。その後の研究により、サッカリンは人の寿命を2日縮めるが、砂糖は平均余命を200日短縮することがわかった。今後砂糖の代わりにサッカリンが再び用いられるようになるかもしれない。
絶対安全な食品はない。安全な調理の仕方、消費の仕方があるだけである。
リスクは、発生確率×危害の程度である。また、リスクと恩恵を考えるべきである。
ISO31000はリスクマネージメントである。
7. 賞味期限は、すべての品質が保持される期間であり、賞味期限を過ぎても多くの場合、食べることができる。これに対して消費期限を過ぎると食品は急速に劣化する。各家庭で、冷蔵庫内の食品の賞味期限、消費期限がともすると把握できていない場合が多い。
8. スーパーなどで食品を購入する場合に、産地に注意する人が多い。これに対して、外食店では、産地表示が義務付けられていない。(我々は通常産地を知らずに食べている!)
9. 安心は個人の主観的評価である。安心=安全×信頼
サントリーや味の素は消費者の信頼を得るよう努力している。
10. 参考文献:米虫節夫 「食品流通が食の安全をおびやかす」日刊工業新聞社 (2010)
筆者は、米虫さんとは薬学部におられる時代から、品質管理分野での永年のお付き合いを頂いている。この講演では、醗酵工学を中心とし、薬学、農学、品質管理の技術を見事に凝集され、結実された結果を聞かせて頂いた。第119回のトークリレーに出席して宝物を得た想いがする。今後健康に留意され、さらなるご発展を期待したい。
(栗岡 豊、64期、味と匂い学会会員、食と健康研究会会員)